◆死灰屠り(完/連)
第十九話
※
「では、息子さんは実の母親に……殺されたという事ですか?」
「……ああ。今、思えば、アレは壊れていたんだ」
福山は苦々しい表情で窓の外に目をやる。
窓の外には生い茂った木々が車のスピードと共に流れていた。
「全く、あの女は厄介事尽くしだ。厄介事が起こる度に手回ししなきゃならん。随分と苦労させられたものだ」
「奥様は今どちらに?」
「……病院だ。あの日からずっと眠ったままだ。このまま、眠ってくれている方が私には有難い」
「……そうですか」
右京が頷いた時、スーツの胸ポケットから電子音が鳴り響いた。
福山に軽く断りを入れ、携帯電話に出る。
数分間やり取りをした後、携帯電話を切り、福山に伝えた。
「これから、例の壁を壊しに掛かるそうです」
福山は軽く右京に視線を移し、直ぐにまた、窓の外に目を向けると「そうか」と、呟いた。
――三年前――
福山の妻である静江(しずえ)は、当時五歳の息子、聡(さとる)を食事も与えず五日間もの間、部屋に閉じ込めた。
当時、仕事で忙しく殆ど自宅に戻っていなかった福山は、当然その事には気付かず、気付いた時には、丸々五日の日にちが流れていた為、聡は既に衰弱しきっていた。
すぐさま病院へ運ばれ、懸命な処置を施したが、結局そのまま死亡した。
母親でもある静江は、聡を部屋から救出した時、気が狂ったかのように暴れ、その時に運悪く階段を踏み外し転落した。
後頭部を強く打ち付け、意識を失ったまま、未だ目覚めていない――
右京は福山から聞いた話しを手帳に軽くまとめながら、思考を巡らしていく。
何故、母親は息子を部屋に閉じ込めたのだろうか。
虐待か……それとも何か他に理由があったのだろうか。
あるいは、福山のいう通り、母親は狂っていたのだろうか。
あの邸で何人もの人が消える現象。
死霊が原因だとするならば、福山の息子でもある聡が一番可能性があるが……では、動機はなんだ?
閉じ込められ殺された恨みから色んな人に害をなしているのか?
いや、行方不明者は三十代から四十代の男性だ。
丁度、福山と同じ年代でもある。
だとしたら、寂しさから父親を求めているのだろうか?
「若宮……と、いったな?」
福山の声に、右京の思考が中断された。
「はい」
福山はギラギラとした脂っぽい目付きで、右京を見下す。
「判っているとは思うが、私がこうしてお前に付き合ってやっているのは、御前の命があっての事。今回の事は他言無用だ。もし、リークしようとしたものなら、お前は当然、くだらない探偵社も、その従業員さえも未来は無いと思え。私の力をもてば、それぐらいたやすい事だからな」
手に入れた権力を自らの欲と、体裁の為に振るうこの男。
こんな男を右京は何人も見てきた。
金や富、自らの幸せにしか、自分の存在意義を見出せない、愚かな人間だ。
くだらない。
そう、思いながらも右京は「……判っています」と、機械的に返事をした。
※
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