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◆死灰屠り(完/連)
第十六話
◇◇




螺旋状の外階段を一段、一段上る度、カンカンと音が響く。

およそ、三階部分に到着し、元々ドアが取り付けられていたのだろう、ぽっかりと開いた入り口から室内に入る。

部屋には蜘蛛の巣がひしめき合い、壁の到る所には、カビだろうか、黒く変色していた。

使われなくなって、どれ程の年月が経っているのかは、判らないが、以前は、何処かの事務所として、使用されていたのだろうと推測される。

なぜなら、事務机、椅子、ロッカーなどが、そのまま残され、ファイルや筆記用具すらも放置されているからだ。

「ここから……ほら、あのダークグリーンのカーテンの部屋が吉川の部屋よ」

そう言って、立て付けの悪そうな窓から指を差す、ボーイッシュというより、中性的な顔立ちの女性は、羽柴 楓(はしば かえで)。

真上探偵事務所の情報班の一人だ。

俺自身は、面識がないが、何度か名前を耳にした事がある。

「こんな短時間に良く調べられたわね。流石、楓」

春日は、手に持った調査結果の書類をヒラヒラとさせながら、羽柴に微笑みかける。

羽柴は、春日が羽柴に連絡をして、三時間程で、調査結果を持って俺達の前に現れた。

情報班の中でも、一、二を争う凄腕なのだそうだ。

「おだてても、何も出ないわよ?」

羽柴は、くすぐったそうに、クスリと笑う。

「ここ一ヶ月で、吉川と接触のあった人達の中で、怪我や事故、もしくは病気になった人達が十七人……」

「十七人って、多過ぎじゃないですか?」

普段、生活をしていて、周囲がそういった不幸に見舞われる人数というのは、一ヶ月で大体、数人が限度だ。

二桁になるなんて、よっぽどの事が無い限りありえない。

「時間があまりなかったから、ザッとしか調べられなかったんだけど……細かく調べれば、恐らく、もっと人数は増えると思うわ。……それから、彩季。まだ、全員は確認とって無いけど、多分、吉川でビンゴだと思う。石原が関係した人達で、被害に合ったのは十七人中の五人程。もちろん、杉田氏を含めてね」

「つまり、後の十二人は、石原さんには直接関係ないって訳ね?」

羽柴は、肯定するように、軽く頷く。

「ちょっ、待って下さい。今回の件は吉川さんが犯人なんですか!?」

あんなに、優しそうで、穏やかを絵に描いたような人が、呪詛を行っていたと?

俺には到底、信じられないが……。

春日は、困惑顔をした俺を、ジッと見上げ、雨や砂埃等で汚れきった窓に視線を移す。

その先には、カーテンが隙間なく閉められた吉川の部屋があった。

「……犯人かどうか、それを之から調べるのよ」


◇◇

廃墟であるビルが、すっかり暗闇に飲み込まれた頃、左京がひょっこり姿を現した。

「お弁当持ってきたわよ〜」

左京はそう言うと、手に持ったバスケットを「ほら」と掲げる。

「左京さん、有難うございます」

俺は、左京から、お弁当が入っている恭しくバスケットを受け取った。

ふんわりと食べ物の匂いが、嗅覚を掠める。

この匂いはハンバーグだろうか?

俺は、軽く胸を弾ませ、バスケットを近くの事務机に置いた。

「左京、ありがとう。右京は?」

春日は、窓際に立ったまま、ゆっくりと左京に振り返る。

「右京なら、杉田氏の所で見張りをしているわよ。私も、直ぐに右京の所に行くわ」

恐らく、今夜も杉田氏を狙って、あの巫女達が現れる。

杉田氏の安全を考えれば、二手に分かれた方がいい。

「そうね、お願い。くれぐれも、気を付けて」

「サエちゃん達もね」

春日と俺は同時に頷く。

左京は、ふと、何かに気付いたかのように、キョロキョロと辺りを見渡しだした。

「ところで、羽柴ちゃんは?」

「楓なら、呼び出し掛かって、少し前に帰ったわよ」

左京は、「そう」と呟くと、チラリと俺に視線を向けた。

そして、そのまま、俺に近付きボソリと春日に聞こえない声音で口を開く。

左京の耳打ちに、俺は、ボンっと煙が出そうな程、一気に顔が火照った。

俺が、あまりもの驚きに口をパクパクとさせていると、左京さんはニヤっと不適な笑みを浮かべながら、出口まで行き「それじゃ、何かあったら、直ぐに連絡するのよ〜」と足取り軽く去っていった。





◇◇

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