◆死灰屠り(完/連)
第十話
※
――調査開始三日目――
「なぁ、あの嬢ちゃん、一体何者なんだ? お前ら、ただの探偵じゃねえんだろ?」
佐々木は隣で館を見上げている小泉に問い掛けた。
小泉は気まずそうな表情で頬をぽりぽりと掻く。
「うーん、俺の口からは何とも……と言っても、俺も最近こちらに移動になったばかりで、詳しくは分からないんですよ」
「こちら?」
「ええ、俺達は心霊班の中でも本部勤めになります。俺はホンの一ヶ月前まで地方の支部で働いてたんですよ」
そう言うと、小泉は前方で左京と共に辺りを視察している春日に目をやった。
佐々木も小泉と同じように春日を見る。
「右京だったか、一人で大丈夫なのか?」
「おそらく大丈夫ですよ。右京さんは、物凄いやり手ですからね」
右京は単独で、昨夜の内に福山氏の情報収集の為、宿泊していたホテルを後にしていた。
福山は政界に通じる大物だ。
それだけならまだしも、福山のバックには力のある支援者が多数ついている。
はっきり言って、一介の探偵社が福山の内密な部分を探るのは、不可能だろう。
だが、真上探偵所はそこらの事務所とは訳が違う。
いや、正確にいえば、“春日と若宮兄弟は”だ。
「随分と、信頼しているんだな」
佐々木の言葉に、小泉は、どこか照れたように笑った。
「仲間の信頼なくして、この仕事は勤まりませんからね。佐々木さん達もそうでしょ?」
「……まぁな。まっ、皆が皆、信頼できるって訳じゃないがな」
佐々木はタバコに火を付けながら、ニカッと笑って見せる。
そんな佐々木を見て、小泉は、一瞬キョトリとしたものの、直ぐに口元を綻ばせた。
さわさわと朝の光を風に乗せ、館や周囲の木々達が明るく照らしだされている。
「こうやって見ていると、この館で五人も行方不明者が出たなんて信じられないわね」
左京は館の図面を片手に問題となった館を見上げた。
朝日を浴びた館は、陰鬱さを影に潜め、一枚の穏やかな絵画のようにも見える。
「そうね」
春日は左京と同様、館を見上げ、そして、そのまま、小泉と話をしている佐々木に視線を移す。
――今日は、佐々木をここに連れてくるつもりはなかったのに……
素人の佐々木がここに居ても何もできないだろう。
何より佐々木はこの館に巣くうナニモノかの贄となる条件を満たしているのだ。
ここに居れば、佐々木の身が危険に晒される。
だがしかし、何度も危険だからと諭しても、佐々木は頑として自分も行くのだと、コチラの意見は全くといっていい程聞いては、くれなかった。
無理やり置いていったとしても、一人で勝手に着いて来られたりでもしたら、それこそ佐々木を守る事すら出来ない。
ならば、共に連れて行くほうが安心だ。
角田に関しては「佐々木さんが行くのなら、僕も一緒に行きます!」と、鼻息荒く言っていたが、なんとか説き伏せる事に成功し、彼にはホテルで待機してもらい、何かあった時の為に連絡係を頼む事にした。
さすがに素人二人を、三人で守り切れる自信は無い。
それでなくても、守護する力に一番長けている右京が居ないのだ。
慎重にいかなくてはいけない。
春日は館を見上げる。
そして、ふと、昨日の佐々木の台詞を思い出した。
『視線を感じた時、館を見たんだが、違和感があってな……』
――そう、確か、違和感があったと佐々木は言っていた……何だったのだろう?
春日は意識を切り離し、周囲の気をみる。
気の流れの滞りや、陰の気の固まり瘴気、そして視線らしきモノも……感じない。
ゆっくりと、丁寧に春日は視線を洋館全体に這わす。
そして、一つの違いを見つけた。
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