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LONG
特別 3



■特別 3




「どうぞ」

「あ…ありがとう、ございます…」

古泉先生が駐車場から回してきたのは、
見慣れた黒い車。

そりゃ、毎日見てるからな。
見慣れてるに決まってる。

俺の部屋からは、
古泉先生ん家がよく見える。
もちろん中までは見えないし、
見るつもりもないが。

でもまさか
その毎日見てるだけの車に
乗る日がくるなんて、
夢にも思わなかった。


自然な仕草で助手席のドアを開けてくれるところを見ると、

やっぱり乗せ慣れてる…
んだろう、な。

古泉先生ほどの人だ、
そうに決まってる。

男の俺に、
ドアなんか開けてくれなくたって良いのに。


「シートベルト、
大丈夫ですか。
では、出発しますね」

「…はい」


古泉先生らしい
ゆっくりとした運転で、
車は家へと走り出した。

「……」

これって…

何か話さんとだめなのか!?

いや、話したいことはいっぱいある。
彼女はいるんですかとか。
好きな人はいるのかとか。

話したいことはあっても、
話せることが何もない。

なんでそんなこと、
と思われるに決まってる。

どうする?
どうする、俺。


先に沈黙を破ったのは、
先生のほうだった。

「化学は苦手ですか?」

「え、…まぁ。
勉強は苦手なんで…」

だからと言って、
運動が得意なわけでもないが。

長所ないじゃんとか言わないでくれ。
俺が一番わかってる。

「そうですか。
授業はわかりにくいですか?」

「いえ、そんなことは」

先生の授業は、
むしろわかりやすい。

ただ俺の頭が悪いのと、
先生に見とれているだけだ。
先生に非はない。

「そうですか…?
でも僕が化学担当になってから
成績が下がっている生徒がちらほらいまして…
補習とまではいきませんが、
女子生徒の成績がね、」

ああ、それは…
俺みたいな奴が
他にもいたとはな。
女子もやっぱりかっこいい人がいいんだよ。

「先生の教え方が悪いわけじゃ、ないと思います」

「そうだと良いんですが…」

先生の容姿が悪いんですよ。
とは言えないしな。

「化学の成績、
上げたいと思いませんか?」

「そりゃ、上げたいですけど…
理系は特に苦手なんです」


「僕が教えてあげましょうか、
これから」

「……え?」

「一応僕も、先生ですし。
わからないところがあれば、
一から教えられます」

いや、そういうことでなく…

「こ、これから、ですか?」

「僕の家なら、
いつでも空いていますから。
今日の補習プリント、
いくつか間違っていましたよ」

「いやでも、
先生にご迷惑ですし…」

突然家にお邪魔するのも悪いと思うし、
何より俺の心臓が…

「全然良いですよ。
一人で家に居るのも、暇なだけですから。
あっ、でもあなたも忙しいですよね…」

「い、いえっ大丈夫です、
教えてください!!」


勢いで言ってしまったことを
早々に後悔したが、

先生の嬉しそうな微笑みを見ると、
そんな後悔も心臓の音に掻き消された。









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