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◆死灰屠り(完/連)
第六話




「あ、佐々木さん。おはようございます」

角田は、佐々木を見つけると、手を振りながら佐々木の元へ駆けてきた。

「おう」

佐々木は昨晩と同じソファーにどっしりと座り、タバコを銜えたままで返事をする。

「上の方から何か連絡ありました?」

角田はおそるおそるといった感じに佐々木に問い掛けると、佐々木は苦虫を潰したかのような顔をした。

「現状維持だと。真上探偵社のバックアップをしろとのお達しだ。怪しい商売してやがるが、本当に信頼して大丈夫なのか?」

角田は首を捻りながらクリーム色の天井を仰ぐ。

「真上探偵事務所っていったら、テレビとかでもよく取り上げられているぐらい有名所ですから大丈夫だと思いますよ? ……ただ、心霊現象とかも守備範囲とは知りませんでしたがね」

佐々木は、つり眼を大きく見開き角田を凝視する。

「有名なのか?」

「あれっ? 佐々木さん知らなかったんですか? よく、ストーカーとか盗聴やらの特番なんかで、必ずといっていいほどでてきますよ。しかも、色々と評判もいいんですよ!」

角田は、どこか自慢げな様子で嬉々としながら、佐々木に力説しだした。

「刑事してなかったら、僕も真上探偵社に就職していたかもしれませんねぇ。なんでも、調査の腕もさる事ながら社員の給料とか! 待遇とか! かーなり良いみたいですよー!!」

佐々木は、ニコニコと楽しそうに話す角田の広い額を人差し指でぐりぐりと突いた。

「今からでも遅くないぞ? 刑事やめて探偵やったらどうだ?」

そういうと、力一杯、デコピンを放った。

「か、勘弁して下さいよー、ハゲるじゃないですかぁ」と、涙目になりながら、赤くなった額を撫でる角田の背後から、こちらに向かってくる小泉の姿が目に入った。

小泉は軽く頭を下げながら佐々木に近づいてくる。

その背後には昨夜見かけた男達と春日の姿もあった。

昨夜遅く、ホテルにやってきた双子の名前は、若宮右京(わかみや うきょう)と、若宮左京(さきょう)といった。

二人とも二十代後半といったところで、右京と名乗る男は、オールバックで、スーツをきっちりと着込んだ、いかにも真面目そうで堅物といった印象を受ける青年だ。

反対に左京と名乗る男は双子だけあって右京と同じ顔造りをしていたが、右京より軽い印象を受ける。

スーツを着てはいるがネクタイはしておらず、肩までの明るい色をした髪を後頭部で纏めている。

そして、彼には少し変わった癖があった。

「どうもー、はじめまして! 右京の双子の片割れの左京といいます。よろしくお願いしますねえ」

佐々木は脳髄にガツンと一発やられたようにぐらりとよろめいた。

属にいう“オカマ”と呼ばれる人間なのだろうか?

生まれてこの方、こんなに間近で見たのは初めての経験だ。

ふと、隣を見ると角田は目を見開いたまま、硬直している。

精神的ショックが強すぎたのだろう。

「ぷっ、くくく」

押し殺したような小さな笑い声が、佐々木の耳に入った。

目線を移すと、春日が小泉の背に隠れるように笑い声を上げている。

その様子に佐々木は少し驚いた。

昨日は一度も春日の笑った顔など見ていなかったので、笑う事が出来たのかと関心に近い心境で春日を見る。

その笑顔は昨日見た人形のような無表情とは違い、生気に満ち溢れているようだった。

可愛いらしいじゃねぇか。

いつも、笑ってりゃいいのに。

佐々木は素直にそう思った。

「ちょっと、サエちゃん、笑わないでよね」

左京は春日を軽く睨み付ける。

春日は、ごめんと言いたかったのだろう。

だが、込み上げてくる笑いの所為で言葉にならないようだった。

「……まったく、失礼しちゃうわね」

そういうと左京は春日の壁になっている小泉にも目を向けた。

小泉は、おろおろと気まずそうに視線を泳がせている。

「要君まで……」

今まで静観していた右京がコホンと咳払いを一つすると、佐々木達に、にっこりと笑い掛けた。

「ご安心下さい。彼は女性のような話し方をしていますが、中身は立派なケダモノです。昔、ちょっとした事故で話し方がこうなってしまっただけなのですよ」

佐々木は、どんな事故だよ、とも思いながらも、あえて口には出さなかった。

人には知られたくない過去の一つや二つはあるものだ。

彼のその癖もきっとその類に違いないと、一人納得する。

「はぁ」

角田に関しては気の抜けたかのような生返事をしていた。

どうやら、未だに出来事に対処できていないようだ。

「あのさぁ、右京、……他に言い方はないわけ? よりにもよってケダモノって」

左京は、右京の耳元に顔を近付け口元を手の甲で隠しながらボソボソと話し掛けた。

「すまない、左京。いい言葉が浮かばなかった」

そう言った右京の顔は、真剣そのものだ。

「……そう」

左京は淋しそうな、どこか諦めたかのような表情で遠くを見つめる。

小泉が場を取り成すように、わざとらしいぐらいの明るい声で口を開いた。

「そ、そろそろ現場に行きましょうか?」

角田は夢から覚めたように、こくこくと頷きながら「そうですね」と、賛同した。



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