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Uターン
ほのぼの学園生活2

僕が思うに、君たちは一度痛い目を見たほうがいいね。大人を舐めくさって、なんでもなんとかしてくれると思ったら大間違いなんだから。僕がただの甘やかし教師だと勘違いしてもらっちゃ困るしさ。これからちゃんとした大人になるためにね。

「……ほら、5問解くのに時間かけすぎ。 お兄ちゃんが落ちちゃうよ?」
ペンを持つ手は震える。爪は割られてプリントは血だらけ、勉強どころじゃない。窓から入る強風は体温を奪ってゆく。ペンを止めると、大型犬用の首輪から伸びた鎖をぐいぐいと引っ張られた。
「ぁ、あぐ、っあ、あ"、あ"……」
泣き声の混じった喘ぎ声はあたしを更に追い詰めていく。先生は窓からチャコの上半身を出し、首を絞めながらセックスに及んでいた。一歩間違えば今あそこに居るのはあたしだった。小さいころから同じように育ち、憧れの存在で最高の友達、素晴らしい家族、そして時には大切な恋人であった実の兄があんな風に凌辱されているのは強い憤りをおぼえた。しかし女のあたしが成人男性を相手に武器もなしで勝てるなんて思わなかったし、少しでも足を崩して立ち上がりこの男に襲いかかればチャコはビルの谷に落ちて頭を砕かれてしまうだろう。
指の痛みを堪えて粘っこい内臓をえぐる音、軽やかに皮膚がぶつかる音、涙をすする音を聞きながら、血まみれのノートに必死で炭素を乗せるしかなかった。
「あ"あ"あ"! お、おち、おちるっあ、たすけ、たすけ、ひ、ううう……、あ!」
「お、終わりました」
そう言うと今にも落ちそうなチャコの上半身を引き上げ、テーブルの上に持っていった。腰はがくがく震えて恐怖におびえ、歯をがちがち鳴らして息は荒い。涙と鼻水とよだれで顔はぐちゃぐちゃで、先生が腰を打ち付けるたびに眉を潜めてうめき声を絞り出していた。何度もテーブルや窓枠に頭を叩きつけられ、額にはじんわりと血が滲んでいる。最初は激しく抵抗していたものの、暴行が始まってからはすっかりおとなしくなってしまった。
「間違いだったらどうなるか、わかってるね?」
「……」
プリントとノートを持ち上げて腰を揺らしながら眺めている間、あたしはテーブルの上に広がった、踏みつぶされたあたしたちの携帯を見つめた。勉強の邪魔になるからと言って出させるとぐちゃぐちゃに壊してしまったのだ。
「うん、全問正解だね。じゃあちゃんと我慢してたお兄ちゃんにご褒美あげなくっちゃ。その間妹ちゃんはできるところまでやっておいて、さっきのやつ難しいやつだから。それが解けたらその単元後残りの3問は余裕だよ」
返してもらったノートをふたたび睨みつけた。……ご褒美? それって……。先生とチャコのほうを見る。
腕で顔を隠し、……泣いてるみたいだった。足がぴんとなったかと思うと力なく先生の腹を蹴り飛ばそうとする。腕を無理やり引き剥がされ、口に溜まったよだれを舌で掬われていった。
「……っ……。……」
先生の腰がチャコから離れ、独特のあのにおいが部屋に充満する。血と、よだれと、涙と、それ。まだ足は痙攣していて、歩くどころか立つことでさえ難しそうなほど。ふーふーと息をしながら指を噛んでいる。
広げられたふとももに先生が手を触れるとびくりと飛び上がり、目を見開いて足の間のそれからだらしなく透明な液体が出てくる。漏れ出してくる白い粘液を指で拾って頬に塗りつけたり、その指を口に入れたりしながら。腹を抱えて足を閉じ、震えながら死んだ虫みたいに縮こまっている。
「ほら、お兄ちゃんでしょ? ちゃんと立って」
テーブルを降ろされ、椅子に座らせられた。あたしの隣。顔を伺うと、唇を噛んで震えながら下を見ている。
「お勉強しなきゃ。お兄ちゃんはもう少しで終わるんだから」
あたしの首輪に繋がる鎖を強く引っ張られ、もう終わりだと思った。チャコのジーンズはハサミで無惨にもずたずたにされ、足元に捨てられていた。
「なんでもするっ、なんでもするからそれだけはやめて、お願いだから……」
「あ、アイヴィーには手を出さないで。俺ができることならなんだってやる、から、アイヴィーは……」
「兄妹仲良しでいいこといいこと。じゃあお兄ちゃんはさっさと残りを解くことだね」
くそ、くそ、くそ!
クラスの女どもは『セオドア先生に襲われたい』なんてよく言ってるけどあたしはごめんだ。あたしだけならまだしも、兄を凌辱した相手だ。どれだけ美形でも許せるはずない。そんな相手に行為を許すことも耐えがたい。
「あれ? 僕とお兄ちゃんの見てちょっと興奮しちゃった? まぁ……、高校生の女の子には刺激強すぎたかな。大丈夫だよ女の子には優しくしてきたし。いつもはね」
テーブルに頭を押し付けられる。さっきもそうだった。入って行く時の表情を相手に見せつけるために。
チャコが何か言おうとすると、同じように首輪がついた鎖を引っ張る。言葉がつっかえて、怯えた表情。チャコは運動ができてもとりたてて体が大きいわけではなく、むしろ小柄で女の子よりも小さいなんてことが珍しくない。先生は身長が高く、張り合っても……、あたしから見て、勝てる見込みはなかった。元からおとなしいのに暴行と凌辱を受けすっかり怯え、あたしを守ろうと声を出しても哀れなほどにひどく震えていた。
先生の手が体に触れる。入り口にぴたりと腰をくっつけてじらすようにこすりつける。見られたくない。
「ほら。ペン持って」
そう言いながら股の間にそれを滑り込ませてきた。熱い、おおきい、屈辱的。耳元にくちびるを置いて、腰を揺らすたびに喘ぎ声を聞かせてくる。くやしいことにそれが色っぽくて女みたいで、この声でどれだけの女を落としてきたのだろうと思った。さっきチャコにしたような乱暴で血にまみれたような行為でなく、優しく紳士的に扱ってくるのが腹が立つ。
しかし腹の中はやっぱり苦しくて、声を出さないように口をぎゅっと閉じ、それからチャコを見たくなくて目も閉じた。
肉と肉とがぶつかりあう音と色っぽいセクシーな息。
「はやくしないと。妹ちゃんと子どもできちゃうかもよ」
ぐいと首を横に向けられる。のしかかる成人男性の体重に肋骨が悲鳴をあげた。
「天井のしみを数えてる間に終わるって言い回し知ってる? どこだったかな、よその国の。うちの天井にしみなんてないから、壁紙の模様を数えてるといいよ。お兄ちゃんの顏なんて今見たくないでしょう? それとも、さっきのように仰向けになろうか」
「あんたの顏見てるよりましだね」
そう吐き捨てるとじっと顔を覗き込んでくる。嫌なくらい整い、まるで彫刻家の手で作られたような顏。目は乾いた血の色で切ない表情をしている。男のくせに唇はやわらかそうなピンク色、汗のにおいも嫌にならない。
チラリとチャコの様子を見ると、体が震えて息が上がり時折びくびくと体を跳ね上がらせていた。ペンの動きが悪い。
「お、おいっ! さっさと解け!」
「っごめ、っ……」
下唇を噛み締め、涙目になりながら、ぎこちないながらも素早いペンの音が聞こえてきた。チャコはもう最後のページにさしかかっている。もう少しの辛抱だ……。
「つ、次、最後の問題!」
「……早くしてくれ!」
先生の腰の動きも早くなってきて、あたしも限界が近い。チャコの頑張りにあたしの運命がかかってる。しかし無慈悲なことにチャコの手は止まる。顔は真っ赤で、……パニックになってる、あいつ!
「っチャ、チャコ、たのむっ」
間違えば罰が待ってる。冷静にならなきゃ、馬鹿のあたしたちじゃ到底解けない。耳元に吐き出す息がどんどん大きくなってゆく。
掴まれた腰をさらに力強く掴まれ、冷や汗が流れた。少し中でそれが大きくなったかと思うと、腰から手が離れて抱きつかれる。今まで感じたことのないやるせなさに打ちひしがれ、悔しさで涙があふれてくる。
「あ、あ、ごめん、ごめん……!」
「……あんまり、気にするなよ。お前だって何度か出されたんだろ? あたしは一回きりだ」
「でも……、俺は……」
「こんな一回きりで子どもなんてできやしねえよ。ゆっくりそれ解けばいいさ」
強がってるけど、本当は頭がおかしくなりそうだった。どうする? どうしたらいい? はやく掻き出して病院だ。それしかないが、先生はまだあたしの体を包んだまま離さない。
チャコが問題を解きおわるとやっと離れ、あたしは必死でティッシュの箱を掴んだ。


何度もテーブルに頭を打ち付けられ、血がそこにはこびりついていた。目はひたすらにこちらに向けてきて、言葉にはしないもののあたしに助けを求めていることがよくわかった。体には火傷、包丁で切りつけられた傷が残り非常に痛々しい。
チャコには容赦なく殴り、蹴飛ばし、踏みにじって凌辱した。泣き叫ぶチャコの上半身を完全に窓の外に出し、腰までも出ていた。爪先立ちで必死に落ちないように堪えているチャコの首を絞め、足の間に機械を押し込んだ。風呂に水をためて顔を沈めたり、ライターで指を炙ったり、火傷してぐずぐずになった皮膚をいじくりまわしたりした。
あたしが最後の問題を解きおわった午前3時までそれは続いた。
「……うん、全部あたり。よかったね、これで全部課題がすんで」
「……」
文句を言う元気も勇気もない。
「さあ、おいで。疲れたろう、ふたりで仲良く眠れるように用意してあるから」
言われるままに先生についていく、奥の部屋。大きな大きなベッドがひとつ置いてあって、無理矢理引っ張って連れてきたぼんやりとするチャコをベッドに寝かせた。
「さあ、どうぞ」
数十秒見つめ合い、見てられなくなってベッドに腰かけると先生はさっきのことが嘘だったみたいににっこり笑って部屋を出て行った。ドアの向こうから優しくおやすみと言うと、足音は奥へ消えて行く。
ベッドに横たわり、目を瞑るチャコの顔を見るとなんだか安心したし、疲れもあってか難しいことは何にも考えずに、ただ手足を投げ出して眠った。


次の日、周りが妙に騒がしくて目を開けた。ぐっすり寝たな、ゆっくりとそう思いながらまぶたを上げると、涙目のチャコがあたしを押し倒したみたいな格好で四つん這いになって、あたしをずっと見ていたらしいんだけど起きたとわかると恥ずかしそうに目をそらした。
「? ……おはよう」
「っっ、あ……」
よく見れば後ろには先生がいて、チャコの腰に腰をくっつけていた。腰を動かすたびぴくぴく震えて、甘い息をもらす。なんだかぼんやりして、目には隈。寝かせてもらえてないのか?
「お、おいっ。あたしら昨日やること終わらせたはずだ」
「っ。ぁ、あのさ、俺がこうやっ、てれ、ば……。携帯元どおりにして、返してくれるって、それからあ……、家に帰してくれるっ、……て」
顔にはあざが残っている、また殴られたか……? チャコの小さな体はすっかりボロボロだ。
「帰れるよー。よかった」
力なく笑いかけてくるチャコの顔を見てると情けなくなって、涙があふれてくる。いつだってそうだ、あたしの兄貴はいつも……。お人よしで弱気で体が小さくて、反対に気が強くて発育のよかったあたしが悪ガキから守ってやったことは何度もあるし、運動神経いいくせに運動スイッチが入らなきゃ鈍臭いのろまで、大会に出たり表彰されるチャコを妬んだ奴らが乱暴しないように先に手を回すことも少なくなかった。
たぶん、スイッチが入れば、チャコだけなら逃げられる。けど、チャコはあれだけ殴られたり蹴られたりしたのに先生を傷つけたくなくて、あたしも一緒に逃げなきゃって思ってる。絶対に。
で、それを先生は理解している。臆病なんでどこにも誰にも言わない。何をしたって。あたしについても、チャコが『言うのをよせ』って言うに決まってると知っているし、あたしらが言っても信じないと知っている。
あたしらが大人にこの事を言えば先生の人生は本当に終わりだ。でも、あたしらが何も言わなければ先生はこれまで通り生活できるし、あたしらも怪我したくらいで後は忘れればいいってチャコは言うだろう。チャコもあたしもなんとなく先生のことは嫌っていたけど、チャコはそれでも先生を庇う。
それに、あたしはもちろん不良だし、チャコだってバンドの関係で少し悪い大人と付き合って、その延長で薬に手を出したり酒やタバコを楽しんだりしているのを、皆知っている。母さんが警察の上層部にいるんで誰も言わないだけだし、親父は親父ではちゃめちゃな学生生活を送ったためそのあたりはわりと寛容だ(保健体育を教えてるのにそれはどーかと思うけど)。
一方セオドア先生は皆が認める美男子で、背が高く引き締まった体をして、声だって爽やかで、時々色っぽい。まつ毛なんか女みたいにばさばさで、面倒見もよくしっかりした人だ。生徒……、女子生徒はもちろんのこと、思いを寄せる男子生徒もいるし、先生たちだってそれは違わない。
高そうな車に乗っているのに全然嫌味っぽくなくて、汚いバーに他の先生らと混じって姿を見せる事もあるという。……そんな先生の隠し撮りや私物、果ては鼻をかんだティッシュやコップなどは学内で高い値段で取り引きされている。
いわばこっちは犯罪者、あっちはアイドルだ。アイドルが犯罪者の双子兄妹を監禁して暴行、凌辱したなんて考えられない話で、……つまりそういうことなのだ。犯罪者は何されても文句言うなってこと、文句を言ったとしても他人の耳には入らないということ。
あたしの上に倒れないように震える手足を必死で突っ張っている。時折シーツに顔を伏せ、ふーふーと喘ぎ声を堪えていた。たぶん、あれが彼にできる一番の抵抗だった。





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