◆死灰屠り(完/連)
第七話
◆◆
亡くなった男性達が乗っていた車が停車していた場所は、真上探偵事務所の別館、心霊班本部が置かれている場所と、目と鼻の先だ。
車だと、あの場から五分も掛からない。
「じゃあ、あの方達は依頼者だったんですか?」
右京は腕を組み、右手を顎にやると、僅かに俯いた。
「いや、厳密に言えば、彩季に会いに来る予定だったんだよ」
「サエに……ですか」
依頼ではなく、春日個人に会いに?
「御前から連絡が?」
御前って確か――以前に一度、寝ている春日を抱かかえて、別館を訪れた事がある、あの銀髪の少年の事だ。
春日と然程、年齢は変わらないように見えたが……取り巻く気が、一般的な少年とは違い、異質な雰囲気を纏っていたのをよく覚えている。
そんな少年に右京達は揃って、頭を下げていた。
なんらかの関係があるのだろうが、結局、御前と呼ばれる少年と、春日や右京達との関係は教えてもらえずにいるままだ。
右京を見上げ問いかける春日から、ほんの一瞬、右京の視線が俺に向けられたが、直ぐに春日の方へと戻る。
「ああ。あちらでも急な事だったらしくてな。御前の判断で此方に向かわせたそうだ。それでも、間に合わなかったがな」
春日は、目を伏せながら右京から正面へと向き直ると、膝の上で、白魚のような両指を組んだ。
「……そう」
徐々に白くなっていく春日の指先に右京の手が置かれ、宥めるようにポンポンと撫でる。
春日は、右京を見上げ、大丈夫とでもいうように小さく微笑んだ。
二人の間に流れる、親密な空気。
左京なら、この空気の中でも割り込んでいけるのだろうが、今の俺には、到底割り込む事が出来ない。
そう、目に見えない壁。
疎外感というモノを我が身で感じていると、俺達が座る長椅子から、三メートル程、離れた場所で、扉が開く音がした。
そちらに目を向ければ、見知った人物が、こちらに向かってくる所だった。
「よう、久しぶりだな」
「皆さん、お久しぶりですー。その節は、お世話になりました。あ、僕の事、覚えています?」
ネクタイをだらしなく緩めた、眼つきの鋭い男性と、にこにこと、人の良さそうな笑みを浮かべ、眼つきの鋭い男性の上着を手に持っている小太りな男性。
ストレスか疲れからからか、額の髪が少し後退したように見える。
「ご無沙汰しております。佐々木さん、角田さん、お元気そうでなによりです」
右京が立ち上がるのと同時に、俺と春日も立ち上がり、軽く頭を下げる。
佐々木と角田の両名は、警視庁の刑事で、以前に警察から真上探偵事務所へ依頼が入り、仕事を共にした事があるという間柄だ。
「なんだ、今日は一人足りねーな。片割れはどうしたんだ?」
あれから、そんなに月日が経ったわけでもないのに、佐々木の相変わらず、ぶっきらぼうな口調が、とても懐かしく思える。
「左京でしたら、時期に此方に来ますよ。今日は、それぞれ仕事が別でしたので」
「そうか。……しかし“また”こんな形で再会するとはな」
佐々木は、はぁっと、大きな溜息を吐き出し、首に手をやると、俺達を見渡した。
「死亡した男のワイシャツのボタンが、いくつか千切られたような状態だったんだが……」
思い当たる節が俺の中にあったので、小さく手を挙げる。
「それ、俺です。心肺停止状態だったので、心臓マッサージを施そうとして」
だが、あの深い傷を見た瞬間、もう心臓マッサージも無駄だと悟った。
「あの傷……いつからあったか覚えているか?」
佐々木の声と眼つきが、少し強まった気がする。
「――俺が、初めて彼を見たときには、既にありましたが」
何故、こんな事を聞かれるのだろうか?
もしかして……疑われている?
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