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◆死灰屠り(完/連)
第十二話



春日と佐々木を守るように前方に左京、後方に小泉といった並びで薄暗い館内を進んで行く。

「さてと、ここよね」

左京は目前にそびえる壁に視線を向けた。

綺麗に修繕されているのか、壁は修繕跡や違和感もなく、元々そこに在ったかの如く佇んでいる。

「こうやって見る分には、特に変わった所はないわねぇ」

「ああ、そうだな」

「ここの窓、開けてみますか?」

小泉は通路の窓を指差して佐々木達に問い掛ける。

「そうね、お願い」

「分かりました」

小泉は一つ頷くと、埃っぽいカーテンに手を掛けた。

両開きの窓からは外の光が注ぎ込まれ、埃が光に当り、館内を舞踊っている様子が伺える。

窓の古風な鍵を外し、錆付いた音と共に窓を外に開け放つと、小泉は窓から身を乗り出し問題の部屋があると思われる壁面を確認した。

「やはり、その先に何かあるみたいですね。ここから壁が……五メートルほど続いています」

問題のこの側面も一部が周りの壁と色が微かに異なっていた。

向かいの館の側面を見てみると、現在、小泉が身を乗り出している窓の向かい側に窓があり、さらに右側にもう一つ窓が在った。

ざっと窓の数を数えてみてもこちらの窓の数が一つ少ない。

小泉は姿勢を立て直し春日達に振り向く。

「壁の色も微かに違いますし、向い側と造りは対象になっているはずなのに、こちらの窓の数が一つ少ない。……間違いないでしょう」

「そうね、図面上は部屋数が八部屋なのに、七つしかないし」

春日達は顔を見合わせ頷きあった。

「となると、壁を壊さなきゃいけないわね」

左京は壁に視線を移しながら腕を組む。

「どうやって崩すんだ?」

春日はポケットから白い携帯電話を取出した。

「角田さんに連絡して道具を持ってきてもらいましょう。後、この館のオーナーの家族にも連絡して壁を壊す許可をもらわないと」

春日はメモリーから角田の携帯番号を呼び出し、通話ボタンを押す。

しかし、すぐに携帯電話を耳から離し、訝しげな顔で携帯電話を見つめる。

その様子に佐々木達は顔を見合わせ小泉が口を開いた。

「どうかしましたか?」

春日は携帯電話を見つめたまま呟くように言う。

「……うん……“だめだよ”って」

「――誰がだ?」

佐々木自身の意志とは関係なく徐々に心拍が上がってくるのを感じる。

「子供……かな? 男か女か分からなかったけど」

佐々木は、おもわず春日と繋いでいる手を、ぎゅっと握り締めた。

怖いのだろうか……、佐々木、本人も自分の気持ちがよく分からないでいた。

だが、繋いでいる柔らかな手に縋るように、佐々木の手に力が入る。

そんな佐々木の手を春日は、大丈夫だと言うように、軽く握り返した。

春日の横顔を盗み見るが、その表情は、なんの色も見えない。

だが、春日の少し冷たい手は佐々木の心に安堵感を産む。

それはまるで、春日の内なる心が伝わってきているようにも思え、佐々木は、少し恥じらいながらも、心の中で春日に感謝した。

「子供ねぇ……福山の亡くなったていう息子さんかしら?」

「……それは分からないわ。とりあえず一旦、館から出たほうがよさそうね。角田さんに携帯繋がらないし」

「俺のも繋がりませんね。ずっと通話中になっています」

小泉は耳に当てていた携帯電話を下ろす。

「それじゃぁ、戻りましょうか」

皆が頷き踵を返そうとしたとき、突然、佐々木の目前が暗闇に覆われた。





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