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Uターン
記憶の断片 2

夕焼けの光が事務所に差し込むころ、派手な扉がゆっくりと開く。影はまだ小さく、依頼者ではない。
「ライラ。おかえり」
「ただいま、おじさん」
鞄を下ろして、ライラ用のデスク……、俺の向かいに設置してある、に座る。いつものことだ。ジュースを入れてやると、黙って受け取った。
「どう、学校は。もう慣れた?」
「んー……」
あんまり話したくない様子だ。頭がいいし、体力がないとはいえ並みの人間よりは丈夫だし、授業に遅れるなんてことはないだろうけど。一番心配なのはやっぱり何よりも人間関係だ。ライラはあまり人と話をしたりするのが好きでないし、とても苦手な子だから。
「嫌なこととかない? 友達はできた?」
「わかんない」
「ん?」
「どうしたら友達って言っていいんだろう。僕が友達だと思ってる人がいても、その人が友達だと思ってなかったら、友達じゃないじゃない」
「たぶん、ライラが友達だと思えるような子は、すごく積極的に話しにくるんじゃない。なら向こうもきっと友達だと思ってるよ」
「……あたりだ、おじさんはやっぱりすごい」
異能者届けも出してあるし、きっと珍しがられて話しにくる子が多いんだろうな。その子たちの中から、ライラが友達だろうかと悩める子がもうでてきたなんて。おじさんは嬉しいよ。
「今度、その子をうちに連れておいでよ。パイでも焼こう。名前は?」
「……ええと、オリヴィア」
「女の子かあ」
「うん。なんでかよくわからないけど、お菓子をたくさんくれるんだ。少し太った子なんだけど、いつもチョコとかキャンディー持ってる。きっとうちでパイを焼くんだけど、って言ったら喜ぶよ」
食べ物に釣られたわけね……。まあ、出会いなんてそんなものか。女の子ならなおさら、張り切って作らなきゃね。
「いつもお菓子のにおいがするんで、オリヴィアがどこにいるかすぐわかるんだよ。お腹がすいたら、探しにいく」
「お弁当、もう少し増やそうか。お菓子持たせてあげるから、オリヴィアちゃんにあげな」
「そうしたいよ」
はじめての友達がガールフレンドね、いいなあ。青春じゃないか、って一気に歳とった感じ。俺もライラくらいの歳のときにガールフレンドがほしかった。羨ましいことだ。
「いろんな人が僕と話してくれるけど、オリヴィアがはじめてで席も隣だから特別なんだ」
ちょっと顔がゆるんでる? 思ったよりかなり学校生活が充実してるみたい。最初はやだやだ行きたくないの一点張りで無理やり通わせることに心を痛めたものだけど、うん、本当によかった。
「せっかくだし、いろいろ学校の話を聞かせてよ」
「いいよ……。僕はオリヴィアと仲良しで、オリヴィアは他の女の子たちとも仲がいいんだ。僕がオリヴィアと話をしてると女の子たちがひそひそするから、たぶんオリヴィアと話したいんだと思ってやめたら、やっぱりオリヴィアのとこに女の子たちが行くから、少し寂しいんだけど」
「男の子の友達はいないの?」
「あんまり。好きじゃないんだ、オリヴィア以外のクラスの人。話してることもよくわからないし。オリヴィアはいつもお菓子くれて、僕でもわかる話をしてくれるし、僕の話を聞いてくれるから。『おまえ、ポケモン持ってるか?』って。わかんないって言ったら『だっせえー』てね。僕からしたら、あんなゲームなんてやるほうがださいけどな。本を読んで、音楽聴いてるほうが有意義だと思うよ」
小さいころから思ってたけど、だいぶ大人っぽいな。今日も図書館に寄って帰ってきたみたいで、鞄から本を出してきて。
「何借りたの?」
「ポーだよ。『モルグ街の殺人』」
本と一緒に眼鏡とルーペを取り出して。視力が極端に低いため、こうして『ダブルメガネ』をしないとろくに文字も読めないのだ。
「そう、オリヴィアも本が好きなんだ。オリヴィアから借りた本は、時々ページにお菓子のくずが挟まってるんだけどね。一度、短編なんだけど音読してもらって。うれしかった。本は好きだけど、読むのは少し疲れるから」
我が甥っ子は相当そのオリヴィアちゃんに惚れてるみたい。どんな子なんだろう……。お菓子が好きでぽっちゃりした、本が好きな子。大人しくて髪の長い、可愛らしいワンピース着た女の子。……うーん、そんな感じかな。いいね、ライラとお似合いじゃない。
「おじさんも会うの楽しみになってきたな。ライラがそんなに気にいるなんて、すごくいい子なんだろうね」
「うん。オリヴィアも今日『モルグ街の殺人』を借りてね、読み終わったら二人で感想言い合うんだ。他の本でも何度かやった。これがすごく楽しくてね……」


「……あれ? 今日はオリヴィアちゃんが来る日じゃなかった? 後からくるの?」
「そうだよ。がっかりした?」
やけに嬉しそうに、いつもと同じようにデスクへ。少し散らかったデスクを片付けている。
「いつごろ?」
「あと30分くらいじゃないかな。一度帰って、シャワー浴びて着替えるって。どうして? って聞いたんだけど、教えてもらえなかった」
「女の子はね、好きな男の子のうちにお呼ばれしたら綺麗にして可愛い服を着てくるんだよ」
そうからかってやると、ライラは顔を真っ赤にして。
「おじさん!? ほんとに、ほんとに、そう思う?」
「んん、何が?」
「オリヴィアが僕の事好きなんて、そんなのありえないよ」
急に慌てだして、掃除してるはずが逆に汚くなってますけど。
「……僕もシャワーして着替えたほうがいいかな?」
「シャワー長すぎると、オリヴィアちゃんが来るのに間に合わないよ」
「そ、そうだね。掃除もしなきゃいけないし。ああ、もう。おじさんが余計なこと言うから」
はあ、俺も早く彼女と落ち着きたいよ。ライラのことも考えて、まだうちには呼んでないけれど。
わたわたしてると、事務所の前に黒くて長い……、いかにもお金持ちが乗ってくるような車が止まった。誰だろ、今日は依頼者が来るなんて予定はないけど、たまーにノーアポで来るから困るんだよな。せっかく今日はオリヴィアちゃんが来るのに……。
はっとして、ライラと顔を見合わせる。
「オリヴィアちゃんじゃない!? ライラ! ほら、早く出てあげなって」
「う、うん」
ライラがドアに走り寄ると、間に合わず扉が開く。そこには五人ほどの女の子がいた。どの子も派手で過激な……、歳に似合わないヘソだしやら化粧やらで、妙に老けて見えた。
「こんにちはライラくん。今日、オリヴィアが遊びにくるんでしょ? ちょうど、私たちも約束してたの。だから一緒に来ちゃおうと思って」
「ライラくんのお家、とってもおしゃれね。お父さん? ライラくんとそっくりでハンサムね」
ぞろぞろと入って来て、来客用のソファーに我が物顔で座る女の子たち。ライラにひそひそ耳打ちする。
「ねえ、どの子がオリヴィアちゃん?」
「いないよ……。うちに来るってオリヴィアが喋っちゃったんだ」
なんというか、だいぶ、きつそうな女の子ばかりだ。今までの話を聞くかぎり、オリヴィアちゃんは優しくて静かでお菓子と本が好きな女の子だったはず。こんな女の子たちと付き合うような子なのかな?
「あのさ……、帰ってくれない。来てくれて悪いけど、僕、オリヴィア一人が来る用意しかしてないから。車があるんでしょ? 来たいなら言ってもらわないと、困るよ」
「あのね聞いたんだけど、オリヴィアったら急な用事で来れなくなっちゃったんだって。きっとライラくんが寂しがると思ったから、代わりに私たちが来てあげたの」
ライラはさっきの様子と違って、かなり機嫌が悪そうだった。オリヴィアちゃんが来ると思ったのに違うのが、しかもたくさん来たんだから仕方ないっちゃ仕方ない。
「そうねこんなにたくさんは、困るわよね。誰か一人、オリヴィアのかわりが残るわ。後は帰るから」
「そんなのどうやって決めるの?」
「ライラくんに決めてもらえばいいじゃない。ライラくんがこれからお茶したい人を決めるの。一人」
「それなら誰も文句ないわ。さあ、決めて」
にこにこ笑う彼女らが不気味で仕方ないよ。ライラは相当おモテになるらしい。確かにライラはお父さんと似てハンサムだし、ミステリアスな雰囲気が女の子にうける、の、かもしれない。
「誰にもオリヴィアのかわりができるはずないだろ。君たちポーを読んだことあるかい、今日はオリヴィアとポーの話をしようと思ったんだ。いないだろ。誰もポーを読んでない。オリヴィアとポーの話をするためにおじさんはパイを焼いて可愛いティーバックの紅茶を買ってくれたんだ。お土産にするために」
「……な、なんだかわからないけど、本よね? なら私たちも読むわよ、それ」
「そりゃあいいよ、ぜひ読んでよ。でも今日はオリヴィアのぶんのソファーとパイと紅茶しかないんだっ!」
「だから今日、オリヴィアは来れないって」
「でもオリヴィアのぶんだから君たちにあげるわけにはいかないんだよ。明日、パイは包んでオリヴィアにあげるさ。紅茶はまた今度にすればいい」
「でもライラくん、これから暇でしょう?」
「オリヴィアのためにとった時間なんだ。オリヴィアのため以外に使う気はないよ。オリヴィアが遊びにこれないなら、話の種にするために新しい本でも読む」
「どうしてそんなブタ女に執着するわけ? あんなブスより私たちのほうがずっと可愛いし、ライラくんの隣に居るのにふさわしいわ」
「うるさい! 僕はそんないやらしい目でオリヴィアを見てない! オリヴィアは友達なんだよ! 友達のことをこれ以上悪く言うと、たとえ女の子でも許さないからな」
これ以上ほっとくとやばそうだ、子どもの喧嘩に介入するのは悪いことだけど、女の子を殴っちゃいけない。今にも飛びかかっていきそうなライラをなだめて、女の子たちを見る。不満そうに俺を見上げる。
「ごめんね、ライラの言うとおり、パイも紅茶もないんだ。おじさんに言ってもらえれば、人数分用意するから。遊びにくる時は教えて」
「おじさま、私たち、パイと紅茶が欲しいから来たわけじゃないのよ」
この子らもこの子らで、帰るつもりはないらしい。
「みんな、ライラくんの事が好きなの。愛してるの」
「黙れよ! 帰れったら! そんな言葉君たちから聞きたくなかった! はやく!」
大きな怒鳴り声が部屋に響く。ふだん、こんなに怒ったり叫んだりする子じゃないのに。女の子たちもびっくりしたのか、ぎょっとして。泣き出す子もいた。
「ひどい……」
「ライラくんて、そんな人だったの」
「ああ、ああ。そうだよ。僕はこんな奴さ。でもどっちがひどいんだい。僕の時間を無駄に奪っておじさんを困らせてオリヴィアの悪口言って、どっちがひどいんだか言ってみろよ。僕か? 僕だっていうのか!」
「でもまだライラくんの事が好きだわ」
「そう思うのは自由さ、僕は君たちのこと嫌いだけど。わかったら帰ってくれないか。僕はオリヴィアに電話したいんだ」
とうとう女の子たちも観念したのか、そろそろと静かに、お葬式に行くみたいに事務所を後にした。……ううん、お金持ち。後で親が出て来てああだこうだ言ってこなきゃいいけど。
「ライラ……」
「ごめん、おじさん」
大きくため息をついて、ふらふらとデスクに座る。
「ううん、よく言ったよ。オリヴィアちゃんに電話してあげな。きっと後から掛け直してくれるから」
「うん……」
少し休憩して水を飲み、電話に向かうライラ。いつもらったものなのか、ボロボロの紙切れをじっと見つめて電話の前で深呼吸。そりゃね、女の子のうちに電話するのは緊張するだろう。
「……もしもし、デビッドソンさん? 僕、オリヴィアさんのクラスメイトのライラ・ソーンです。オリヴィアさんはいつ戻りますか? ……え、いる? ほんとですか。はい、はい。……」
受話器から耳を離し、びっくりした顔で俺を見るライラ。だから、そんな目で見られても俺はどうしようもないってば。
「あ、オリヴィア? どうしたの、今日。約束だったじゃない? ……え、忘れちゃってたの!? ひどいや。……へえ、新刊が。なら仕方ないよ、今度僕にも貸してくれる? うん、じゃあ僕も何かおすすめを探しておくよ。……いいって、気にしないで。いまから来れる? 僕、迎えにいくよ。……だから、気にしないでって。そんなに謝るなら、今からうちに来てよ。僕、ずっと楽しみにしてたんだからさ。おじさんもきみのためにパイを焼いてくれたんだ。……そう、きみの好きなやつ。大きくて、とても一人じゃ食べきれないよ。あ、来る? よかったあ、嬉しい。僕、自転車でいったほうがいい? 歩きのほうがいいかな。……いや、行くよ。はやく話したくてしかたないから。放っておいたら僕、ここでぺらぺら喋っておじさんに電話代がどうたらって怒られちゃう。……あはは、そうだね、じゃあ今から行くよ……。うん、わかった」
息を止めて静かに受話器を戻すと、またびっくりした顔で俺を見る。でもさっきの顔とは格段に違っていた。嬉しそう、かなり!
「よかったね。自転車?」
「ううんっ、歩き!」
すぐ外に飛び出そうとするけど、待ってと声をかけるとイヌみたいにぴったり止まる。
「なに!?」
「これでさ、ジュースとかアイスとか買ってあげな。今日暑いから」
「気が利くね、さすがおじさん」
ライラに少しお小遣いを持たせて見送る。うーん、俺ったら、いい仕事したぞ。さあ、本物のオリヴィアちゃんがくるまでできるだけ綺麗にしなくちゃ……、ライラが慌てて汚しちゃったデスクを。


数十分後、二人の小さなお客様がやってきた。ちょっと雰囲気のあるジャズなんか流したりして、最初にライラが扉を開け、背の小さな女の子がおそるおそる事務所に入ってきた。うん、予想通り、優しそうでほんわかした、綺麗な金髪のぽっちゃりした女の子。ふわふわしたワンピースがよく似合ってる。
「わあ、噂には聞いていたけど、ライラのお家って本当に探偵事務所なんだ」
「オリヴィアちゃん? ゆっくりしていってね」
「あ! すいません。おじゃまします……」
ぺこっとお辞儀する姿、なんとも可愛らしいじゃない。小動物的な可愛さ、癒し系というか。ライラと並んだ姿は結構しっくりくる。
「オリヴィア、ここに座って」
「いいの? ここって、お仕事に使うんじゃあ」
「今日はね、オリヴィアのために、誰もいない日。だから、何も気にしなくていいんだ」
見てるこっちが幸せになれるや。パイを、オリヴィアちゃんの大好物らしいアップルパイを持っていくと、きらきらと宝石でも見てるみたいに目を輝かせる。
「これ、おじさまが?」
「そうだよ。結構料理には自信あるんだ。お茶入れてくるね」
「いいなあ、うちのお父さんたら無駄に老けてて太ってて、いつも休みの日は寝てテレビ見てるだけ。ライラくんのおじさまとは正反対だわ」
「おじさん、いくつだっけ?」
ライラの問いかけに、キッチンから叫ぶ。
「30!」
本当は全然違うけど、見た目的にはそれが妥当だろう。
「若くてかっこよくて料理もできるお父さんかあ。羨ましいな」
「僕はきみんちの大家族ってのも、結構羨ましく感じるけどね」
「そうお? やかましいだけよ。弟たちは夜遅くまで騒いで読書の邪魔だし、お姉ちゃんたらいつ話しかけても男のことばっか……、お兄ちゃんはね、優しいけどいつも弟たちに取られちゃってあんまり話せないし……」
「オリヴィアは、お兄ちゃんが大好きなんだ。いいな」
「うん。私が本を読むきっかけになったのがお兄ちゃんでね。お兄ちゃんがはじめてバイトしてもらったお給料で、私に本を買ってくれたの。『ハリー・ポッター』よ。それから私の誕生日とクリスマスには、いつも本を買ってくれるし、お兄ちゃんも本が好きだから、お兄ちゃんに借りたりもするわ」
紅茶を持っていくと、にっこり笑ってお礼を言う。ふっくらしたほっぺが歪むのを、ライラがじっと見ていた。邪魔だろうと思って自分のデスクに引っ込もうとすると、オリヴィアちゃんが止める。
「おじさまも、一緒がいいわ」
「いいの?」
ライラの様子を伺う。なるほどな、二人とも、ふたりきりがなんだか恥ずかしいんだ。学校や帰り道ならまだしも、家に呼ばれたら照れるか。
「じゃあお言葉に甘えてー」
向かい合って座っているふたりを見て、ちょっといたずらをしてやろうか。
「いつもおじさんが座ってるとこ……」
「もう! おじさんは、わがままだな」
「ここじゃないとどうも落ち着かなくてさ」
おずおずとオリヴィアちゃんの隣に座るライラ。もっとくっつけばいいのに、微妙に間があいている。
「30て、ほんとですか? すごく若く見えます」
「なんだか、胡散臭いよね。僕も正直あんまり信じてないんだ。こんなんで探偵とか、胡散臭いにもほどがあるよ」
もちろん嘘だってわかってる。大きくなった男の子が親を悪く言うあれだ。
「ひどいなあ。うちは料金お手頃仕事は確実でやってるんだ。雑誌にも紹介されたし、たまには警察を手伝うことだってあるんだよ」
「警察!? そんなの、漫画や小説の中の話だと思ってました」
「おじさん、異能者だからさっ」
その言葉にオリヴィアちゃんは納得したようだった。
「そっか、ライラもそうだから、おじさまもそうですよね。異能者ってやっぱりテレビとか新聞見てると飛んだり跳ねたりして悪い人と戦ったり不思議なことできる人ってイメージあるけど、ライラは全然そういうこと見せびらかしたりしないから、忘れてしまいます」
パイを切り分けて小皿に移しながら。
「オリヴィアちゃんが見たいなら、後で外に出て飛んでみせてもいいよ」
「おじさん、……僕さ」
おっと、調子に乗って喋りすぎたかな。わざとっぽく(いや、わざとなんだけど)口を押さえると、なんだか難しい顔をしている。
「どした?」
手の下で口をもごもごさせる。ライラは顔を変えない。
「僕、オリヴィアに言われて飛んでみたんだけどあんまり飛べなくて」
「ねえ、そんなに落ち込まなくていいから。私なんて10センチも飛べないのよ」
慰めるオリヴィアちゃんと悩むライラ。こんなに可愛らしいカップルが他にいるかい。親馬鹿……いや、叔父馬鹿なのは十分承知しているが、かわいいものはかわいい。仕方ない。
「翼が出るようになったの?」
「うん」
大きく頷く。ばさりという布を広げたような音と共に、白い小さな翼が顔を出した。
「なかなか立派じゃない。そのうち、ちゃんと飛べるようになるよ。おじさんなんて、18になるまでろくに何もできなかったんだ。みんなそんなもんさ、ライラもそれくらいになればいろんなことできるようになるよ」
「よかったね、ライラ。いつかきっと、飛べるようになったら私に見せてね」
「うん、もちろんさ」
あんまり邪魔しちゃいけないな。そろそろ一日のメールチェックの時間だ。
探偵なんて普通は人探しや浮気調査くらいしかしないけど、うちは違う。俺の魔法『ドアー』を使えば、過去にタイムスリップしたり、起こり得る可能性の一番大きい未来を見たりできる。もちろん人探しや浮気調査を引き受けることもあるけど、評判もよくなってきた今じゃもっぱら警察だ。一番警察からのがお金がいいしね。
「さあ、お二人さんがた、『ポー』の話をするんだろ? おじさんは少し仕事に戻るから、仲良くね」
「はあい」





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