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特別 4 連載中

 
 
 
■特別 4
 
 
 
 
古泉先生の家。
 
小学生の頃には、
何度か上がらせてもらったことがあったが…
 
10年近くぶりに訪れた先生の家の内装は、
以前と全然違っていた。
 
長い年月のせいももちろんあるが、
 
古泉先生がこの年で
こんな一軒家に"一人暮らし"している理由――
 
それは、
 
古泉先生は高校卒業の年に
両親を亡くしているから、だ。
 
両親2人で出掛けた先での、
不運な事故だったらしい。
 
その時まだ小学生だった俺は
詳しい事情は聞かせてもらえなかったが。
 
 
親戚もいなかった先生は
その時からずっと、
この広い家で一人暮らしをしている。
 
うちの親は、
いつも俺達の面倒を見てくれていた先生――
当時一樹くんを気に入っていて
 
まだ高校生だった先生を、
よく夕飯に誘ったりしていた。
 
 
 
そして今は、
俺のほうが古泉先生の家で
夕飯をご馳走になっていた。
 
「味、大丈夫ですか?」
 
「あ…はい。美味しいです」
 
古泉先生が作ってくれたのは、
簡単なパスタだった。
 
もちろん、
味にも問題はない。
 
 
母親に
古泉先生に勉強を教えてもらいに行く、
と言ったら、
一もニもなく了承してくれた。
むしろ喜んでいたくらいだ。
 
まぁ、怠惰な息子が、
ようやく勉強する気になってくれた…
とか思ったんだろうな。
 
残念ながら、
俺が古泉先生の家に来たのは、
そんな勉強をやる気になったからというわけがない。
 
好きな人の家に行けるなら…
という、
なんとも不純な動機でだ。
 
いや、古泉先生が
半強制的に…
という理由もあるが。
 
「それは良かったです。
食事が終わったら、
例のプリントを片付けてしまいましょうね」
 
コクコクと頷くが、
 
俺の目は無意識に…
古泉先生の唇を見てしまう。
 
駄目だ駄目だと
目を逸らそうとするのだが、
目が勝手に動く。
 
おい俺、何考えてんだ。
 
古泉先生は、
俺に勉強を教えるために…
そうだ。
 
大体、古泉先生はストレートなんだから、
変な事考えたら失礼だろ。
俺だって一概に男が好きとは言えないが…
 
 
俺は不埒な考えから気を反らすように、
パスタを口に詰め込んだ。
 
 
 
 
「ここは、
こっちの公式を使って…
わかりますか?」
 
「あぁ、なるほど…
つまりこういうことですか」
 
「そうですよ、
本当にキョン君は理解が早いですね。
これなら、成績だってすぐに伸びますよ」
 
意味不明な答えばかり書き込まれていた俺のプリントは、
先生に教えてもらったおかけで模範生の解答となった。
 
俺は決して理解が早いわけではなく、
ただ単に、先生の教え方がうまいだけなのだが…
 
古泉先生の授業を
本気で真面目に聞いていれば、順調に成績は伸びるんだろうな。
 
この場合、闘う相手は睡魔ではなく、
古泉先生に奪われる自分の思考なのだが。
 
 
「今日はこの辺りで、終わりにしましょうか」
 
先生がパタンと教師用の教科書を閉じたと同時に、
大きな欠伸が出た。
 
「ふぁ……、あ、すいません」
 
「いいですよ。
あぁ、もうこんな時間ですか」
 
先生の視線の先の時計は、
もう10時半を指している。
 
「すいません、
長居してしまって…」
 
「全然、構いませんよ。
1人でいても、何かすることがあるわけでもないですしね。
あなたこそ、
こんな遅くまで大丈夫だったんですか?」
 
「明日は休みですし、
大丈夫です。
予定も特にないので」
 
「彼女とか、
いらっしゃらないんですか」
 
……いるわけなかろう。
 
先生にそれを聞かれるところがまた辛い――
と言いたいが、
先生が俺の気持ちを知っているはずもないしな。
 
いや、逆に知られてちゃ困る。
 
「まさか。いませんよ」
 
「…そうですか」
 
彼女がいるわけもない俺は、
休日は基本フリーだ。
そこまで深い交友関係があるわけでもないしな。
 
ただ、俺がいくら暇でも、
先生がフリーとは限らない。
 
先生こそ、彼女の1人や2人いるだろうし、
デートの御予定があってもおかしくない。
いや、古泉先生だし、
二股をかけたりは絶対しないだろうけど。
 
ともかく、
早く帰ったほうが良いだろう。
 
「俺はそろそろ、失礼します」
 
「そうですか、
家まで送りますよ」
 
「…隣ですけどね」
 
 
笑った先生につられて、
俺も思わず先生に笑いかけた。
 
もうすっかり大人になった先生のいつも張り付けている微笑とはまた違う笑顔に、
俺はふと、
一樹くんを思い出した。
 
 
 
 
――――
 
家に行きましたが
何も起こらなかったです 汗
 
 
 

 
 


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