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◆死灰屠り(完/連)
第十七話




ゆらゆらと蒼い光が揺れている

それは水のように優しく

それは炎のように力強く




「気がつきましたか?」

聞いた事のある凛とした声が俺の耳に入って来た。

俺は、声のする方へ視線だけを向ける。

だが、辺りは闇夜のように薄暗く、うっすらとした輪郭しか判らない。

「……嬢ちゃんか?」

春日は、コクリと一つ頷くと、俺を起こすのを手伝うように、背中に手を回してきた。

「すまんな」

俺は春日の手を借り、身体を起こす。

強い疲労感の所為か、身体が異様に重い。

辺りを見渡すと、真っ暗な暗闇が広がっている。

その暗闇の中、俺の足元に青白い光りを纏った犬がいた。

いや、正確には犬のような物体とでもいうのだろうか。

青白い光りは陽炎のようにユラユラと揺れ動き、その犬自体の輪郭があやふやに消えては現れる。

それは、炎のような、または水面に映る波紋のような不思議な光りだ。

そして、真紅に近い二つの眼が静かに俺を見ているが、不思議と恐さは感じられない。

「アレの名前は蒼焔(ソウエン)。私の……分身のようなものです」

春日は蒼焔と呼ばれるモノにゆっくりと身体を向けた。

「……これは、犬なのか?」

犬ではないだろうと思いながらも春日に問う。

「いいえ」

春日は、軽く首を横に振る。

「蒼焔は命あるものではないんです。ですが、私を護ってくれる……存在です」

「……そうか」

俺は、一つ頷き、それ以上の追究を止めた。

春日を守る存在なら、蒼焔と呼ばれるアレは、敵ではないだろう。

今は、それだけ判ればいい。

「所で、ここは何処だ?」

周りは漆黒の闇。

蒼焔から発っせられる青白い光りで、なんとか互いの姿が確認出来るといった状態だった。

「判りません。どうやら私達は、あの邸に住む何モノかに、ここに連れられて来たみたいですが……」

そういうと、春日は俺の首元に手を置き、ホッとしたように呟いた。

「体温戻っていますね」

「俺は、どうなっていたんだ?」

「私が気付いた時には、佐々木さんは意識がありませんでした。その内、体温も低下していって……」

「俺は眠っていたのか?」

「そうです。ですが、厳密にいうと魂が捕らえられた状態でした」

「魂?」

「簡単にいうと、人の核みたいなものです。核があるから、佐々木さんは、佐々木さんとして存在出来るんです」

「それが捕らえられていた?」

「はい」

俺は、少し俯き、自分の手を見た。

魂が捉えられていた。

それが本当ならば、あの場所は――

「……山岡に会ったんだ」

その言葉に春日は驚いたように息を呑んだ。

「……あいつは……もう……」

俺は、両手を力一杯握り締めた。

グッと目頭に熱が集まってくる。

――助けてやれなかった。

――間に合わなかった。

そんな俺を、山岡は笑って許してくれた――

「……山岡と約束したんだ。山岡の最後の頼みだ。何としてでも叶えてやらないと」

「もしかしたら、山岡さんが、佐々木さんをこちらに呼び戻してくれたのかもしれませんね」

「……そう……なんだろうか」

「佐々木さん?」

俺は、意識を失った後の出来事を春日に話した。

気が付いたら、職場にいた事。

山岡と会った事。

見知らぬ少年に会った事。

少年がきっかけで、この事件の事、春日達の事を思い出した事。

「そう……だったんですか」

春日は微かに眉根をしかめると、静かに頷く。

「とりあえず、今は、ここから出る方法を考えましょう。左京達も探してくれているはずです」

「ああ、そうだな」

俺達は立ち上がり、暗闇に向かって一歩踏み出す事にした。





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あきゅろす。
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