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◆死灰屠り(完/連)
第四話



館内は、カーテン越しの光だけで、当然の事ながら薄暗い。

埃やカビの匂いも微かにするが、思っていた程、古くはないようで、壁や天井、大きな階段なども奇麗な状態だった。

俺は肩を並べて歩く春日を横目で見る。

「断って、よかったんですか?」

俺達が館に入ろうとした時、角田が案内役をかってでてくれたのだが、春日はそれを丁重に断ったのだ。

「構わないわ。ヘタに案内してもらって、新たな犠牲者にでもなられたら困るし」

春日は軋む階段を登りながら、俺の問いに返事する。

「まぁ、それも……そうですね」

角田は三十代前半の、糸目で小柄、少し小太りな、見るからに温和そうな男だった。

それに比べ、佐々木は三十代後半の長身で、釣り上がった目が威圧感を感じさせる、
がっちりとした体付きの男だ。

佐々木が俺達を見る目は、不信の色を宿していたように見えた。

恐らくだが、佐々木は、俺達を好ましくは思っては、いないのだろう。

一般的な常識というモノから考えれば、俺達は非常識な存在なので、こればかりは、致しかたない。

俺達は周囲に視線を這わしながら埃っぽい廊下を進む。

床には臙脂色の絨毯が引いてあり、清掃が行き届いていない所為か、所々が黒ずんでいる。

館内は、調度品や家具などは全て取り除かれ、唯一残っている物といえば、窓にひかれているカーテンだけだ。

館の間取りは、二階建てで、一階にはキッチン、食堂、リビング、洗面所や風呂場、書斎、その他にも二部屋。

館の中央にある、だだっ広いエントランスから、大人が六人並んでも上ることができそうな階段が二階へと繋がっている。

二階には大部屋が二つと十畳ほどの部屋が七部屋といった間取りだ。

外観から見ると、屋根裏部屋がありそうだったが、それらしき物は、見当たらなかった。

多分、尖っていた屋根の部分は、ただの飾りなのだろう。

「これといって特に何も感じないわね」

春日が、ため息混じりに呟く。

「要の方はどう? こういうのは感受性が高い要の方が得意でしょ?」

窓から注がれる茜色の光をバックに春日はクルリと俺に振り替えった。

「確かに何か居るようですが……」

――強い力は、感じられない。

「ですが、それが人を五人も消してしまうような力を持っているとは思えませんが……」

どうも、害があるようには、感じない。

「と、いうことは、それが力を隠しているのか、また別のモノが見つからないように潜んでいるのか……それともこの事件そのものが人為的なモノだったか」

春日が、そこまで言った時だった。

突然、ザワリと空気が動いた。

悪寒に似た感覚が首筋から体にすべり込んでくる。

俺達は素早く辺りを見回した。

特に視覚では認識されるモノは見当たらないが、依然冷たいモノが体に纏わりつく。

気温も下がっているのか、体が急速に冷えていく感じがした。

今までの経験上、こんな風に、急激に温度が下がるのは危険だという事を知っている。

大きな人外の力が、急激に動き出した時にこういった現象が、起こるのだ。

このままでは、自分達の身も危ういかもしれない。

俺は、春日に一旦引き返そうと提案しようとした――が、春日が先に口を開いた。

「要、付いてきて!」

言うが早いか、春日は身を翻し走りだす。

一瞬、呆然となった俺は、慌てて春日を追い掛けた。





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