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SHORT
審判の時 ハルヒにバレる




BADEND注意。



■審判の時



「おいこら、やめろ…」

放課後の文芸部室。

結果はわかりきっていたが、
オセロの勝負が一応まだついていなかったので、
ハルヒ達が帰った後の部室に
俺と古泉は残っていた。

「こんなとこで何してんだ…」

「すいません、
抑えがきかなくて…」

二人きりになるのが
久しぶりだったのはわかる。
それはわかるが…
こんなとこで盛るな!!

「キスだけにしますから、」

「駄目だっ、
学校では禁止…っん…」

俺の口を塞ぐように口づけられ
机のオセロがガタンと崩れる。

馬鹿野郎、
誰かにバレたらどうすんだ…

もう離せ、
と言おうと古泉の肩を押した瞬間、

部室のドアが勢いよく開いた。

「なにあんた達、まだ残ってた…、の……え…」

あろうことか、
ハルヒが部室の前で
呆然と立ち尽くしていた。

「す、涼み…や…さん…」

古泉の顔からも
いつもの笑顔が嘘のように消えている。

「ハ、ハルヒ…
これは、だな、その…」


ハルヒにバレてはいけない。

俺達がこの関係になる時に、
二人で誓ったことだった。

「あんた達、なに、して…」

普段の元気がすっかり抜けたような、
ハルヒの弱々しい声。


やってしまった。

世界崩壊――

そんな言葉が頭に浮かんだ。

古泉、お前特進クラスだろ…
なんか上手いこと、言えよ…

俺が望みを託した古泉も、下を向いて拳を握りしめている。

…俺だってわかってる。
これはもう、ごまかせない…



ハルヒは何も言わずに、
部室から去っていった。

その直後に、
シンとした教室に携帯の着信音が鳴り響いた。
古泉の携帯電話。

「…閉鎖空間、です」

「そりゃそうだろうな」

「本当に…すいませんでした」

古泉の声は掠れていた。

謝られても、困る。
もうこれはどうしようもない事実だ。
それともハルヒは、
今日のこの出来事を、
見なかったことにするのだろうか?
お得意の無意識で、
自分の記憶から抹消してしまうのだろうか。

そうでなければ…
ハルヒには、
"この事実すらなかったことにする"
こともできるのだ。

俺と古泉が、
"元々こういう関係でなかった"
ように、
ハルヒが世界を革変させたら…

「僕は行かないといけません。
車を呼びます。
家まで送りますので…」

「いや、いい。
自分で帰るから、
お前は行ってこい」

「でも、もう遅いですし…」

「少し一人で、考えたい」

これからどうなるのか。
俺達の関係が、
そして、この世界が――

「わかりました。
では、行ってきます。
すいませんでした」

頭を深く下げて部室を出て行った古泉の背中が、
涙で滲んで見えなくなった。



一睡も出来なかった。
当たり前だ。

いつもより20分も早く家を出て
古泉の教室の前でひたすら待機していた。
一秒でも早く、
古泉の顔を見たかった。
顔を見て、安心したかった。


チャイムが鳴るまでずっと待っていたが、
古泉は、教室にやってこなかった。



何かがおかしかった。

昨日、有り得ない光景を見てしまったはずのハルヒは、
いつも通り――、
いや、いつもよりもテンションが高かった。

「キョン、聞きなさいよ!!
やっと来たのよ、
謎の転校生っ!!」

「…は?」

謎の転校生?
誰の話をしてんだ、

「だーかーらっ、
転校生よ転校生、9組に!!
こんな微妙な時期に転校してくるなんて、
何かあるに決まってるわ!!」

へえ、それはそれは。
今頃転校してくるなんて、
本当に微妙な時期だな。

「謎の転校生枠は、
その…古泉で埋まってるだろ」

昨日の今日ということで、
古泉の名前を出すのは
多少気が引けたが…
もしかしてこいつ、
まじで記憶から抹消したのか?

「あんた何言ってんの?
転校生はね、男らしいわよ。
良かったわね、
やっとSOS団にも、
あんた以外の男子が入ってくれることになるわ」

ハルヒ、お前…
何、言ってんだ?

SOS団の男子は、
俺と…古泉じゃなかったのか?

「ハルヒ、何忘れてんだ。
古泉が…いるだろうが」

「あんた、さっきから誰のこと言ってんの?
"小泉"ってなんのこと?」

目の前がブラックアウトしたような気がした。

古泉を、知らない、だと?
SOS団の、頼れる副団長じゃなかったのか?

まさか、こいつ…

「ハルヒ、お前っ!!
古泉をどこへやった!?」

俺は思わず、
ハルヒを怒鳴り付けていた。
クラス中の視線が
俺に突き刺さる。

「あんた、何怒鳴ってんの…
寝ぼけてんじゃない?」

「寝ぼけてない!!
お前まさか、古泉を…
古泉を、この世界から…!!」

消したのか…?

そう言おうとした瞬間、
俺の意識は薄れていった。



放課後。

授業分丸々眠っていた俺が保健室で目を覚まして、
真っ先に向かったのは
文芸部室だった。

部室に駆け込むと、
そこにいたのは朝比奈さんと長門だけだった。

「あ、キョンくん。
今お茶、いれますね」

「朝比奈さん!!
古泉がいないんです!!」

部室に来るなり叫び始めた俺に
朝比奈さんはビクリと肩を震わせた。

「え…?"小泉"さん…?
えっと、誰だったかな…?」

嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。

「おい、長門っ、
お前なら知ってるよな!?
忘れるはずないだろ!?」

本から顔を上げた長門は、

「…知っている。古泉一樹」

そう淡々と告げた。
いつもと変わらないはずの
その顔には、
何か感情が浮かんでいるような…そんな気がした。

「どこに行ったんだ、
ハルヒが何かしたのか?」

「…そう。
涼宮ハルヒが、
…古泉一樹の存在ごと、この世界から消去した」

古泉の存在を、消去…?
ハルヒが、そんなことをしたっていうのか…?

「涼宮ハルヒの精神状態に
昨日の午後5時29分、
著しい乱れが見られた。
その後、涼宮ハルヒによって、
全員の記憶ごと、
古泉一樹は消去された。
記憶消去の対象からあなたが外された理由は不明」

5時29分。
まさしく俺達自身が原因だ。

俺の記憶を残して…

多分長門は、俺達の関係を知っていたのだろう。

長門がいつもより淋しそうに見えるのは…
気のせいではないだろう。

記憶が残されることほど
辛いものはない。

どうやったら…
どうやったら、この世界を、
古泉がいた世界に戻せるんだ?



ハルヒに頼みに行けば…
そんな検討違いのことを考えていると、
部室のドアが弾かれるようにして開いた。

「へい、お待ち!!」

いつも以上の最高の笑顔で、
ハルヒは誰かをがっちりと掴んで立っていた。

「一年九組に本日やってきた
即戦力の転校生、その名も、」

顔で自分で言えと促され、
となりにいた男は口を開いた。

どこから見てもイケメン。
そう、まるで…
古泉のように。

でもこれは、
古泉なんかじゃない。

かっこよくても、
俺の古泉とは違う。

その男が発した名前は――

"古泉一樹"のはずもなかった。



神に選ばれたはずの
"謎の転校生"古泉一樹は

神の手によって、
闇に消えた。



――――

BADEND初挑戦。
実はBADEND嫌いなんです←







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あきゅろす。
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