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◆死灰屠り(完/連)
第十話
◇◇



病室の白い床に落ちている札を拾いながら、俺は呟く様に口を開いた。

「今のって、もしかして……」

その呟きに答えたのは、蒼焔の額を撫でている春日だ。

「……逆凪ね」

逆凪(さかなぎ)とは、「術」と呼ばれるもの(法術や呪術)を使うと、その場で何かしらの効果を得た対価として、「逆凪」と言うモノが術を使用した者に返ってくる事を言う。

術の威力に比例し、返ってくる逆凪もまた大きくなる。

ゆえに、術者は何らかの方法でその逆凪を受け止める、流す、無効化する術を持っているのだ。

だが、術を破られた時、逆凪はその術の威力より更に上回る力で、術者の元に返ってくる。

そう、先程の左京のように……。

「左京、大事ないか?」

右京は、気遣うように左京の背中に手をそっと当てる。

「大丈夫よ〜、それよりもごめんなさいね、巻き込んじゃって。皆が手助けしてくれたから助かっちゃったわ、ありがとうね〜」

左京は、にっこりと俺達に微笑んだ。

「皆が無事で、なによりよ」

春日は軽く安堵の息を吐きながら、俺の肩にポンと手を置き、「杉田さんの様子を見に行って来る」と部屋を出て行った。

『失敗しても、私達がフォローする。……私達は仲間でしょう?』

春日の言葉が脳裏を掠め、先程、春日の手が置かれた肩が、じんわりと暖かくなったような気がした。


◇◆◇


杉田氏にも異常はなく、俺達は部屋の片づけをしていた。

右京が壁に放った小刀の穴……このままでいいのだろうか?

やはり、弁償だろうか?と、俺が、壁とにらめっこをしていると、春日の声が室内に流れた。

「……もしかしたら、私が切ったあの巫女……逆凪避けだったのかもしれない」

春日が考え込むようにしながら、人形(ひとがた)が置かれていたベッドに腰をかけた。

そして、人形を手に取り、こちらに視線を向ける。

「どういうことだ?」

微かに眉根を顰めた右京が、春日に問いかけた。

「うん、切った時の手ごたえが……おかしかったのよね。なんだか、藁人形を切ったみたいな感じで……妙に手ごたえがなかったのよ」

右京は「ふむ」と、唸り、形の良い顎に手を添える。

「……つまり、あの細身の巫女が逆凪避けで、呪いを唱えていた方が本体って訳か」

「おそらく」

春日は軽く頷き、手に持っていた人形を無造作に放り投げる。

その瞬間、人形から青白い炎が上がり、人形は炎に飲み込まれるように消えていった。


◆◆

―翌日:真上探偵事務所別館―



「熱い内にどうぞ〜」

左京が、淹れたてのお茶をテーブルに置いて回る。

緑茶の香ばしい香りが事務所内に漂う中、右京、左京、山西、俺の他に、スラリとした女性が表情を強張らしながらソファーに座っていた。

彼女の名前は石原 美弥乃(いしはら みやの)。

先日、病院で、春日と右京に追いかけられていた、不信な女性だ。

彼女は最近、売れ出してきたモデルだそうで、以前に、山西が関わっている雑誌で特集を組んだことがあったそうだ。

そして、杉田氏とも面識があるという。

「石原さんは、なぜ病院の方に?」

右京の問いかけに、石原はビクリと肩を震わせる。

「……杉田さんの様子を……見に行ってたんです」

石原は、酷く緊張した面持ちで、消え入るような小さな声で答えた。

「美弥乃ちゃんは、杉田と仲良かったの?」

山西は、何処か気遣うように優しく話し掛ける。

そんな、山西の問いに、小さく頷くと、膝に置いていた手をギュッと握り締め顔を上げた。

「あの、もしかしたら、杉田さんがあんな風になってしまったのは……私の所為かもしれないんです」

「えっ!?……じゃぁ、美弥乃ちゃんが杉田に呪詛を?……何故だ!?何故、杉田を恨んだりするんだっ!杉田が何をしたと言うんだよ!!」

山西は人が変わったように怒鳴りつけると、石原の肩を強く掴み揺さぶりながら詰め寄る。

石原は小さな悲鳴を上げ、掴まれた肩が痛いのか苦痛に顔を歪ませた。




◆◆



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あきゅろす。
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