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◆死灰屠り(完/連)
第二十三話



異形の者の躯から出てきた、白や、淡い青や緑といった光りは上昇しながら空気に溶けるかのように消えていく。

そして、骸はサラサラと灰のように掻き消えていった。

最後に残ったのは、半透明で、目元を吊り上げ、こちらを怒りの形相で睨んでいる女性。

「な、杏……子……お前、杏子(きょうこ)か……?」

突然の聞き慣れない声が響き、春日達はその音源へと一斉に振り向く。

「皆、無事か?」

そこには右京と、春日達には見慣れない中年の男性が立っていた。

「……福山か」

佐々木の言葉を聞き、春日達は右京に視線を移す。

右京は黙ったまま一つ頷いた。

「……杏子さんというのは?」

春日の問いに、呆然とした様子の福山が口を開いた。

「息子……聡の……産みの母親だ。……何故、お前がここにいるんだ? お前はあの時に死んだはずだろう?! ここで、何をしているんだ?!」

福山は口の端から泡を飛ばしながら、顔を赤らめ激怒する。

「福山さん、落ち着いて下さい」

右京は冷淡な声色で言い放つと、杏子の下へ歩み寄り、掌に納まる程の大きさをしたナイフをスーツの上着胸ポケットから四本取り出した。

そして、杏子を中心とした四方の床にそれぞれ1本ずつ付き刺していく。

右京の手が素早く印を結ぶと、淡いグリーンの光りが四本のナイフに燈る。

「これで、話しが出来る筈です。何か、おっしゃりたい事はありますか?」

『……あの男が憎い。私を殺し、息子を奪ったあの男っ!!』

杏子は涙を流し、春日達を睨み据えた。

「な、何を言う!! 私はお前を殺したりしていない! 濡れ衣だっ!」

福山は、杏子に指をさし言い放つ。

『……私はあの男に殺された。私をマンションから付き落としたあの男……私から子供を奪うために……私を殺し、私を聡から引き離した………』

そう言うと杏子は自分の肩を抱きしゃがみ込んだ。

「……福山、お前……」

佐々木は、福山に視線を移す。

福山は更に、顔を紅潮させて、怒鳴り散らした。

「い、言い掛かりだ!私はそんな事はしていない!!」

そんな福山に右京は軽く溜息をつくと、杏子に話し掛けた。

「貴方が、五人もの人達を殺したのですか?」

『……だってあの人、また私から子供を奪おうとするんですもの。やっと手に入れたのに……私は聡と一緒に居たいだけなのに……何度も何度も………』

「……判っていないのね。子供を想う余り、何も見えていない」

春日は眉を寄せ、目を伏せた。

小泉は、そんな春日を見つめ、そっと肩に手を置く。

「降霊術での失敗も……あの人が聡君を隠していたんですね。死んでもなお、誰にも連れて行かれないように。それこそ魂まで」

ふと、小泉は杏子の背後に少年が立っているのに気が付いた。

「聡!?」

福山は、目を見開き一歩身体を前に踏み出す。

聡は、しゃがみ込んでいる杏子の肩に優しく手を掛けた。

それに気付いた杏子が顔を上げる。

先程までの表情が嘘であったかのように、杏子の表情は穏やかな笑顔に変わった。

聡は杏子にニッコリと微笑むと、春日に顔を向けた。

『お姉ちゃん、力を……貸してくれる?』

春日は、苦笑いを浮かべながらも、優しく告げる。

「どこまで払えるかは解らないけれど、それでいいのなら手伝うわ」

そう言うと、春日は刀を青白い焔に変え、杏子に放った。

春日から離れ、杏子に纏わり付いた青白い炎は、徐々にどす黒い紫色に変色していく。

そして、焔が消えるのと同時に、春日も意識を手放した。

床に倒れ込む前に、いつの間にか春日の背後に回っていた右京が春日の身体を支える。

『有り難う、お姉ちゃん』

無邪気な笑顔を浮かべた聡は、その言葉を最後に、杏子と共に夕闇に溶け込むように消えていった。





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あきゅろす。
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