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REQU
2000HIT お花見




リクエスト:お花見








「今日の7時、
全員駅前に集合しなさい!」

部室に入ってくるなり、
ハルヒは満面の笑みで
こんなことを叫んだ。

登場早々意味がわからん奴だ。

それはここにいるハルヒ以外が
全員思っていることだろうが、
誰も口にしないので
結局俺が言うことになる。

「何をしでかす気だ?」

「お花見よ、お花見。
こんなに綺麗に桜が咲いてるっていうのに、
お花見をしないなんてもったいないわ!」

「花見なんか、
この部室からでも出来る。
ほら、そこに座って外でも見てろ」

俺達を巻き込まないでほしい。

「馬鹿ね、キョン。
あんたは本当に馬鹿。
馬鹿ばかバカ」

人をそこまで馬鹿よばわり出来るだなんて、
逆にすげーよ。

「お花見っていうのはね、
花を見たいから花見をするんじゃないの。
花を見ながらどんちゃん騒ぎするのが、
お花見ってもんよ」

お前の場合は、

花見だからどんちゃん騒ぎをするんじゃなくて、
どんちゃん騒ぎをしたいから花見をするんだろ。

毎回イベントごとに盛大大騒ぎしている
(正確にはさせられている)
SOS団だが、

桜が咲いたからって
わざわざ騒ぎ出す必要はないだろう。

「あのぅ…」

ハルヒの湯飲みにお茶を注いでいた朝比奈さんが
控えめに手をあげた。

「お花見なのに、
明日の朝からじゃなくて
どうして今日の7時に集合なんですか?」

朝比奈さんの言う通りだ。

明日が休みとはいえ、
いちいちそんな時間に桜を見に行かなくても。

女子高生が出歩いて良い時間じゃない。

そんな当然の疑問に、
ハルヒは得意そうな笑みを浮かべた。
よく聞いてくれた、
って感じだ。

はいはい。
どうしてなんだ?

「ふっふーん?
ずばり今日のお花見はっ、
夜桜よ、夜桜!!」

「夜桜ぁ?」

「そうよっ、
あたし、夜桜ってしたことなかったのよね。
一度はしてみたいじゃない?」

してみたくない。

夜桜って…
夜の桜、だよな?

「どこか桜がライトアップされている場所があるでしょうか?」

今まで黙って
碁石と遊んでいた古泉が
会話に参加してきた。

「さぁ、どうかしら。
別にライトアップはされてなくても良いわ。
夜に見に行ければ良いから」

…ははーん、こいつ…

ただ単に、
みんなで"夜に"集まって騒ぎたいだけだな。

何かいつもと違うことをしたい…とか思ってる時に
夜桜を思い付いたわけか。

「で、どこでやるんだ?」

「知らないわよ。
どこか良い場所ないかしら」

…お前な…

いい加減にしろ、
そう言ってこの件はなかったことにしようと思ったが、
さすがは副団長。
古泉はイエスマンイケメンスマイル仮面を崩さずに言った。

「では僕が、
場所を調べておきましょう。
7時までに連絡します」


古泉よ、
お前も大変だな…




「遅っそいわよ!!
遅刻は罰金って言ったでしょ、キョンの奢りねっ」

日も長くなってきて、
夜というにはまだ少し明るいだろう7時。

お馴染み駅前大集合だ。

花見をするのは、
電車で一駅行った大きい公園らしい。

「普通の公園だろうな?」

はしゃいでいるハルヒとその相手をさせられている朝比奈さん、
無言でハルヒに腕を引かれている長門の三人娘の後ろを歩く。

「普通の、とは?」

「また機関が仕掛けをしてたりとか、
そんなのはないよな」

あの仕組まれていた
孤島での殺人事件みたいに。

機関とやらは
少々信用に欠けるからな。

「それはないですよ。
今回は本当に僕自身が、
普通に調べてきた場所です。
種も仕掛けもありません」

種も仕掛けもありません、

なんてセリフを言う時は、
大体種や仕掛けがあるもんなんだがな。

疑いの眼差しを向けると、
古泉は
本当ですよ、
と大袈裟な身振りで肩をすくめた。




「夜桜って、
もっと桜が目立ってるもんだと思ってたけど。
意外と地味なのね」

ハルヒ念願の夜桜は、
電車で一駅も来たわりには
ハルヒの言う通り地味だった。

俺のイメージでは
もうちょっと桜が浮かび上がって見える…
って感じだったのだが。

悪態をついているハルヒだが、
顔は満面の笑みだ。

朝比奈さんが持って来てくれた
レジャーシートにも座らずに、
桜の木のまわりを
ピョンピョン飛び回っている。

あいつは元気だな…

ハルヒに引きずり回されている
朝比奈さんや長門も、
心なしか楽しそうに見える。

ライトアップもされていない夜桜を見に来る客は
そうそういないらしく、

大きな公園は
SOS団貸し切りだった。

これなら、
ハルヒが多少暴れても
迷惑はかからんな。

「楽しそうですね」

「ああ、そうだな」

俺と古泉は
ハルヒみたいにはしゃぎ回るわけもなく、
レジャーシートに腰を降ろしていた。

「楽しそうな涼宮さんを見ていると、
とても安心出来ますね」

そうかい。
まぁ見てくれだけは良いしな、
目の保養にもなる。

前にもお前は言ってたな、

楽しそうなハルヒは、
世界を揺るがしたりしない、
って…

「今見んのは
ハルヒじゃなくて、桜だろ、」

そんなに綺麗じゃないけどな。

「おや、やきもちですか」

「そのわいた頭どうにかしろ」

素直になってくれても良いんですよ、
なんて訳のわからん事をぬかす古泉は
嬉しそうに笑っている。

ハルヒにやきもちか…

妬くわけないだろ、
古泉が俺のことをとんでもなく好きだってことは、
俺が一番よくわかってんだ。

これは別に
自惚れとかじゃない。

「…ん、お前、
なに持ってんだ?」

「そこに落ちてまして。
折れてしまったようです」

古泉が手に持っていたのは、
長めに折れてしまった
桜の枝。

花はついたままで、
切れ口も綺麗だ。

「それお前の部屋に飾れよ」

「え、これを…ですか?」

「水につけてたら、ちょっとくらい保つかもしれん。
お前ん家は何もないからな…
寝室の窓とかどうだ」

何で俺が
古泉の寝室を詳しく知ってるのかとか、
そこは聞かないでくれ。
察して下さいといった感じだ。

古泉の家は、
本当に何もない。

長門の家とまではいかないが、
生活必要最低限のみだ。

冷蔵庫の中にいたっては、
生活必要最低限すらも入っていなかった。

桜の花を飾ったところで
それがどう変わるというわけでもないが…

「そうですね、
あなたがそう言うのなら。
持って帰りましょうか」

「あれ…古泉くん、
折っちゃったんですかぁ?」

ハルヒに引きずり回されて
ヘロヘロになった朝比奈さんが
俺達の隣に腰かけてきた。

春らしい服装もお似合いです、
朝比奈さん。

「折れて落ちていたんですよ。
綺麗なので、
持って帰ろうかと」

「それは素敵ですね。
古泉くんのお部屋、
見たことないけど
お花が似合いそうです」

「そうですか、
ありがとうございます」

いえいえ、
そんなことありませんよ

と言ってやりたい。

いいよな古泉は。
男のくせに花が似合いそうなイメージとは。

「古泉くんは、
彼女さんがいらっしゃるんですか?」

……。

俺と古泉の間に
沈黙が走る。

「…いえ、いませんよ」

古泉はいつもの微笑をたたえているが、
口の端が少し引き攣っている。

朝比奈さんは、
妙なところで鋭いからな…

この場合、
彼女じゃなく彼氏…
いや、恋人だが。

「そうなんですか?
私、本で読んだんですけど…
桜の花言葉、
優れた女性、美人
っていう意味があるらしいの」

「そ、それはそれは…
物知りですねぇ」

えへへ…
なんて照れている朝比奈さんは
とても可愛らしいが…


あ、朝比奈さん…

それは俺達の間の
結構な禁則事項ですよ…

「みくるちゃーんっ、
ちょっと来なさい!!」

「は、はぁい…っ」

ハルヒの
元気の滲み出た声に呼ばれ、
テトテトと走って行く朝比奈さん。


残されたのは、俺と古泉。

…気まずい。

いや、朝比奈さんは
そういうつもりで言ったんじゃないし…

そりゃそうだ。
俺達の関係を知ってるはずないんだから。

「飾るの、やめましょうか」

ポツリと言った古泉は、
苦笑を浮かべていた。

「別に…
朝比奈さんの言った事だろ?
気にしてないし」

嘘だ。

古泉には愛されている。
そういう自覚はあっても、
不安になる時だってある。

古泉は男で、俺も男だ。

優れた女性、美人…

古泉の隣で笑っているのは、
そんな人であるべきなんだと…

「これは、
あなたにあげます」

「…は?」

「桜の花言葉は、
他にもあります。
例えば――
あなたに微笑む、」

その言葉と
特上の微笑みと共に、
古泉は俺に桜の枝を差し出してきた。

あなたに、微笑む――

「そんなもんなくても、
いつも笑ってるじゃねーか」

そう言うと、古泉は
そうですね、
と笑みを深くした。

「それ、俺にくれるんだろ?」

「家に飾るんですか?」

馬鹿、
何で俺がそんなことするんだ。

古泉ならまだしも、俺がやっても気持ち悪いだけだ。

桜の枝を受け取った俺は、
それを古泉に突き渡した。

「…お前に微笑む」



古泉みたいに
綺麗な笑みは、
浮かべられないけれど。



―――――

hana様
リクエストありがとうございました!!

もっとこう…
甘々にしたかったんですが^^;
お花見というより
桜メインになりました…








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あきゅろす。
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