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◆死灰屠り(完/連)
プロローグ




「――は? それは本気で言っておられるのですか!?」

地鳴りのような怒声が、辺りに響く中、角田(すみだ)は、大声で怒鳴っている上司、佐々木(ささき)の後ろ姿を静かに見守っていた。

角田の背後には古びた、いかにも幽霊屋敷さながらの洋館がそびえ建っている。

周囲は、鬱蒼とした木々に囲まれ、それでなくても陰湿な洋館が、さらに陰険さを増しているかのようだ。

佐々木は「くそっ!」と、苛立ちを隠すことなく携帯を乱暴に放り投げた。

弧を描いて飛んでくる携帯を角田は、慌ててキャッチする。

「だめですよ、佐々木さん! 携帯投げちゃ! 今までにだって、それで六回も、おしゃかにしているでしょう。会計課から文句言われるのは、いっつも僕なんですからね!」

角田は、なんとか無事に携帯を受けとめられた事に安堵しつつ、あきらかに機嫌を損ねている佐々木に眦を上げた。

「相変わらず五月蝿い奴だな。会計課の一人や二人の相手ぐらい屁でもないだろーが」

佐々木は、苛立ちを抑えるように深く息を吐くと、スーツの内ポケットからタバコを取り出し、火を点ける。

「なんとか探偵社という所の社員が来るまで待機しろ、だとさ」

「待機ですか」

角田は、あっけにとられたかのようにオウム替えしに返事をしながら、佐々木を呆然と見上げた。

「あぁ、くそっっ! 何が“これ以上の問題は困る”だ! あのボケ上司どもは自分の保身ばかりで、下の事なんかこれっぽっちも考えていないんだよ。ただの使い捨てだと思っていやがる! 自分の出世ばかり気に掛けやがって!」

‘ボケ上司’とその‘ボケ上司’の言う事に従わなくてはならない自分自身に対する忌々しい思いが、どす黒い炎となって自分の胸を焦がしていくかのようだ。

佐々木は、憎しみを込めて洋館を睨み付ける。

「ですが、捜索ぐらいは……」

「捜索もだめだとよ」

佐々木は洋館を睨んだまま、角田の言葉を遮った。

角田も佐々木につられるように洋館に視線を移す。

「何人消えた?」

佐々木は絞りだすかのような声で、角田に問いかけた。

「……五人です」

角田は洋館から目を伏せ、足元に転がっている砂利石をみる。

五人――その内の三人は、佐々木とも角田とも顔見知りだ。

生きているのか、死んでいるのか、それさえも判らない。

――ただ、彼等は忽然と姿を消したのだ。

なぜだか、角田にはもう、あの五人は帰ってこない気がしていた。

そう思える程、この洋館を取り巻く空気は――異質――なのだ。





「だして! ここからだしてよ!」

少年は、力一杯ドアをたたく。

だが、頑丈な造りの木製のドアは、軋んだ音を上げるだけで、びくりとも動かない。

もう、どれぐらいの時をこうして過ごしてきただろう。

声は枯れ、叩きつけている手も、すでに感覚がない。

それでも少年は、出してくれと懇願しながら、硬いドアを叩く事しかできなかった。





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あきゅろす。
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