◆死灰屠り(完/連) 第十五話 ◇◇ 石原と吉川は、幼稚園時代からの幼馴染で、家が近いということもあり、家族ぐるみで仲が良く、二人はまるで、兄妹のように育ってきたそうだ。 幼稚園から大学まで、ずっと同じ学校に通い、言わば‘腐れ縁’なのだと言う。 石原が、高校生の時から入っていたモデル事務所を変えたのをきっかけに、吉川も大学卒業後、石原の所属するプロダクションに入社。 現在は、マネージャーとして、石原のサポートをしている。 「一人で、この仕事をするの不安だったんで……浩ちゃんに無理言って、今の会社に入ってもらったんです」 石原は、申し訳なさそうに肩を竦めた。 そんな石原を気遣うように、そっと、肩に手を添える。 「まぁ、俺もやりたい仕事があった訳じゃありませんし……意外に、この仕事って、遣り甲斐があって、楽しいですし……なにより、気弱な美弥乃を放っても置けませんしね」 そう言うと、吉川は優しく石原に微笑みかけ、俺達に視線を戻す。 「それで、杉田さんの入院と、美弥乃の不可思議な出来事とは……やはり関係があるんですか?」 吉川の問いに、俺は少し間をあけ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「‘関係が無い’……とは、言い切れませんね。逆に、‘関係ある’とも言い切れません。とりあえず、少し調べさせてもらってもいいですか?」 ◇◇◇ カッチカッチと鳴る、ハザードランプの点滅音と、春日の話し声を聞きながら、車の外を流れるように走っていく車達を、のんびりと目で追う。 暫らくすると、春日が携帯電話を耳から離しながら俺に視線を向けてきた。 「……杉田さん、また襲われたみたい」 「杉田さんが!?」 俺は、軽く目を見開き、身体を春日に向け座りなおす。 ギシリと俺の動きに合わせて車が揺れた。 「厳密に言えば、襲われた形跡が残っていたそうよ。右京の結界があったから、杉田さん自身は無事らしいけど……」 「襲った相手って……」 「……この間の奴と同じだろうって、右京が言ってたわ」 春日は、何かを考え込むように手に持っている携帯電話をじっと見つめる。 やはり、あの巫女達は、諦めず再度、杉田氏の命を狙ってきた。 俺は、あの時のおぞましい瘴気を思い出し、思わず身震いをする。 一昨日、杉田氏を襲った、巫女姿の女達。 春日の太刀で、斬られ退散したと思ったのだが……再び、杉田氏に接触してきた。 よほど、杉田氏を亡き者にしたいらしい。 とはいえ、巫女達の正体も、操っていると思われる首謀者も未だ判らないままだ。 「石原さん自身にも、家や周辺にも何の異常も見つからなかったし……手詰まりですね。もう一度、あの巫女達を待ち構えて、後を追ってみますか?」 「……それは無理でしょね。相手は呪術に明るいみたいだし……何らかの対策をとっている可能性が高いわ。次も同じ手が効くとは思えない」 確かに、心霊班の中で、一番に呪術に長けている左京の式神を返してきたような相手だ。 呪術に詳しい相手だと、考えるのが正しい。 だとすれば、こちらから下手にアクションを動かせば、しっぺ返しを、くらう事も考えられる。 どうしたものか…… 「……吉川さんの家って、石原さんのマンションの近くよね?」 春日は依然、携帯電話と、にらめっこしたまま、俺に問いかけてきた。 「そうらしいですね、えーっと……あ、あのマンションですよ」 俺は、車内の窓から辺りを見渡し、お目当ての、グレーの外観をしたマンションを指差す。 先程、石原の自宅に行った時に、吉川自身から聞いたのだ。 吉川は、マンションが近いほうが、送り迎えが楽なのだと言っていた。 送迎にスケジュール調整、モデルの世話にスタッフとの交流等……マネージャーという仕事は俺が思っている以上に大変なのだろう。 「どの部屋か判る?」 「いえ、そこまでは……吉川さんが、どうかしたのですか?」 「……うん、ちょっと気になる事があってね……」 春日は、カチカチと携帯電話のボタンを押しだした。 どうやら何処かに、電話を掛けるようだ。 「楓(かえで)?ちょっと、調べて欲しい事があるんだけど……」 ◇◇ [前へ][次へ] [戻る] |