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Uターン
さらば平和条約

夜の8時になる頃にはパーティはかなりの盛り上がりになっていた。倫太郎さんが作った料理や母さんが作らせた料理、大量のジュースと酒にお菓子。浴びるように酒を飲み殆どの人らが酔っていて、寝はじめる人、酔いを醒ますため散歩に行った人。酔い方も様々で、脱いだり泣いたり笑ったり、俺はもっぱらコーラだったんで全然酔ってなかったんだけど。
テレビの前で酔っ払いたちが集まっている。俺もその中の……、酔っ払いじゃないんだけど。子ども組と倫太郎さんそれからニルスおじさんはテレビゲームをしていた。エリのもってきた格闘ゲームで、どっちが勝つかを賭けている。俺はお金とかあまり持ってなかったから、コントローラを持ってひたすらゲームをさせられていた。
「おい、今度はこのピンクの女使えよ。確かそいつ強いはずだぜ。それならあたしにも勝てるだろ」
アイヴィーが教えてくれた大きなツインテールの、ピンク色の女キャラを言われたとおりに選ぶ。きついつり目でスカートは短く、大剣のような注射器を背負った派手なナースのコスプレをしている。
「そいつ女じゃないけど?」
「どっちでもかまやしねーよ、ゲームなんだから」
エリの言葉を適当にあしらい、アイヴィーは『筋肉だるま』って表現がしっくりきすぎる男の格闘家を選んだ。アイヴィーはこのゲームをやったことがあるらしくて、俺じゃ手も足も出ないんでアイヴィーやエリの番は賭けはしないことにしていた。……ってか、賭けに参加してるのがエリやアイヴィー、ニルスおじさんだしなあ。
ライラは子ども組だけどゲームはできないんで、俺の母さんと何やら話し込んでいるみたい。
「おい、ぼーっとすんなよ! こんどこそあたしに勝ってみせろ?」
ゲームがはじまり、アイヴィーの操作するキャラクターが飛びながらキックをしてきた。が、ガード! なんとかガードして、カウンターに何発か入れる。
「そいつは遠距離キャラだから離れて」
エリのアドバイス通りに後ろに下がり、……薬? を飛ばす攻撃。うまくガードしつつ飛び込んでくるアイヴィー、そのままコンボから抜けられず、負けてしまった。
「おいおいおいおいおい! そいつとあたしのって相性最悪なんだぞ。普通にやったら9割おまえのが勝つくらいの!」
「じゃあ、俺のはその1割だったわけ」
「お前ほんと下手だなあ。ゲームとかやんなかったの?」
「だってさ……、こう、手だけでゴチャゴチャすんのってイライラするんだよ。同じ遊ぶなら外で走り回ったほうがスッキリするって」
「……その気持ちはわからなくはないけどお」

なんだかちょっとテンションが下がってしまったが、後ろのほうはなんだか騒がしい。親父が裸で寝てたけど、起きたのかな。
「アルフレッド様! アルフレッド様!」
知らない天使の、……白髪の女の人が倫太郎さんにすがりつく。母さんもこちらにやってきた。ひとつしかない扉はテレビに近いからすぐわかるだろうに、どこから入ってきたんだろう?
「お助けください。どうか、どうか……」
「おい、ティシュトリヤ。落ち着いて話してみろ」
母さんが強く言うと女の人は口を閉じる。……窓が開いてる、あそこから入ってきたんだ。
「クーデターです!」
その一言に大人たちは凍りついた。
「なんだと! マナはどうしている?」
「わずかな兵と共に地上へ脱出しましたが、……捕まるのは時間の問題でしょう」
「なんて最悪のタイミングだ……。首謀者は」
「……レッドフィールド家の次女、グロリア・レッドフィールドです。……公になっておらず、まだ覚醒を終えたばかりの子です。レッドフィールド卿の実子で、母親は誰なのかわかりませんが……」
……どうしたんだろう。俺にはさっぱりわからないな。
「助けを求められたからには助けたいんだが、……。私が出ることはできない。悪魔の兵を貸せばまた戦争だ。マナを見捨てて、そのグロリアとかいう娘を指導者にしたほうが落ち着くかもしれんな」
「……そんな……」
「倫太郎とライラしか出せないし、この二人も危険な目に晒すことはできない」
絶望、という言葉が似合う顔。目を見開いて泣きそうで、手先をぶるぶる震わせていた。
「グレイさん!」
倫太郎さんが飛び出して、天使の女の人の前に立つ。
「行かせてください! いや、止めないでください。俺は……、行かなくては!」
「おい落ち着けよ。誰も助けないとは言ってないだろ。天使を助けようとするから、ややこしくなるんだ。ティシュトリヤ、そしてマナが堕天して悪魔になるのなら、仲間を助けるために全力を尽くすことができるが。天使のままでなければならないのなら、……私とチャコとアイヴィーでマナだけ連れてここに戻る、が……、現実的な話になるか。さっき言ったように、悪魔に助けられた天使は向こうじゃ立場がかなり……」
女の人が床に頭をこすりつけはじめる。
「堕天はできませんっ! 私はしてもかまいません。ここで八つ裂きにしてくださってもかまいません! マナ様、マナ様をお助けください!」
「ティシュトリヤも倫太郎も、頭を冷やせ。焦る気持ちはわかるが、そんなで出て行っては死ぬだけだぞ。仕方ないな、私が出る。どうせ倫太郎がマナもグロリアとやらも押しのけて指導者になるんなら、何にも変わりはせん」
「グレイ様……」
「お前の面倒は見ないぞ。一番がマナ、次に私の子どもだ。……ニルス!」
……て、話の流れ的に俺もそのマナって人を助けるわけ?……大丈夫かなあ。マナってことは、女の子か。マナとグロリアで女の戦いをしてるってわけね。天使であれ悪魔であれ人間であれ、女が強いのはどこでも変わらないのか。
ニルスおじさんが呼ばれて、母さんのそばに。
「グロリアについて、何か知っているか」
「……いや。レッドフィールド卿の子どもはみんな死んだってことになってる。二人目の女の子どもが居るなんて話は聞いたことがないな……」
「そうか。お前にここは任せる。チャコとアイヴィーは出撃の準備をしろ! 倫太郎も私らと来るだろ? エリヤ、アッシュを頼む。ライラはヒルデガードさんのところへ戻れ!」
母さんの声でみんなが散って行く。俺も準備しなくちゃ、って、何をしたらいいんだろう? 武器とかそういうの俺はいらないし……、必要なものって?
「チャコ!」
おろおろしてる俺に、母さんが手渡したものは。
「こ、これって……、銃!?」
「そうだ」
ちらりとアイヴィーのほうを見たら、アイヴィーも同じようなものを渡されていた。本物だ……。
「人差し指は伸ばせ。触るのは撃つ時だけだ。横向きに持つと早く撃てる。ナイフは持つか?」
「……お、おれ、武器は……」
「わかってるさ。武器はいらないんだろ。でも持ってて損にはならんさ。影の銃よりこっちのが殺傷力がある、うまくやれば天使も殺せるぞ」
は、はあ。そうですか。……素直に受け取る。部屋はもう緊張で張り詰めていた。倫太郎さんも大きいナイフを持っている。
「ティシュトリヤ、マナはどこにいるかわかるか?」
「ええ。地下です……、マナ様が『聖女』をつけてくださったので、連絡も取れます」
ティシュトリヤ、と呼ばれる女性のそばがキラキラ光り、ぼんやりと人の姿になる。鎧を着て剣を持った女だ。倫太郎さんがずいとその光る女の前に立つ。
「マナ! 無事か?」
「……その声は、アルフレッド様?」
「ああ!」
女から男の声がする……、え、マナってのは男なわけ? がっかりだなあ……、なんて声には出さないけどさ。ノイズがかかって少し聞こえづらい。
「そちらの状況を教えてくれないか?」
倫太郎さんが尋ねた瞬間、物凄い轟音がひびく。獣の咆哮のような、大きく一瞬の。
「どうした!?」
倫太郎さんは光る女に掴みかかる勢いだ。マナという男とはただの知り合いではないらしい……。
「……いえ、電車です。地下鉄にいるんですよ。地下ならまずばれないかと思って……、線路のそばに。一番近くの駅は『ヴィクトリア』」
「『ヴィクトリア』? ロンドンか……」
「……いままでの話は全て聞いております。すみません、不甲斐ないばかりに」
「そんなことはないさ。マナとでなければ、天使と悪魔は手を組むことはできないのだから。そのためなら、わたしはなんだってするつもりだ。すぐに向かおう」
光る女は粒になって消えていった。……天使と悪魔が手を組む? どういうこと? 戦争をしているんじゃなかったわけ? ……。
「……現地を見ないことには詳しいことを言えないが、そんな余裕もあるまい。地下鉄のホームに扉を開けて、ティシュトリヤと私、チャコとアイヴィーで捜索する。倫太郎は外で囮をしてくれ。向かってきたら殺してもいい」
じ、実に簡単な作戦で。何もかもおいてけぼりだ……。倫太郎さんが扉を開く。駅の……、エレベーターみたい。誰も乗っていない。
みんなでエレベーターに乗り込み、ホームに出た。人、人、人……! 人だらけ、線路だらけ。こんな広い場所から、男を一人見つけ出せって難問だな……。
母さんがティシュトリヤを連れて、スキを見て素早く線路に下りた。俺とアイヴィーも真似するみたいに。
「倫太郎さん。あたしの蛾を連絡用に持ってくれ」
アイヴィーの髪から真っ白い蛾が飛んでいき、倫太郎さんのそばに飛んでいった。そのまま振り返らず走って行く。
「チャコ」
「は、は、はい!」
「大声出すな……」
「はい……」
母さんといるのはやっぱり緊張するや。ホームに下に潜り込む。
「何かにおうか?」
そう言われて空気のにおいを嗅いでみる。どこからか、嗅いだことのない魔法臭はあるのだが……、あちらこちらで電車が走って風の流れがめちゃくちゃだ。どこから漂ってくるにおいなのかわからない。
「……あるけど、それがどこからかは……」
「なら、手分けしよう。チャコは向こう、アイヴィーはあっち。私はティシュトリヤと一緒にここを探す。見つけたらマナを連れてここに来い。敵と一人で戦おうと思うな」
アイヴィーが影に潜り込み、俺も潜る。母さんが言った奥のホーム、の、下に出た。……うーん。ちょっと臭いが強くなったか。
外国の地下鉄なんてなんだかドキドキするな。線路の走る地下トンネルは真っ暗で何にも見えないが、目がなくても俺ならにおいと音である程度は補える。
慎重ににおいが強いほうに進んでいく……、やっぱりこっちのほうからにおいがしてる! やった、さっさと終わるぞ。近い駅が『ヴィクトリア駅』だから、20分も歩かないうちにきっと見つかるはずだ。戻るのは走れば10分だし。さて、どこかな……。

歩き続けると、ふと気配が強くなった。近くにいるらしい。身構えて、背中を壁につける。真っ暗だから『影』じゃなく『暗闇』だ。曇りの日よりはやりやすいが、逃げられないことに変わりはない。
少し先に明かりが見える! 赤い炎の明かりだ。マナってのは、あれだろうか……? 駆け足で近づくと、……少女と、その足元には男。男のほうがマナだとして、少女は誰だろう? アイヴィーやあのティシュトリヤという天使の女の人より幼いし背は小さい。
「止まれ!」
女の子が俺に向かって。黒い髪を長く伸ばした女の子は、手を燃やしている。足元にいるのは……、あれは前にうちを襲ったマナ・ヴォジュノヴィックだ! マナってのは、本当にこいつであっているのか!? 姿勢を低くして、いつでも逃げ出せるよう右足を踏み出せるようにする。
「ねエお兄ちゃん……、どうしてこんなところに悪魔が来るの?」
赤いワンピースを着た女の子は仰向けに倒れたマナに馬乗りになっている。怪我をしてるのか術を受けたのか、息は荒く体は遠くからでもわかるほどに震えている。
「お兄ちゃんが呼んだんでしょう!! どうして!! どうしてそんなことするの? わたし、わたしこんなにも……」
と、とにかく助けたほうがいいよな。助けるべきマナなのかマナじゃないのかははっきりしないけど、男で名前がマナなんてそうそういるもんじゃないし。
「お兄ちゃんのこと愛してるのに!!」
アイヴィーや母さんがそろそろ嗅ぎつけるだろうか。強い魔法臭だ……、逃げたらどうなるかわからないな。あの女の子を追い払えるか……?
「悪魔なんかよりわたしを愛してちょうだい。愛は一方的に与えられるものではないって、わたしは思うな。交換するもの」
血だ、マナの頭から血が出てる。銃を構えてみる。マナに当たるかもしれないから撃ちはしないけど、ブラフだ。
向こうはこっちに興味がないみたい、少しずつ少しずつ近づいていく。
「馬鹿野郎!」
急に声がしたんでびくりと跳ね上がる。あの女の子が炎を出しているから影ができてる、その影からアイヴィーが飛び出して女の子を蹴飛ばした。
「一人で戦うなっていってんだろーが」
マナから離れた女の子は実に……『キレ』てた。わかりやすくイラついて舌打ちする。
「ごめん。マナを連れて逃げられる?」
「こいつが立てるならな」
……俺も女の子のまねをして明かりを灯してみる。マナは息も絶え絶えで、いま意識があるのが不思議なくらい……。腹は原型がわからないほどにぐちゃぐちゃで、指の骨はあらぬ方向に曲がっている。
「俺なら連れていけると……」
「迷ってる余裕あったら行け! しんがりはあたしにまかせろ!」
倒れたマナを持ち上げると痛そうにうめくが、ここに居たほうが死ぬ確立は高い。足を燃やして思い切り地面を蹴る。全速力で走れば10分もかからずヴィクトリア駅に着くが……、母さんと合流できないとまずい。アイヴィーが気づいたなら母さんも気づいているだろうが……、飛び出せる影と入る影が無いのが問題だ。
さっきみたいに作れないわけではないし、作らなくても自動的に定期的に現れる。
物凄い速さで横を走って行く地下鉄! あれの明かりを利用すれば。背後が明るくなって、電車が来たのかと思うがそんな音はしない。スピーディな足音と、空気が燃える音。アイヴィーかな? 後ろをちらりと振り返ると、居たのは白髪の少女ではなく黒髪の……!
驚きで足がからまり、手からマナを落として転んでしまうが素早く立て直してマナのそばに飛んだ。
もしかしてもしかして、……アイヴィーがやられたのか?
「落し物を見つけたのだけど……、これはあなたの?」
目を見開いても何も見えない。ただ眉間に銃口が当たって、もうおしまいだと思った。
「どうやって使うんだろう? わからないなあ〜」
がちゃがちゃとわざとらしく音をたてる。冷や汗が流れて口の中はカラカラだ。流石にこの近距離で頭を撃たれたら死んでしまう。
「なんで? なんでお兄ちゃんのところに悪魔が?」
「……」
マナも俺も、答えない。
「悪魔! 答えろ! 今すぐ殺してもいいんだから!」
俺だって、なんでこの人の所に行かなきゃいけないのかいまいちわからないんだ。本当の事を言っても嘘をついてもろくなことにならなさそう……。なら、実力行使しかないか。
ベルベットさんに教えてもらった通り、強く舌を噛む。体がドンドン大きくなっていく……、こうすれば銃弾の一発や二発撃たれても大丈夫。こいつを追い払う方法はなにかないものか?
「ふん、体だけ大きくしてこのわたしに勝てるとでも思ってるわけ? わたしはレッドフィールド家の娘。グロリア・レッドフィールド! ただの雑兵など、相手にならないわ」
馬鹿正直に相手する気はない。マナを口で持ち上げて逃げるだけだ……が、これ以上マナを動かすとやばそうだ。致命傷を受けている上にさっき強く全身を打ち付けてしまった。母さんがくるまで粘るしかない。
「大きな的ね、当てるのも簡単だわ」
また視界が明るくなる……、電車だ! すぐにマナを隅におしやるが、判断を間違えた。俺の体に電車が突進してくる! 大きな体では避けられない! 強い衝撃が腹に突き刺さり、えぐられていく。……痛い、痛いってもんじゃない! 意味がわからなかった、痛みを受け入れられず頭の中が真っ白になる。大きく吼えても誰も助けに来ないし電車は止まらない。
結局駅に着くまで止まらなくて、電車が止まった瞬間強く線路の上に倒れた。……あの、マナもこれにやられたのか。ちらりと腹を見たら真っ赤に染まって、傷口からは黒い煙が吹き出している。気づかないうちに化身はとけて人間の姿に戻ってしまった。……立てない、わけじゃない。よろよろ立ち上がり、再び化身しようとするができなかった。……ホームの人たちには気づかれてないみたい。早くマナの所に戻らなきゃ……。
「チャコ」
母さんが影の中から出てきた。そうか、母さんなら大丈夫……。安心して倒れそうだったけどなんとか持ち直す。
「どうした? その傷」
「電車に……」
「馬鹿だな。後で倫太郎にきてもらおう、そこでおとなしくしておけ」
「お、おれもいきます。へいきです」
「……」
黙って母さんは走り出してしまう。腹を押さえながら後ろを走っていった。アイヴィーを探さなくちゃ……。さっきの場所になんとか戻ってきたが、母さんが立っているだけだった。マナはちゃんといる。……よかった。
「なんだ。ついてきたのか?」
「あの……、女の子は?」
「私を見るなり逃げ出した。地上に上がれば倫太郎がいるんで、あいつなら捕らえるなり殺すなりするだろう」
しゃがんでマナの様子を伺う。肌は異常なほど白くなってて、なんとかまだ生きてはいるものの意識は完全になくなっていた。
「アイヴィーは……」
「私は見ていないな。近くには居ると思うんだが……。倫太郎と合流してるんじゃないか?」
……この先には、たしかにアイヴィーの気配はない。
「まあ、まず、マナを保護しなければ。ティシュトリヤにエレベーターを任せてある。そこまで運べるか?」
「大丈夫です。できます」
結構な血が抜けたんでちょっとフラフラするけど、深呼吸したらもう平気。マナを抱き上げる。
「すぐに私も戻る。医者を呼んでおくんだ。頼んだぞ」
……ふう。ろくなことできなかったし、このマナを連れていくことくらいはしなくっちゃ……。
マナを抱えて小走り程度、体力を温存しつつティシュトリヤ……、さん、の元に戻った。エレベーターはさっきまで居た部屋に繋がっている。ソファーに血塗れのマナを下ろすと、ティシュトリヤさんが駆け寄ってきた。
「マナ様……! マナ様! ああ、なんとお礼していいかわかりません。本当に……! 本当に……!」
「俺はそんな、たいしたことしてないんだ。本当に……」
明るい場所で見たらますますわかる、マナの怪我の具合。とにかく腹はぐちゃぐちゃ、手足もギリギリ皮一枚でつながっているといった様子で、顔には酷い火傷。助かるだろうか……、俺は再生力がかなり高いほうらしくてもう怪我もだいぶましになってるけど、マナはそうでもないらしい。倫太郎さんでも治せないかも……。
医者を呼べって言われたけど、どうしたらいいのかな。とりあえず母さんのデスクにあった電話の受話器を持ち上げて番号登録をぐるぐる回してみる。親父、ニルスおじさん、地上の家の電話、倫太郎さんのうち。……他にもいろいろ名前が出てくるけど、肝心の医者の名前を知らない。……ほかに頼れるのはベルベットさんか。
ベルベットさんはサタンの入ったユーリスと一緒に、同じ階の部屋にいる、らしい。ここにくるまでの部屋に、ベルベットさんとユーリスの名前が書かれたメモを貼られた部屋があったはずだ。医者を呼べって言ったって、俺ならまだしもマナは天使だし。
部屋を出る時、妙な胸騒ぎがした。





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