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◆死灰屠り(完/連)
第十七話
◆◆


「そうか」と、呟く右京の声には、既に予測していたという意味合いが含まれているようだった。

もともと、被害者である田所氏は、春日に会いに来る予定だったのだ。

霊的なモノが関わっていたとしても、なんら不思議ではない。

「……ですが、対象者に傷を付ける呪詛なんて、聞いたことがありませんよ?」

俺が知っている呪詛は、様々な形はあれど、大まかには、対象者の気を狂わせ、身体、精神に害となる影響を与えるというモノだけだ。

直接、対象に怪我を負わせるとなると――俺の脳裏に浮かぶのは、のどかな田舎であった犬神の事件だ。

だが、あの時の被害者には呪詛のような痕跡は見当たらなかった。

「呪詛もだけど、術と呼ばれるモノや、式神、要君が使っている術札や私が使っている小刀なんかも、結局は力を使う媒介にしか過ぎないのよね」

ゆるく腕を組んだ左京が、ぼんやりと宙を見上げた。

「私達は固定観念が出来上がってしまっているから想像できないだけで……力の使用幅は無限に広がっているのよ。こんな呪詛があっても、おかしくはないわ」

力を使うには、何かを媒体にするのが、使いやすく、また力も安定させやすい。

例えば、力そのものは材料で、使用する道具によって、出来上がる代物が変わっていく。

ようするに、この道具を使えば、出来上がりはコレだと、決めきっているのだ。

つまりそれが、左京の言う、固定観念。

俺達は、この固定観念でしか、力を使う術を知らない。

仕上がるモノが決まっていれば、力を動かすイメージも湧きやすい。

故に安定した術を使える訳だが、言い換えれば力の動かし方が判っていれば、道具に左右される事なく、出来上がりを自分が望む形で具現化させる事も可能ということだ。

こういう力の使い方をする人は――元心霊班統括、山瀬 四郎が、一番この形に近いかもしれない。

「今回、田所氏を死に至らしめたこの力は、我々にとって未知の力かもしれないという事か」

眉間に深い皺を刻んだ右京は、ストレッチャーに横たわる田所氏を見据え、さらに皺を色濃くさせた。

「あの、右京さん、そろそろ時間なのですが……」

申し訳なさそうに、眉を八の字に下げた翔が、恐る恐る声を掛けてきた。

「ああ、はい。お時間をとらせてしまい申し訳ありません。助かりました」

「いえいえ、俺はこれぐらいしかお役に立てませんから。早く事件が解決する事を祈っています」

「全力を尽くします」

苦笑する右京に、翔も同じ様な表情を浮かべた。

「結城、車が到着したぞ」

そう声を掛けてきたのは、先ほどこの部屋にいた男性だ。

「判りました。直ぐに用意します」

翔の返事を聞いた男性は、大きく頷くと、再び廊下へと消えて行った。

パサリと布にしては、硬い音を立て、田所氏の上に銀色のシートを被せていく翔を見ながら、問いかける。

「車って、どこかへ行かれるのですか?」

「いえ、俺じゃなくて、田所さんのお迎えですよ」

すっぽりとシートに覆われた田所氏を前にし、翔は僅かに俯く。

「こんな形の帰宅だなん……ご家族の方達にしてみれば、堪ったもんじゃないでしょうね」

憂いを帯びたその声は、聞いているだけで胸が締め付けられるほど、苦しい響きをしていた。


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あきゅろす。
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