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Uターン
アッシュとケチャップ

「申し訳ないね。いきなり押しかけた上に手伝いまでしてもらって」
「いいのいいの。ちょうど暇だったし、気にしないで」
「ああ、ありがとう。おかげでだいぶ進んだよ。キメラというのはなかなか難しいね。師匠が簡単に作ってみせるもんだから、僕でもと思ったんだけど……すぐにはうまくいかないもんだ」
「師匠にはまだまだかないそうにないね、私も、アッシュも」
「そうだね。師匠から合格は貰ったけど……、師匠はなんというかさ、別の次元に居るからなあ」
「まだまだ私達も伸びていけるかな」
「きみはすごいよ。悪魔になれば師匠を超えるのだって夢じゃない。ぼくはとてもとても、そんなに努力できないよ……」
「ありがと。でもね、私、悪魔にはならない。カルヴィンも誘ってくれるんだけど……、ね」
「どうして? 勿体無いよ。こんなに力を持っているのに」
「だって、あの子を置いたままずっと生き続けるなんてできない……。せっかくカルヴィンに拾ってもらった命だから、寿命が来るまで生きようとは思うけれど、永遠なんて無理よ……」
「レイン……、いつの間にか話しかけると反応するようになっていたね」
「自分の名前、分かるようになった。話すのはまだ難しいみたいだけど」
「以前と比べれば、随分いいじゃないか。水槽の中でぼーっとこちらを見続けていただけだったのに」
「……レインの寿命が私と同じなら、どれだけいいか」
「……いつまでもつんだい、あの体は」
「だいたい……、十年ほど……」
「あれは魔法水だろ? 少し抜けば伸びるんじゃないか?」
「だめ。あれが以前の私の限界なの。毒を抜いたら術のバランスが崩れる。魔法を解いたらあの子は三秒も生きられないから、かけ直す事もできない。……くやしい。とても。今の私ならもっと生きられるようにしてやれるのに」
「レインは幸せ者だな。いい親に拾われてさ。死にかけてたんだ、あんまりいい暮らしはしてなかったんだろ。目が覚めて意識が戻ったのが奇跡なくらいさ。魔法では、命はつくれないからね」
「全身の骨と内臓がぐちゃぐちゃでね、なんとか痛みで意識を保っている状態からだったから……、寿命が短くなるのは最初から分かっていたけれど……。あの子がもっともっと小さい頃からずっと水槽を見ていたんだもの。毎日話しかけた。目を開けた時は、本当に口から心臓が出てくるかと思った。十年なんて、あっという間……」
「そんなに悲しんでたらレインも不安になる。せめてさ、これからの十年がレインにとって楽しい十年になるようにしてやりなよ。本当は小さい頃に無くなってた命だ。レインはきみに何度感謝しても足りないな」
「……先の事だもんね。レインにはやく普通の生活に戻ってもらって、一日でも多く楽しい思いさせてあげなきゃ。親って、そういうものだよね」
「十年しかじゃない。十年もだ。それだけあれば、レインも一人で散歩くらいできるようになるだろ。話だって、できるさ。まあ適度に息抜きしながら、ね」
「そうね……。私が落ち込んでたら、何にもならない」
「そういえばさ、あの手伝いロボットはどうなったのさ」
「あれならもうできてるよ。今、別の部屋で洗濯か掃除でもしてるんじゃないかな。終わったらここへ来るだろうから、少し待ってる?」
「そうするよ。ありがとう」
「あれは私の自信作だからね。どんどん技術を盗んでいいのよ?」
「盗めるかな。ぼくは呪い専門だからな。専門外のはそりゃ、他の奴らよりできる自信はあるけどね、きみやボニータにはボロ負けだよ。昔はぼくが一番だったのに、いつの間に抜かれたかな」
「私は呪いできないし、ボニータもそういうの苦手でしょ。全部完璧なんて、師匠くらいしか居ないよ。その師匠だって気まぐれだし、酒飲みだし、煙草何本も吸うし、めんどくさがりでお昼回らないと布団から出ないし、女捨ててるし、ただの人ならクズゴミだもの。うまく出来てるよね、世の中って」
「聞かれてたら、どうするんだ」
「めんどくさがりだから怒りにすらこないよ、きっと」


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