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◆死灰屠り(完/連)
第二十一話



陽が傾き、洋館内が朱に染まる中、左京達は壁の取り壊しを進めていた。

予想以上に、壁は強固な造りになっていて、更に追い討ちをかける如く、電気機器関係が一切使えない。

「はぁ、電気は通っている筈なのに何で、機械が一切使えないんだ!! せめて、電気ドリルでも使えたら、こんなに苦労しなくて済むのに!!」

小泉は痺れる手を我慢しながら鬱憤を晴らすかの如く鶴嘴を壁に打ち付ける。

そんな小泉を横目に左京は鶴嘴を床に置いた。

「しょうがないでしょー、何故か使えなくなっちゃうんだから。ほら、要君、ちょっと下がって」

そういうと、左京は腰を落とし、大人の頭ぐらいの木槌を構え、壁に勢いよく叩きつけた。

大きな音と共に木片や土埃、コンクリート片が辺りに散らばり落ちる。

小泉は咄嗟に袖口で自身の鼻と口を覆った。

「開きそうですか?」

「ええ、いけそうな感じよ。そら、もう一丁!」

左京は、更に大きく振りかぶり、渾身の力を入れ壁に叩きつけた。

木槌を叩き付けられた壁は、一際大きな音を立てて、噴煙を撒き散らしながら崩れ落ちていく。

小泉と左京は開いた壁の奥に視線を移した。

パラパラと細かい破片が落ちる音に混じり、微かに薄暗い部屋の中から、咳き込む声が聞こえてくる。

「……サエ!!」

小泉は春日の名前を呼びながら、足元のコンクリート片を踏み付け、声のする方へ近付いた。

「……要?」

そこには、眩しそうに目をしかめた春日の姿があった。

小泉は、急いで春日の元へ駆け寄り、自らの腕で春日の華奢な身体を抱きしめる。

そして、心の奥底から深い安堵の溜め息が漏れた。

「無事でよかった……」

微かに震える声でそう呟く。

春日は、小泉の突然の行動にキョトンとしながらも、ふっと軽く笑むと小泉の背中をポンポンと、優しく叩いた。

その様子を見ていた左京は苦笑いを浮かべながら、佐々木の下へと近付く。

「佐々木さん、お怪我はありませんか?」

「あ、ああ、大丈夫だ」

佐々木は目の前の光景に呆気にとられていたのか、少々上擦った声で返答した。

そして、軽く首を捻る。

「あの二人は、そういう関係だったのか?」

「えぇっ!?」

「……違います」

小泉と春日、二人それぞれの返答が飛んできた。

左京は、笑いを堪えるかのように口元を手で覆うと春日達から顔を背ける。

小泉はどこか複雑そうな表情を残しながら、春日から離れると、改めて辺りを見渡した。

「本当に秘密の部屋が、あったんですね」

「みたいね。側面は勿論、床も天井もコンクリート……」

思わず言葉に詰まった春日の目前には、夕焼けの光により、今まで見えなかった異様な光景が照らしだされていた。

天井の粗悪に塗られたコンクリートから、はみ出した無数の手や足、髪の毛や衣服。

それらには、明らかに生気は感じられず、まるで壊れた人形の部品のように天井に埋め込まれていた。

佐々木は、歯を食いしばり、拳を強く握ると、無言のままコンクリートの壁に強く打ち付ける。

「……まさか、これ、行方不明になった……」

小泉は蒼白になりながら、春日に視線を向けた。

「……恐らく、そうでしょうね」

いつの間にか、刀から戻った蒼焔が、春日を気遣うかの様に自身の身体を擦り寄せている。

春日は、軽くしゃがみ、蒼焔を撫でた。

「……左京、福山の……聡君の母親ってどうしているの?」

「詳しくは右京に聞かなきゃ判らないけど……入院中だそうよ」

「生きているのか!?」

佐々木は勢いよく顔を上げ左京を振り返った。

その様子に左京は訝しげな表情を浮かべる。

「何かあった……」

「何か来ます!!」

左京の言葉を遮り、緊迫した小泉の声が部屋に響く。

「左京、要、佐々木さんを!!」

「はい!」

「ええ」

小泉達は春日の指示により、佐々木を守るように左右に付く。

そして、先程の小泉の言葉が正しかったと証明するように、周囲の空気が急速に冷えていった。





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あきゅろす。
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