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SHORT
look me… 泣き古泉




泣き古泉。
キョン視点。



■look me…



今日の古泉は、変だった。

どこが変とか、
何が変とか、
そういうのはわからないが…
いつもよりも、
雰囲気が暗い気がした。

スマイルイエスマンの仮面をばっちりかぶっているから、
多分誰も気付いてないだろう。

それはいつも通りの、
部室でだった。



「や、やめてくださいぃぃ!!」

「ほらみくるちゃん、
今日はスク水よっ!!
黙って早く脱ぎなさいっ」

スクール水着を持って、朝比奈さんに迫るハルヒの構図。
どこの変態だ。

「おいこら、やめないか。
今は冬だぞ、朝比奈さんが風邪ひいたらどうすんだ」

「キョンくん〜…」

朝比奈さんも今回ばかりは本気で嫌なんだろう。
ハルヒから庇った俺の後ろに避難してきた。

うんうん、可愛い可愛い。

「なによ、キョンが着る?」

「俺が着たらただの変質者だ」

女物のスクール水着を着た俺。
…危ない。危なすぎる。

「仕方ないわねー…。
有希、代わりに着ない?」

「…着ない」

「有希なら風邪ひかないかな
なんて思ったんだけど…」

まぁひかないだろうな。

「朝比奈さんも長門も、
お前の着せ替え人形じゃない。
そんなにそれがいいなら、
ハルヒ、お前が自分で着とけ」

「なによ、あたしが風邪ひいてもいいわけ?」

「お前は風邪なんかひかん」

ハルヒの体に入ろうとするウィルスなんて、
そうそう存在しない。
風邪菌だってお断りだ。

「うるさいわねーっ、
なによキョン。
あんたもコスプレしたいの?」

「したくねぇよ!!」

朝比奈さんや長門ならまだしも
俺のコスプレなんぞ、
誰が見たいんだって話だ。

「今度あんたの分も、
持ってきてあげるわ。
あたしとみくるちゃんと、有希とあんたで、
コスプレ大会よっ」

死にたい。
そんな事態になったら、率先して死んでやりたい。

「すいません、
僕、トイレに行ってきます」

「そう、行ってらっしゃい」

突然、
今まで全く無言でひたすらにこやかにしていたはずの古泉が
席を立った。

…トイレ…?

誰も異変を感じていない。
ハルヒも、多分長門さえも。

あいつはいつも、団活中にトイレなんて行かない。
部室に来る前に、
必ず済ませてきている。

そりゃあいつだって、腹を壊すことくらいあるだろう。
でも…

「悪い、俺もトイレ」



案の定、古泉はトイレになんて居なかった。

「もしもし、古泉?」

俺は古泉に電話をかけていた。

古泉の携帯は、
いつも制服のズボンの右ポケットの中。
それくらい知っている。

『…何か、ありましたか』

「何もねえよ。
お前こそ、どうしたんだ。
トイレじゃねえだろ」

俺がそう指摘すると、
古泉はしばし沈黙して、

『…すいません。
ちょっと、機関の用事で』

「ああそうかい。
悪かった、いちいち電話して」

『いえ、早めに戻りますので』

機関の用事、ね…


俺は、ある場所へ続く階段を駆け登った。



「やっぱりここか」

「っ、キョンくん…
どうしてここが…」

古泉は、
まだこの季節に行くには寒い、
屋上にいた。

機関の用事?
馬鹿じゃねえのか。
お前はな、嘘が下手すぎだ。

「お前が俺に告白しようか、迷ってた時も…
ここだったからな」

半年前、
古泉が俺に告白した時。
その時も屋上に行く古泉を、
俺が追い掛けた。
そしてあの時と同じように…

「古泉、こっち向けよ」

「…嫌、です」

「…泣いてんのか」

「…っ泣いてません…」

泣いてなかったら、
何のために俺がこんなとこまで
追い掛けてきたと思ってんだ。

いくら携帯の向こう側でも、
俺にはわかる。
いくら古泉が取り繕おうと、
俺にはわかる。

屋上の隅で、赤い空を見上げている、悲しそうなイケメン。
どんなシチュエーションだよ、
というくらい似合っていて、様になっているのだろう。

でも、こんなのこいつには似合わない。
スマイル仮面の古泉一樹には、
そんな悲しそうなオーラなんて似合わないんだ。

「どうしたんだ?」

「…どうもしません」

「俺には言えないのか」

「……」

古泉はこう見えて、
意外と頑固だ。

「何もねえのに泣かんだろ。
俺、何かしたか?」

「キョンくんには、
…関係ありません」

俺には関係ない、ときたか…。

「あるに決まってんだろ。
自分の恋人が一人で泣いてんのに、関係ないわけがない」

古泉なら、
俺が泣いているのに放置したりしないはずだ。
それなら俺だって、
古泉を放っておけない。

「…くだらないことです」

「お前はくだらねえことで、
泣いたりなんかしない」

話せよ。

そう言って近付いた古泉の背中は、
いつもより小さく感じた。


「あなたは、僕のこと…
見てくれていますか」

「…は?」

唐突な問に、思わず聞き返す。

「SOS団。
SOS団は、涼宮さん中心に…
いえ、世界は、涼宮さんを中心に動いています。
そして、長門さん、朝比奈さん、僕は…
涼宮さんを観察するために、
ここにいます」

「今更な話だ」

SOS団の俺以外は、
変態的な能力を持っている。
ハルヒ中心に世界が動いていることだって、
不本意ながら知っている。

それがどうした。

「だから僕達三人は、
涼宮さんを見ています。
それが仕事ですから。
そして涼宮さんは、あなたを見ています。
おそらく、長門さんも。
そしていろいろ文句を言いながらも、
あなたも涼宮さんや朝比奈さん、長門さんの面倒を見ている」

「何が言いたい」

古泉の言う通りだ。
ハルヒは馬鹿だし勝手だけど、
危なっかしくて放っておけないやつだ。
朝比奈さんなんて、どう考えてもハルヒより危ない。
長門はああ見えて、
本当は心のあるやつなんだ。

みんな、放っておけるわけがない。

「みんなが、涼宮さんや朝比奈さん、長門さん、あなたを見ています。
…なのに僕は、
見ているだけです。
…誰も僕を見て、いない…」

古泉の声は、震えていた。
声だけじゃない。
手摺りを掴んだ肩も、震えている。

「…それだけ、です。
前から考えていたこと、が…
今日、どうしても抑え切れなくなった、だけ、です」

そうかい。

仲間外れにされた気分だった、
ってことか?
今日ハルヒがのたまっていた、コスプレ大会。
もちろんそんなもんは開催させないし、
しても俺は参加しない。

その時の提案に、
自分の名前だけ入っていなかったことを…
こいつは気にしてんのか?

「お前って、馬鹿だな」

「…っ…」

特進クラスのくせに、
そういうとこだけ、本当に馬鹿なやつだ。

「ハルヒが、お前を見てないはずがないだろう。
大事な副団長様なんだ。
ハルヒだけじゃない」

部活発足に必要な
最低人数五人。
一人でも欠けたら、SOS団は成り立たない。

コスプレだって、
やるとなればハルヒは絶対に古泉の分も用意するに決まってる。
例え古泉がどんなに拒否しようともな。

ハルヒが古泉の名前を出さなかったのは、
古泉も一緒なのが
"当たり前"だったからじゃないのか?

SOS団三人娘がコスプレをするなら、
俺達二人は関係なしだ。
でも俺までさせられるなら…
古泉も巻き込む。
それがハルヒだ。

「お前な、俺を仲間外れにするなよ」

「…してませんよ。
あなたはみんなに、
見てもらっているじゃ、ないですか…、
…誰よりも」

「違う。
お前は、自分がSOS団の誰からも見てもらえていない…
そう言いたいんだろ?」

そうです。
ポツリと呟いた古泉の後ろ姿は
ひどく寂しげだった。

「俺は、SOS団のメンバーじゃないのか?
俺は古泉のことを、
いつだって、誰よりも見てる。
俺とお前は、付き合ってるんだろ?
俺の気持ちを忘れたのか?」

半年前のまだ暑い頃、

俺への気持ちを抑えようと、
ここで泣いていた古泉に…
俺は言ったはずだ。
俺自身の気持ちを。

それは今だって、変わらない。

「…っ本当、ですか」

「俺は嘘はつかん」

風に当たって冷たくなった古泉を、後ろから抱きしめる。
これで俺のほうが背が高ければ
少しは恰好つくんだがな。

「…すいませんでした…。
少し、寂しかったのかもしれません」

そんな時もあるさ。
こいつだって、超能力者でハルヒ専属イエスマンの前に、
ただの高校生なのだ。

「なあ、古泉。
お前はさっき言ったよな、
ハルヒの観察係だって」

「その通りです」

「お前は俺のこと、
見てないのか?」

「…わかりきったこと、聞かないでください…キョンくん」



――――

恰好良いキョン。






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