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Uターン
相対・愛、藍、瞹

はっと目を覚ますと、隣のベッドでニルスおじさんは本を読んでいた。あ、アイヴィー。……さすがに帰ったか。ベッドの中でしばらくモゾモゾして、ゆっくり顔を出すとおじさんも気づいたようだった。
「あ、チャコくん。おはよう」
「おはようございます……」
「今日は志願者が出兵したから、オレらは出なくて大丈夫だって。こっちにきたばっかで疲れてるだろ。今日はゆっくり休んでいいって、お母さん直々に」
そりゃうれしいや、昨日ほんとにいろんなことがあって、今日はろくに動けそうにない。
「妹さんとすごい仲良しなんだなあ。びっくりしちゃったよ、オレ。ま、そこそこにな」
「あ、うん」
アイヴィーと寝てるとこを見られたのかな。ま、いまさらどうしようもない。お腹も減ったし喉も渇いたし、起き上がろうとするが、動けない。体が痺れてるみたい、ゆっくりなんとか起き上がり、床に足をつけようとすると腹の中で何かが動いて飛び上がりベッドから落ちた。
「あ、あ、あたた……」
「おいおい、大丈夫か」
「寝ぼけてるだけ、だ、と……」
腹の中の虫か!? て、腰に違和感がある。なにかできつく縛られてるみたい。虫がざわざわ動きだしたのか、びくりとふとももが痙攣する。朝からこれはきついや……。また起き上がろうとするか、それを阻止するみたいにまたざわめいた。
「っふ……、はあっ」
心配になったのかニルスおじさんがベッドから降りて、様子を見にくる。
「顔真っ赤だな、……熱か?」
おじさんが軽くにおいを嗅ぐと、明らか表情を濁らせる。
「絶妙に毒盛られたなあ……。知ってるやつだ、チャコくんのお父さんか、もしかしたら娘さんか」
ぜっっったいアイヴィーのしわざだ、くそ! 今気づいたんだけど、明らか俺の腰あたりから機械の音がしてるし、おじさんが毒のことを言うと部屋の隅っこから蛾が一匹飛んできて、俺の指に上品に止まった。監視中ってわけ……。この蛾は親父のじゃない。家族だし、それくらいの見分けはつく。
「あの、おれ、っ……、蛾を、返してくるっ」
ほんとに熱があるかもしれない。また過呼吸になって体が熱くて、腰は砕けて立ちあがれない。
「そんなんでいけないだろ……」
時々止まって、また激しく動くのがつらい。昨日の疲れも合間ってほんとに動けなかった。床に這いつくばって、声を出さないよう口を食いしばり、獣みたいに鼻でふーふーと呼吸するしかなかった。
「おい、おーい。頼むから、何をしてるかわからねーけど、止めてやってくれないか。疲れてるんだ、休ませてやりたい」
おじさんが蛾に話しかける。アイヴィーは絶対、話を聞いてると思うけど、蛾は沈黙している。這いずるようにシャワールームに向かうと、おじさんは心配そうについてきた。扉を閉めて、ベルトをゆるめて下着の中を見てみるとガチガチに檻みたいな何かで閉じ込められていた。皮のベルトがきつく尻に食い込んでいて、尻はなにかを咥え込んでいる。……う、っわ。これを外せるだろう金具がついているところには南京錠がつけられている。これくらい燃やせば簡単に取れそうだけど、問題はほぼ金属だから、急所であるそこが焼け爛れてしまうってこと。考えたな……。
「チャコくん?」
相当心配だったのか、そろりと扉の向こうから覗いてきた。おじさんなら取れるかな、って、これを見せるわけにもいかないか。
「っあ! おれ、だいじょうぶだから!」
アイヴィーはそれを聞いたのか、急に下半身だけじゃなく上半身も痺れて倒れそうになる。
「ひゃあああっ!」
なんとか洗面台に捕まったが、その叫び声におじさんは勢いよく扉を開けた。
「チャコくん!?」
おじさんはどう思っただろうか、顔真っ赤にしてはあはあ肩で息をして、皮のベルトが食い込んだ尻を丸出しにした俺を。
「ど、どうしてこんなものを……」
洗面台に捕まった俺を引き剥がしてお姫さまだっこみたいにする。その取り付けられた檻をまじまじと見つめた。
「わからないよ……。なに、これ」
「貞操帯だよ。こんな子どもにつけるようなもんじゃないぞ。それに、このにおい……。過保護がすぎて虐待だぞ、これ……。アッシュ? アーッシュ! おまえ、息子に何やってんだ! 奥さんに知られたらどうなるかわかってるんだろうな!? 今回だけは秘密にしてやるから、今すぐここきて外してやれ! いいな!」
相変わらず、蛾は沈黙している。
「ん! っん! あ! ……ふ、ふーっ、っふ!」
素早く服に噛み付いて声を抑えた。
「アッシュ!」
「ひ、ひはうよ」
おじさんが素早く部屋を出て行ってしまった。違うって言ったのに、伝わらなかったみたい。
「……アイヴィー。どうしてこんなことするの」
「あたしの部屋にきてくれ。出て真っ直ぐ行った突き当たりだ」
「アイヴィー!」
もう返事はない。とりあえず、行こう……。一応伝えておかなきゃって、メモにアイヴィーのところへ行くことを書いておいた。
真っ直ぐってたって、だいぶ長いや、廊下。廊下でおしゃべりしてる人もちらほら居るし、おそらくこの階の真ん中あたりにある休憩場にものんびりテーブルについてお茶をしたりお菓子を食べている人が居た。
「あ!」
誰だろ? 女の子が俺の顔を見てこちらに寄ってきた。女の子の友達だろうあと三人の子もついてくる。デジャヴ!
「グレイさんの息子さん!? ラッキー! ねえ、よかったらわたし達とお茶しない? おごるから!」
「え、えっと、おれ、今用事があるんだ。だから、また今度ね……」
苦笑いしつつ去ろうとするが、女の子たちに囲まれている。やばいよやばいよ、アイヴィーが見てるのにこんなことで怒らせたくない。
「そんなの後でいいじゃーん。10分だけ!」
「ぁ、い、急ぎなんだ。今いかなきゃ、怒られちゃうから。じゃあね、ありがと……」
女の子たちを振り払い、ふらふらしながら廊下を歩く。やっぱり俺のことはみんな気になるみたいで、声をかけないでもジッとみていたり、軽い挨拶をしたりした。
言われたとおりの場所には確かにアイヴィー、と文字が書いてあるカードが表札のように貼ってある。ノックをすると、すぐそばに居るのか一回目で扉が開いた。
アイヴィー、今日は髪の毛をポニーテールにしている。新鮮な感じ……。部屋の様子はあまり俺のとこと変わらないけど、ベッドはひとつしかない。
「毒はしばらくしたら抜けるさ、まだ手先なんかは痺れるだろうけど」
「アイヴィー! どういうつもり?」
俺が少し強く言ったんで、アイヴィーはぎょっとした。
「いたずらがすぎるよ。俺だって、怒るとき、あるよ」
後ろに手を組んで、一瞬髪の毛がふわりと浮くと、高い叫びをあげて痙攣しながら倒れた。
「そうか」
アイヴィーがどうしたいのか、わからないよ。しばらく呼吸して、顔を上げると目の前にはアイヴィーの足があった。
「まさか、足をなめろなんて言うんじゃないだろうな」
「……それもいいけど、また今度な。外してやるよ、脱いで」
「じ、自分でやるよっ! 鍵をちょうだい」
「今更恥ずかしいなんて言っても手遅れだと思うけど?」
「でも、恥ずかしいものは恥ずかしいんだって……。ほんと、勘弁してよ」
「取ってほしいんだろ。取るならあたしの手だ。お願いできる立場じゃないんだよ、おまえ」
はあーっ。わかったら寝ろてベッドに連れてこられてベルトをいじる。抵抗する気もおきないや。当たり前のように服を剥いだら写真を取って、ホットパンツのポケットから小さな、おもちゃみたいな鍵を取り出した。別に焦らすこともなく鍵をあけ、尻に入っていた性器を模した棒を引き抜いた。
「なんで濡れてんの」
「知らないよ、そんなの。じゃあ俺は帰るから」
もうこりごりだ、すぐに服を着ようとするが、その腕を止められる。
「一回だけっ」
「な、なに」
「したい」
「だめだよ」
「なんで」
「きみは気持ちいいだけかもわからないけど、俺は腹は痛くなるわ腰は痛いわでさ、それに疲れてるんだ。休ませて……」
「で、おまえはよかったわけ?」
「ぇ、えっと。うん……。でも、怖かったよ」
「女かっての」
アイヴィーは諦めてくれたらしく、おとなしく俺をベッドからおろした。心なしか、服が大きい気がする。少し痩せたかな。
「ねえ、なんでこんなのつけたの?」
「趣味。ま、いちおー、レイプ防止にもなるけどね」
ああ、そう……。
軽く挨拶して、アイヴィーの部屋をあとにした。疲れちゃったや、早く帰ってまた横になろうっと。

背伸びしながらのんびり数歩、いきなり視界が真っ暗になって口に何かが詰められた。胸ぐらをつかまれ、床に叩きつけられる。
びっくりした、きっとアイヴィーのいたずらだ。そう思って顔をあげると知らない部屋に居て、数人の若い、俺と同じくらいの男女が俺を取り囲んでいた。
その中にはさっきお茶を誘った女の子、昨日喧嘩した男の子もいる。げ……。
女の子にヒールで股を踏まれて悶絶すると、笑混じりの声。
「妹にケツ掘られるオカマは、チンコとタマいらねーだろ」
下品な笑い方。
「ほら、もっと女みてーな顔しろよ。マゾなんだろ、お前。グレイさんもこんな子ども持ってかわいそうだなあ」
「父親そっくりに育ったんじゃん? 若い頃は相当なヤリチンビッチだったらしいよ。そんなのにつきっきりで育児されたら、そりゃあオカマにもなるわ」
仕返しってこと? アイヴィーが仕組んだこと? わかんないけど、一人じゃこの数を相手するのはむりだ、逃げられるかな。影はいくつもあるし、足で触れて少しの隙があればいいけど、無いなら作ればいい。
「ママに知られたくなけりゃ、おとなしくしてろよ」
どこでどうやって見られた? 鍵は閉めてたけど、……、さっきはどうだったか? 俺は知らない、わからない。アイヴィーのしわざが濃厚か。母さんに知られたらまずいな、ニルスおじさんだからあれで済んだってだけで、親父や母さんにバレたらどうなるだろう!
「……な、なに?」
ふるえてたくさん喋れない。こわいよ。人間相手ならまだしも、みんな悪魔なんだから。ちょっとくらい殴られるんですむならすぐに治るしかまわないけど、そうはいかないだろうってのはわかってる。
「何じゃねえよ。てめーのせいで女に逃げられるわ親父にも殴られるわ、自分のしたことわかってんだろ。明るい未来を暗くしたくなけりゃちょっとくらいボコらせてくれてももいいだろ」
「一生不能にすりゃあ大好きな妹との子どももできないし、ハッピーなんじゃん? そうだ、ほんとの女の子にしてやるよ。レズなら誰も文句言わないからな」
思わず顔色変えてしまって涙目になると、やっぱりそれがひどく面白いようだった。
「元からオカマなんだから、むしろ嬉しいんじゃねえの〜?」
「せっかくだし親父みたく女装するか? お化粧してよ」
「妹の服なんか着せたいわよね。妹も連れてくれば?」
その瞬間足をライフルに変えてその発言した女に向けた。ただの威嚇。今撃つ気はない。
「てめえ!」
「次は、撃つよ。俺たちの悪口なんていくらでも言えばいいけど、他の人に手を出そうとするなら、俺は許さないから」
ちょっとくらい、立派なことできたかな。ゆっくり足を下ろして足を戻すと、緊張した空気はいくらかましになる。
「俺を殴りたいなら、殴りなよ。こうしておとなしくしておくから」
うまく脅せて嬉しかったんで煽ってみたけど、や、やめたほうがよかったかも。明らか嫌な感じになって、ダラリと冷や汗。




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