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Uターン
ファック!

わざとらしく腕を組んで、何かを考えるそぶり。開けていた窓から風が入ってきて、さらさらと机の上の紙がゆれた。
「子供……、ですか」
ロバートは目を窓へ向ける。今日も曇り。厚そうなネズミ色の雲が空を牛耳っている。
「なんだ、子供は嫌いか? 別におっさんでも、爺さんでもいいぜ」
「いえ。嫌いでは……」
「じゃあ、何だっていうんだ」
聞いても、何も言わず前を見ている。目線の先にはだるそうにあくびするをアシュレイ。アシュレイが居ては話せない事?
ロバートに聞くとやはりアシュレイが居ては話しにくいと言ったので、不安だがアシュレイはアシュレイの部屋へ連れて行った。ロバートが信頼できるという部下に任せたから、何もないとは思うけど。
自分の部屋に戻って扉を閉めた瞬間、誰かに壁に追い詰められる。かかとがゴツリとぶつかる。部屋には自分とロバートしか居ない。これは本当に自分の知っている人間なのか、一瞬分からなかっただけ。
「何のつもりだッ」
怒鳴った瞬間、でこに銃口が向けられる。後ろに下がりたくとも、これ以上背中と壁はくっつかない。
何が、どうなってる?
どうして部下に銃を向けられねばならない。年下なのが気に食わない。いや、それならずっと前に殺そうとしているだろう。それにそんな下らない事で怒るような人間ではなかったはずだ。
「わたしは……」
顔の筋肉は緩まない。何か言おうとしているらしいが、出てこないのか、言葉は選んであるが言えないのか。髪をよけて銃口を押し付けられる。痕が残りそうなくらい強く、強く。
「吹っ切れました。私は私のやりたい事をします。しています。今、ここで、あなたを……」
言葉を遮って、口を開く。この状況をなんとかできないか。
「殺して何をする? 体を切り裂いて、オレの臓に埋もれて眠るかい。それともあれか、死んだ人間相手にやるとかいう」
「どちらもいい考えです。しかし、私は死人を抱く趣味を持っていませんので」
唇を強く噛む。じわりと広がる鉄の味。
「フランシス……」
「…………」
「私はあなたを愛していました。いつか伝えようと伝えようと、先延ばしにした私が悪いのです。あなたは私を頼ってくれる。あの田舎者とは違うのだと、そう安心していました。恋愛は自由です。身分、年齢、国、宗教……、関係なしに。人間を愛してもいいし、犬を愛してもいい。頭では分かっていました。私は我慢ができなかった。私の見ている場所で、敵国の女を連れてきて大事そうにしている。苦しい数日でした。もうどうにもならぬだろうと、最初から結果は分かっていた恋でしたが、僅かな希望を持っていました。が、それも跡形もなく消え去ったのです。これでは……、あまりに私が可哀想だと、そう思いませんか」
震える手で握った銃は酷く頼りなく見える。
やっと理解できた。こいつはうまく言って銃で脅して、オレを犯そうとしているのだ。男だというのに女みたいに犯されるなんてごめんだ。それなら死んだほうが遥かにいい。
「見損なったぞ」
強がって挑発すれば、撃つだろうか。しかし、どこかで命にすがっている自分が見える。死にたくない! 人間の本能が邪魔をする。
「さすが」
そっとでこから銃口が離れて、すぐに銃声。視界がぐらつく、足がふらついてズルリと床に落ちた。
何があったのか? 少し考えると足が激しく痛みだす。足をやられたようだ、じわりと血が滲んでいく感覚。ブーツが濃い赤に染まってゆく。
「どうしましたか!?」
軍に入ったばかりだろうか、若い軍人が勢いよく扉を開け、そして顔を青くする。ロバートがオレに銃を向けている図。理解できないだろう。しかし空気は嫌な冷え方をしていて、得体の知れない恐怖を感じる事が出来たに違いない。
「どうもしてない。心配ありがとう。私が居るから大丈夫だ。君は何も見なかった、いいね?」
「でっ! でも! 怪我をされています。お一人では救護室へ連れていくのは難しいでしょう。早く応急処置をしなければ、手遅れになってしまいますから!」
「君は何も見ていないと、さっき言ったろう?」
「このままでは足が……!」
「何も見なかったんだ」
痛みをこらえ、なんとか声を絞り出す。
「誰でもいい! 沢山人を連れて来い! 早く! 走れ!」
慌てて走ろうとする背中に、容赦なく銃弾を打ち込む。一発、二発、三発。また同じ空気。
「立ち入り禁止と貼り紙をせねば」
机へ向かい、サラサラと何かを書き始める。
「これがお前の愛というのか。足を傷つけて犯すのが愛というのか」
「ええ」
「狂っている」
「知っています」
ドアが閉じた。





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