◆死灰屠り(完/連) 第十一話 ◇◇ 「山西さん、落ち着いてください!!」 俺は、石原に掴み掛かる山西を羽交い絞めにし、石原から引き離すように距離をとる。 すかさず、右京が石原を守るように自身の背中の方へと移動させた。 「石原さん、大丈夫ですか?」 「は、はい」 石原は右京の背後で縮こまる様に身を隠しながら返事をする。 「石原さん、どうか山西さんを責めないで下さい。彼は本当にご友人を心から心配なさっているだけなのです」 右京の言葉に、石原は“解っています”といわんばかりに頷いた。 「私は、杉田さんを恨んでなんかいません。……むしろ、私は彼を……いえ、その……彼とは付き合っていて……その……」 そう言葉を発した石原は、顔を赤くし俯いてしまった。 その様子を見ていた山西に至っては、呆然と口を開けて固まっている。 恐らく、山西にとって、寝耳に水な話だったのだろう。 以前に、山西から杉田氏はプライベートな事を一切話さない人だという話を聞いた事があった。 つまりは、杉田氏は、本当に、プライベートな事は何も話さない人なのだと実証された訳だ。 しかし……若いし、可愛いいし、しかもモデルなこの女性と杉田氏が……。 俺なら、周りに言いふらして回りそうなモノなのだが、やはり、こういう業界では、あまり大っぴらに出来るモノではないのだろう。 「では、石原さんは杉田さんの恋人なのですね?」 右京の直球の言葉に、石原は益々顔を赤らめるものの、「はい」と返事を返した。 「それでは何故、今回の件が、石原さんの所為だと思われるのです?」 石原は戸惑った様子ながらも、意を決したように口を開く。 「……以前にも……同じような事があったんです」 「同じような事……ですか?」 右京は眉間に深く皺を刻み、問い返す。 「……私と付き合った人はもちろん、私が好意を寄せた人、私が嫌いな人なんかも……なぜか皆、病気になったり、事故に遭ったりするんです。それでも、杉田さんに比べれば軽いものだったんです。命に関わるような事は今までありませんでした。なのに、なんで杉田さんだけが……」 石原は、自身を抱きしめるように腕を組み、細い肩を震わせながら俯いた。 艶やかな、長い髪が石原の表情を隠してしまっているが、微かに嗚咽が聞こえてくる。 その場に居た俺達は、静かに彼女を見守る事しか出来なかった。 ◆◇◆ 青々とした木々に囲まれた屋敷の敷地の一角、体育館の半分程の広さの社に、真っ白な袴を着た春日の姿があった。 パチリ、パチリと薪が燃える音に混じり、獣のような、うなり声が響く。 春日は、青い光が纏わり付く刀を構え、ある一点に視線を集中させている。 その先にあるものは、異様なまでに右肩が盛り上がった上半身裸の男が立っていた。 「俺を切れば、この男も傷つくぞ?下手すりゃ、死んじまうんじゃないかぁ?」 挑戦的な声色で発せられた言葉は、男の口からではなく、男の盛り上がった肩から聞こえてくる。 「ま、あんたが傷つけなくても、俺がこの男を殺してやるんだがな」 クククと、下卑た笑いを発する、その肩には、口元を吊り上げ、人を見下すような目つきの、厭らしい顔つきをした男の顔が浮かび上がっていた。 春日は、躊躇なく、ふわりとその醜い顔とは正反対な、自身の佳麗な顔を近づける。 と、同時に持っていた刀でその肩を貫いた。 「っっ、おまえっ……」 肩に浮かんだ男の表情が苦痛に歪む。 「残念ね。私の刀は、生あるものは切れないの」 そう言うと、春日は肩に突き刺した刀をゆっくりと抜き去る。 「どうか、安らかに……」 男の肩から、淡い、色とりどりの光が溢れ出し、空中に溶けるように消えていった。 ◆◆ [前へ][次へ] [戻る] |