◆死灰屠り(完/連)
第十八話
※
「開かない……か」
佐々木はドアに手を付き、春日に振り返る。
「なぁ、ここって、もしかして……」
「えぇ……私も佐々木さんと同意見です。例の……部屋でしょうね」
図面上にしか存在しない隠された部屋。
物理的には入口も出口も存在しない。
暗闇の中、二人は蒼焔の光りを頼りに歩を進めたが直ぐにコンクリートの壁に行く手を阻まれてしまった。
そしてそのまま壁に沿って歩いてみると又直ぐに壁に阻まれる。
更に壁に添って歩くと、黒いドアが目に入った。
佐々木は、そのドアに付いてあるドアノブに手をかけたが、虚しくガチャガチャと音色を響かすだけでドアはビクリとも動かない。
そこで、二人でドアに体当たりもしてみたが、やはり開く事はなかった。
「もしかして、出口はない……のか?」
「おそらく、そうでしょうね」
外から見た限り、此処は完全に壁に覆われていた。
そして内側は全てコンクリートに覆われている。
つまり内側からは、なす術は無いという事だ。
左京達が救出しに来てくれるのを待つしかない。
幸い、この部屋を調べようとした矢先の出来事だ、左京達なら直ぐに此処に辿りつくはずだ。
春日は、隣に居る佐々木を見上げる。
態度には表さないが、佐々木さんの体力は限界にきているのだろう。
話す声にも、いつもの覇気が感じられない。
ならば今は、無闇に動き回らず、佐々木さんの体力を少しでも回復させ、救出が来るまで身を守るのが得策だ。
「佐々木さん、今は身体を休めましょう。身体……辛いでしょう?」
春日は出来る限り微笑みながら佐々木に身体を休めるように促す。
佐々木は、少し戸惑ったような様子を見せたが、直ぐに口元を緩め「解った」と、頷いた。
ユラユラと揺れる青白い光りを瞳に映しながら、蒼焔の頭を撫でてやると、蒼焔もまた犬のように眼を細め、身を任せるように春日に寄り添う。
「……なぁ」
「なんですか?」
佐々木は照れを隠す様に頭をガシガシと掻いた。
「俺が意識を失っていた時……もしかして……ずっと手を繋いでいてくれたのか?」
佐々木の照れたような、ぶっきらぼうな声色に春日は自然と口元が緩んだ。
「そうですよ」
佐々木は春日から目を逸らすと気まずそうに笑う。
「そうか、やっぱりな」
「やっぱり?」
「ああ、俺が山岡と会っている時、何故か右手だけが動かなくてな」
佐々木は自身の右手に視線を向けた。
「痺れてるって訳でもないのに、誰かに強く掴まれているように手が動かなかったんだ。あれは……嬢ちゃん、だったんだな」
ふと、佐々木は眉間に皺を刻ませた。
……あの少年は何者だったのだろう。
あの少年が、記憶を思いださせてくれなかったら、俺はどうなっていたんだろか?
山岡は、何の為に俺の前に姿を現したのだろう。
『佐々木……それ以上……思いだすな』
山岡のあの言葉……
もしかしたら山岡は、俺をあの場所に繋ぎ留めるつもりだったのかもしれない。
あの空間に繋ぎ留める。
それは……
「佐々木さん」
佐々木は、春日の声にはっと顔を上げる。
春日は、周囲に鋭く視線を向けながら佐々木の手を掴んだ。
「どうかしたのか?」
佐々木がそう言葉を発したと同時に、辺りの空気が一気に冷たいモノへと変わっていった。
※
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