◆死灰屠り(完/連) 第十四話 ◇◇ 「こちらにどうぞ」 吉川に案内され、六畳程の部屋に通された。 入り口の横には、手洗い場が付いており、そこから一段上がった所に、畳が敷かれ、中央には木製の机、左側面には、カウンターの様な物が付いてある。 俗に言う、芸能人の控え室という所だろう。 「とりあえず、上がって、くつろいでいて下さい。時期に石原もやって来ますんで。お茶は何がいいですか?緑茶、コーヒー、紅茶ぐらいしかありませんが、あ、甘いもの食べます?」 吉川はニコニコと笑いながら、テキパキと座布団を敷いていく。 「いえ、どうぞ、お構いなく」 「じゃぁ、コーヒーでいいですか?石原が撮影後には、いつもコーヒーなんで」 「はい、構いません。あの、あまり気を遣わないで下さい」 俺は、苦笑いを浮かべながら、吉川を見る。 吉川は「いや〜、こういう性分でして」と、明るく笑うと、室内から出て行った。 「随分と感じのいい人ですね」 常に笑顔で、さりげなく気遣う。 流石、マネージャーをやっていると言うだけの事はある。 「……そうね」 春日は、どこか気のない返事をしながら、敷かれた座布団に腰を下ろした。 続いて、俺も春日の隣に座る。 すると、直ぐに石原が部屋に姿を現せた。 「おまたせして、すいません」 石原は、軽く頭を下げ、俺達の向かい側へ座る。 「いいえ、こちらこそ、お忙しい中すいません」 俺も会釈程度に頭を下げ、居住まいを正す。 「いえ、……あの、そちらは?」 「真上探偵事務所、心霊担当の、春日といいます」 春日は、慣れた手つきで名刺を差し出す。 石原は、名刺を受け取り、暫らく黙ると、おずおずと口を開いた。 「……あの、病院で、会った方?右京さんと一緒に居てらした……」 「ええ、そうです」 「やっぱり。……その節は、逃げたりして、ごめんなさい」 石原は、心底申し訳なさそうな顔で謝る。 「いえ、お気になさらないで下さい」 そんな石原に、春日はふわりと柔らかく微笑んだ。 その微笑に石原も釣られて笑う。 「今日は、右京さんや、左京さんはいらっしゃらないんですか?」 「ええ、右京と左京は杉田さんの所へ、様子を見に行っています」 春日の言葉に、石原は苦笑いを浮かべ「そうですか」と頷く。 コンコンと、ノック音が響き、トレーにコーヒーを載せた吉川が部屋に入ってきた。 吉川は「いや〜、お待たせしてすいませんね〜。どうぞ〜」と、手際よくコーヒーを並べていく。 室内は、あっという間に、コーヒーの香ばしい香りに満たされていった。 ひと段落着いたところで、俺は、話を切り出す。 「では、少しお聞きしたい事があるのですが、よろしいですか?」 石原は俺の言葉に静かに頷く。 「石原さんが好意を寄せた人、もしくは、嫌悪感も持った人などに、不可思議な事が起きるのですよね?」 「はい」 「それは、いつ頃からなのですか?」 石原は、悩むように少し俯きながら話す。 「……いつから……というのは、はっきりとは判らないんですが……気付いたには、中学三年生ぐらいの時だったかしら」 「いや、中二の時じゃないか?俺、その頃、美弥乃から、そんな話、聞いた記憶あるし」 突然、吉川が口を挟んできた。 「そうだっけ?……あ、そうかもしれない」 「だろ?」 二人の会話に、俺の脳内で、疑問が浮上する。 「あの、お二人は、昔からの知り合いか、なにかですか?」 俺の問いに、石原と吉川は、お互いに見つめ合い、直ぐに俺達に向き直ると『幼馴染です』と、口を揃えて言った。 ◇◇◆ [前へ][次へ] [戻る] |