◆死灰屠り(完/連)
第七話
※
洋館や木々に振り注ぐ朝日を見ていると、ここで五人もの人間が消えたとは思えない程、すがすがしい朝だった。
探偵社の四人は、再び館を捜索。
だが、特にコレといった物は発見されず、昨日感じたヤツの気配すら見当たらないでいた。
その頃、佐々木達は館の周囲の森を捜査していた。
行方不明者が出てから何度も探索されているので、何も出てはこないだろうと、予測されるが、それでも“絶対”という訳でもない。
ほんの少しでもいい、何か手掛りはないだろうか。
そんな想いで、注意深く辺りを探る。
角田が腕時計を見ながら「時間ですよ」と、声を掛けてきた。
探偵社と示し合わせていた、途中経過を報告する時間がやってきたようだ。
佐々木は、どこか後ろ髪を引かれるような気分になりながらも「おう」と、返事をし、踵を返す。
その瞬間、ふと、視線のようなモノを感じたような気がした。
辺りを見渡すが角田や、共にやってきた警察の仲間以外誰もいない。
佐々木は、気のせいかと思い再び歩き始めようとするが、やはりどこからか確かに見られている感じがする。
佐々木は、グルリと周囲を見渡し最後に館へと視線を移した。
この位置からは、ちょうど館の左側面が見てとれ、窓が規律正しく取り付けられている。
――何かが、おかしい。
佐々木は漠然と、そう感じた。
何が、おかしいのか自分でもわからないが、違和感を覚えたのだ。
なんだ?この違和感は……
「佐々木さん! みんな集まっていますよ!」
角田は、いつの間にか隣に立ち、佐々木の袖をひっぱっていた。
佐々木は「あぁ」と、生返事を返しながらも、もう一度館を見る。
しかし、違和感の種は見つからなかった。
「どうかなさいましたか?」
先に集合場所に来ていた右京が佐々木に声を掛ける。
「ん、いや……」
あの視線と違和感は今回の事件と関係があるの……だろうか?
佐々木は腕を組み、思案する。
本来の捜査なら、こんな第六感的な発言をしたら干されるのがオチだ。
だが、今回の事件自体が不可思議な事ばかり起きている。
自分に霊能力だとかの不思議な力があるとは思っていないが、もし、先刻のが、本物だとしたら……みすみす手掛りを逃す事になりかねない。
今は、どんな些細な手掛りでも在るに越した事はないのだ。
だったら、話すべきだろう。
「――俺の勘違いかもしれないがな。先刻、妙な視線を感じた」
「視線? どの辺りで、ですか?」
右京は真摯な眼差しを佐々木に向ける。
佐々木は茶化したりせず、真面目に話を聞こうとする右京の態度に安堵し、館へと指し示した。
「ちょうど、館の左側面辺りだ。どこから視線が向けられていたのかは、分からんがな。あと、視線を感じたとき館を見たんだが、違和感があってな……」
「あぁ、それで、あんなに館を見てらしたんですね」
角田が納得したように頷く。
そんな角田に小泉が問い掛けた。
「角田さんは、佐々木さんみたいに視線とかは感じなかったんですか?」
「え、いやー、僕は特になにも」
角田は苦笑いを浮かべながら、ぽりぽりと頭をかいた。
「最後に居なくなった人の年令って、判ります?」
左京を背後に引き連れ、ファイルを手にした春日が、佐々木達のもとへと足を動かしながら、桜色の口唇を開く。
「――確か、三十八か、九でしたっけ?」
角田は確認するように、佐々木に仰ぎ振り返る。
「あぁ、俺より二つ上だから三十八だ」
春日はファイルを見つめながら顎に手をそえると、ぽつりと呟いた。
「偶然にしては出来過ぎ……かな」
小泉は「どういう事です?」と、首を捻りながら、春日が手に持っているファイルを覗き込んだ。
そこには一人目と二人目の行方不明者の簡単なプロフィールが書かれていた。
「行方不明になった三人目と四人目も警察関係者ですよね? 年令判りますか?」
「詳しい年令はわからんが、二人とも、三十から四十ぐらいってところだろ。それがどうかしたか?」
「あぁ、なるほど。行方不明者の共通点って訳ね」
左京も小泉同様ファイルを覗き込む。
「一人目が四十一才、二人目が三十七才。二人とも三十代から四十代ね」
小泉はファイルに目を走らせながら確認するように「ええ」と、頷いた。
右京は腕を組み、右手で自身の顎に触れながら、軽く俯く。
「リフォーム会社の従業員や、捜索した警察関係者の中には若い人達もいただろうから、その世代の人ばかりが行方不明っていうのは、少々おかしいな」
「……確かに」
佐々木が同意するように頷く隣で、角田は不安気な様子で春日達を見やった。
「ですが、なぜなんでしょう? 何かこの館と関係があるんでしょうか?」
「その答えを見つけるには、まだまだ情報不足ね」
左京は軽く肩を竦め館に視線を移した。
他の皆も左京と同じように館を見上げる。
風が吹くたび、周囲の木々からは、ざわざわと葉ずれの音が辺りを包み込む。
それはまるで、捕らえた獲物に歓喜の声を上げるかのようで、酷く不気味だった。
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