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Uターン
わくわく拷問パーティー

突然の冷たい衝撃で目が覚める。服がびしょびしょだから、水をかけられたらしい。
なぜか家の大広間に居て、オレは父さんが座る大きな椅子に居た。この場所はステージのように周りより高いから様子がよくわかった。たくさんの人間――、ソリエ兵がほとんどだが、ちらほらとこちらの軍服を着た者の姿も見える。一般人の姿もあった。ロープがはってあって、『危険ですのでロープを乗り越えないで下さい』の文字。動こうとすれば、手には手錠がかかっていて、それから伸びた鎖は上で固定されている事に気づく。
一体何が?
なぜうちに沢山の人間が居るのだろう、しかもソリエ兵が!
なぜオレは捕らえられて繋がれているのだろう、全く記憶にない。
兄さんは? 父さんは? アシュレイは?
どこを探しても見当たらない。異常な状況に混乱してくる。
「紳士淑女の皆様、第三回ソリエ復活祭にお越しいただいて、本当にありがとうございます!」
後ろから大きな声がして、部屋の時が止まったように静かになった。
声の主がゆっくり前に歩き出す。横顔をちらりと確認した。
――間違いなく、グレン・アルクィンであった。
片方の袖には腕が通っておらず、ゆらりと揺れている。
「突然の開催で食事や飲み物の用意が出来ておりません。ですので今回のみ持参した物を食べながらの鑑賞は可能とさせていただきます。では、私達の希望、ソリエ王女アシュレイ・ソリエータ様の入場です!」
そして前に出て来た女は、白い髪を長く伸ばした女だった。あのアシュレイじゃないか。……オレの予想は当たっていたらしい。思わず目を見開いて、唾を飲み込んだ。
「こんにちは。危ない策でしたが、構わず私に着いて来てもらい嬉しく思います。皆さんのおかげでソリエは無事です。しかしギリギリまで何も行動を起こせず、沢山のソリエ国民が命を失った事は謝罪せねばなりません。本当に、申し訳ありません。このパーティーの終盤に、また抽選会を行いますので、今のうちに応募用紙をよく読み、記入をしておいて下さいね。今回の復活祭はきっと一番よい復活祭になる事でしょう! 親愛なる私のソリエ国民、そして新しく増えた仲間達。短い時間ですが、楽しんでいって下さいね」
深くお辞儀をして、アシュレイはオレの横に並ぶ。まったくわけが分からない!
「おいっ、これは一体なんなんだ」
声をかけても、アシュレイは動じない。こちらを見ようともしない。
「はい! 応募用紙は会場の端に居る係員にお渡し下さいね! では最初のイベントであり皆さんお楽しみのイベント! これが終わっても復活祭がありますからね、帰らないで、そのまま!」
グレンがさっと後ろに回り、前に行けと低い声で言った。悪い予感しかしないが手錠をしているので抵抗出来るわけもなく大人しく前に出た。
「今回の生け贄はフランシス・アトキンソン! で! ございます!」
その瞬間、大広間は歓声に包まれた。さっと冷や汗が流れる。
「おいっ! なんなんだこれはっ!」
我慢できなくなって思い切り叫ぶと、また広間は静かになる。
「新しい仲間も沢山増えた事ですし、ちょうどいいわ。説明しましょう」
アシュレイがまた前に出てきた。ソリエ兵達の顔が変わる。尊敬の眼差しで、どんな人間もアシュレイを見ている。
「ソリエ王族は、皆さんご存知ソリエータ様の血を受け継いでいます。まれにソリエータ様と同じ私のような白い髪の女が生まれます。その女はソリエータ様と同じ力を使う事ができます。例えば人をある程度操る力、生命を復活させる力などでしょうか。人をある程度操る力に関しては沢山の人間を操る事はできません、最大でも五人程度。ですので国民の皆さんを操っているわけではないのでご安心くださいね。そしてソリエが滅亡の危機に陥る可能性がある時に限ってその白い髪の女は生まれます。白い髪の王女の役目は、ソリエを守り、そしてソリエを復活させる事です。復活をお祝いするために復活祭が行われます。復活祭を行うためには沢山の人間の命が必要です。王女の力にもよりますが私は千を復活させるには百が必要です。今から行われるのは百人目を現在皆さんが一番憎い人間にし、それを目の前で生け贄にささげる儀式なのです」
ふっと息を吸って、くるりと振り返る。ただ白いだけじゃない、ピンクがかかった白なのだとやっと気づいた。
「ここまでちゃんと言えば分かるわよね。今まで騙していて、ごめんなさい。でもあなたと過ごした数日間はとても楽しかった。本当よ」
何回も見た笑顔が、酷く恐ろしく見えた。ああ、何もかも予想通り。オレがこの女に惚れていなければこんな事にはならなかったんじゃないか。
「こんな馬鹿な話があるかっ!人間を生き返らせる? ふざけるな! そんな事ができるわけがない!」
イラつきが抑えられなくなって怒鳴りちらす。グレンがわざとらしくびっくりしたような表情を作っていて、殴りたくなる。
「私、一度死んだの。病気で。でも生きてる」
「……」
唇を噛み、回りを睨みつける。きっと兄さんや父さんはすでに……。こんな騒ぎがあったならとっくの昔にこちらへ来ているはずだ。
「続き、そろそろよろしいですか」
「ええ。お願い」
グレンはお辞儀をし、アシュレイは再び少し後ろへ下がる。
オレはここで死ぬのか。殺されてしまうのか。沢山の人間に見られながら、哀れな姿を晒して死ぬのか。
「フランシス・アトキンソンの極悪非道ぶりはご存知の方も多いでしょう! 戦いの炎の中に消したソリエ兵は数百、一般人への暴行、射殺。婦女暴行は数え切れないほど。ソリエ兵への拷問も忘れてはなりません。彼の手にかかった者は生きながらの地獄を味わい、死ぬ事すら許されないとか。かく言う私も彼に腕を一本持っていかれたのですよ」
沢山の罵声が銃弾のように飛んでくる。今までどれだけ馬鹿な事をしてきたか、やっと分かったのに。今更謝っても遅すぎる。どうしたらいい、オレは生きたいのだ。どれだけの人を苦しめたのか頭では理解しているつもり。その口で生きたいと願うのは許されない事なのだろうか。
「今回は特別ゲストをお呼びしております。では、どうぞ!」
顔を見た瞬間、口より手が出た。正確には手を出そうとしたが手錠と鎖に邪魔をされて睨むだけの形になった。
しわ一つ無い見慣れた軍服。茶色っぽい金髪の、オレの信頼できる人間のひとり。
「ロバート! 貴様、何のつもりだ!」
「……」
うなだれたまま、ロバートは目を合わせようとしない。
きちきちと鎖が悲鳴を上げるが、千切れる様子はない。
「ロバートはもう立派なソリエータ教徒。王女の言葉とソリエータ様の言葉は絶対、そうだな?」
「はい」
グレンの問いかけに頷いた。この前のように死んだような目をしているのを願ったが、ロバートの目は生気があって輝いているのに気づいて、涙が出てきそうになった。アシュレイに洗脳されている様子には見えない。普段の、オレと話をしている時のロバートと重ねてぴったりとあってしまう。
「言われた通りにやりなさい」
「いいの、グレン。ロバートは1ヶ月もずっと頑張ったのよ。今日くらい好きにさせてあげて。きっと沢山やりたい事があるだろうから」
アシュレイの言葉に耳を疑う。1ヶ月? オレが最後にロバートを見たのはつい数時間ほど前の出来事だ。そんなにも時間がたっているのなら、もしかしたら。
「1ヶ月? どういうことだ。兄さんと父さんはどこへやった!」
「知ってる? 人間ってね、睡眠のストッパーを外して楽しい夢を見続けていると、ずうっと眠ったままでいられるの。もちろん栄養は点滴で送らなくちゃあいけないのだけどね。あなたの兄と父なら1ヶ月前に捕らえて殺してしまった」
ああ、あれは夢だったのか。現実味を帯びていて、それでいて落ち着ける心地のよい夢だった。なんでもありじゃないか、完全に、詰んでいる。
「見たいなら持ってくるけど、あなたの家族。でもあなたにとって血と名前以外に家族と感じられた事、ある人達なのかしらね」
なんでも知っているのか、この女は。あの夢を見せたのもアシュレイだろう。それならばオレの過去を殆ど知っているのではないだろうか。たった少し一緒に過ごしただけの人間にオレの記憶をまるごと知られているなんて、気味が悪い。
「ごめんね、ロバート。あなたはずっとこの時間を待っていたのに」
「……いえ」
力無く返事を返しゆっくりと近づいてくるロバートを見て、希望が見えた。ロバートはソリエ軍に寝返ったと見せ掛け、オレを助けに来たのだ。今までのはその演技。今にも拘束を外して逃がしてくれるに違いない。問題は脱出経路だが、ちょうど大広間の後ろには小さな脱出口がある。奴らにバレているか分からないが、なんとかあそこから外に出よう。その後どうしたらいいのか、よく分からないけど――、きっとその時になればどう動けばいいか分かるはずだ。今までずっとそれで危険を乗り越えて来たのだ。大丈夫、と言い聞かせる。
今にも、手錠を壊せる距離。さあ、早く、と思いつつも表情を出したら駄目だ。アシュレイにはバレているだろうが、女の一人二人、例え超能力を持っていたとしても敵ではない。他の人間に伝えるようなそぶりを見せないし、なんとかなるんじゃないか。息を吸って、吐く瞬間。
「申し訳ありません、申し訳ありません」
「っ!?」
小さな声を聞いて、大きな衝撃に目を開いた。
腹に大きな釘を打ちつけられたような感覚が神経を蝕んでゆく。
「っ……、おまえ、本当に……、ソリエに……」
足を乗せられた腹が必死に抵抗しようとするが、ロバートがそれを許さない。
「何に釣られたんだ」
ロバートのような男が簡単に裏切るとは思えない。どんなに金を積まれても宝石を並べられても首を縦に振らないだろうし、女なんて男色家のロバートは見向きもしないだろう。家族を人質に取られたか、あるいは家族ではないが大事な人間か……。
「あなたに」
遠くで見ていたアシュレイの顔が少し明るくなったのを見たような気がした。





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