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Uターン
愛したいのそのくちびる

アイヴィーはしばらく、俺の顔をひっぱったりつついたりしていた。何が楽しいか分からないけど、とにかく長い時間そうしていた。俺が手を伸ばしてそっと頬に触れたら、マシュマロみたいにふわふわでさらさらだった。じっと鼻を近づけたら甘いマシュマロのにおいが漂ってきそうなくらい。触ると嫌がられるかなって心配したけれど、ぜんぜん気にしていなくてむしろ触ってくれと言いたげな顔をしている。
薄いピンクのくちびるはつやつや、てらりと艶めかしく光る。嬉しかった、こんな時間がこの世に存在するなんて。
顔にかかったごわごわの黒髪を払われる。お互い、何も言わない。何か言ったらこの瞬間が台無しになってしまいそうな気がしたけど、アイヴィーはどう考えていただろう。
ただ触って、見ているだけでよかった。それ以上を望んでしまうのは間違いだと遺伝子が言っているのだから。
こんな気分になるのなら、ほんとうに遺伝子が止めてないと簡単に間違いを犯してしまう。それが本人たちの幸せだったとしても、未来の人間は俺を恨むだろう。
「あたしは、おまえのようになりたかったけど」
パッと、現実に戻る瞬間。ひび割れたくちびるが、柔らかいくちびるが震えている。
「どうして。俺なんか……」
「おまえは、自分から声を荒げたりしない」
「臆病なだけ」
「吠えまくって噛み付く犬のほうが、臆病なんだよ。おまえより、あたしのが臆病なんだ。このままでいいのか毎日不安で……、何度もあの日の夢を見てうなされる」
「あの日?」
「友達が死んだ日。母さんと親父が死んだ日。倫太郎さんと、ライラが死んだ日。あたしが死んだ日」
アイヴィーはすべてを亡くしている。ここでの孤独感は半端じゃないだろう。誰も、知っている顔も両親でさえも、自分の幼いころを知るものはいない。ひとり存在はしているが、あれは緑髪のくそったれ天使だ。
「仕方ないよ。そのことを気に病む必要はないとおもうな。そう思う時は、そう思う必要があるからそう思っているんだと思う」
「おまえは、恥ずかしいことを簡単にいうんだな」
「そ、そうかな」
「真実って見たくない、言いたくないものだからな」
疲れたので腕をおろし、ゆっくり息を吸って吐いた。いいにおいがするこの空気をめいっぱい吸っておく。
起き上がってアイヴィーの隣に座ると、すこしアイヴィーが横にずれた。今まで、こんなことなかった。
驚いてアイヴィーのほうをずっと見てると、急に低い声であんまりこっちを見るなって。
「アイヴィー?」
女の子って、よくわからない。
「あたしさ、おまえを都合よく利用してる。寂しい時はくっついて。邪魔になったら突き放して。最低だ」
手で目のあたりをしきりにこすってる。……泣いてる?
「だってあたしだってさびしいんだもん。こわいんだもん。あたし、なんにもできない……」
その言葉がスイッチみたいだった。声をあげて泣くアイヴィーに、どんなことをしてあげればいいのか、俺はどんなことを期待されてるのかわからない。
「チャコール。おまえは、どこにもいかないでくれ。おまえはあたしの友達だ。きょうだいだ。おまえに会えて、とてもうれしい。おまえも、あたしを使ってくれよ」
真っ赤な目をさらに赤くして、友達としての握手ときょうだいとしてのハグを。
「俺もアイヴィーと会えてうれしい」
「いつでもあたしの部屋にこいよ。女だからって一人部屋もらったからさ。酒でも飲もう」
そう行ってアイヴィーは部屋を去ろうとする。けど、追いかけて、止めてしまった。
「どうした?」
「……えっと……」
心臓がドキドキしてる。ちょっとだけ俺より背の低い、目線が低くて上目遣いになるアイヴィー。
だってこんなの今しかないよね。

「おれ、アイヴィーが好き」
あ、あああっ。足が震えてる。驚いた様子もなくて、ひとつ息を置いて。
「あたしもだ」
まるで、子どもにそう言われたような返しぶりだった。冗談だと思われてる?
「あ……、あのね、ライクじゃない」
「おまえマジに言ってんのか、それ」
しばらく黙って。
「あの……、俺、それだけ、だから」
「?」
「好きって伝えたかっただけで、付き合ってくれとか、言ってないよ。だから、そんなに深刻な話じゃあ……」
「あたしもそうじゃないから、悩んでるんだ。馬鹿」
それってさ、アイヴィーも俺のこと……。びっくりして目を見開くと、腹に軽いパンチをされる。
「うじうじして男らしくないし、身長ひくくて悪人みたいな顔で腹に虫飼ってんのに、ほんと、おまえとならいいと思った。だからどうしたらいいかわかんねんだ」
「じゃ、……現状維持で」
弱々しく言うと、にっと小悪魔みたいに(って、ホンモノの悪魔なんだけど)笑った。
「臆病者」
押し倒されて馬乗り、ぞわっと鳥肌立って、息を飲んだ。
「!」
ざっと真っ白い髪の毛が俺とアイヴィーの空間を作る。
フラッシュバックで体が固まる。白い髪があの男と重なる。
「だめ……」
「女みてーなこといってんなよ」
「そうじゃない……」
泣きそう。泣いてるかも。
「女ともだめか」
「……」
「べつにあたしが男役やってもいいぞ。やったことあるし」
「……そういうんじゃなく……」
腹がぞわぞわする。前に襲われたように真っ白い獣に変わった。2メートルはあろうかという大きな狼。口を開けると鋭い牙と真っ赤な炎のような舌を見せつけている。
「あたしはもうやる気んなっちゃったけど」
「……アイヴィーは気持ちいいの? これって?」
「人間でいるよりこっちのが楽だからな、あたしは。でも人間のカッコじゃないと犬畜生扱いされちまうだろ。ま、楽なほうがリラックスするから気持ちいいよな」
「男役って? ……どうなるの?」
「そういうこと聞く?」
「……ごめん」
人間じゃないからか、ちょっとだけだけど楽だと伝えると顔をなめられた。ふわふわの毛があったかくて気持ちがいい。
「……どうすればいい?」
「あたしに任せとけって。とりあえず下脱いで、部屋の鍵しめとけ」
言われた通りに部屋の鍵を閉めた。……ああー。その瞬間力抜けてぐったり扉の前に座り込むと、大きな口でアイヴィーが俺を引っ張る。
「うわっ!」
「さっさとしろって」
「……ほんとにやるの?」
「あたしもう我慢できねーよ」
ベルトをいじっていると、ジーンズを噛まれてまたひっぱられた。ひっくり返したカエルみたいになった所に、よだれがだらりと垂れる。
「大丈夫かな……」
「あたし慣れてるから。流石に男とは三回くらいしかないけど」
「はあ……」
足の間をしつこくなめられ、目をつむって柔らかいアイヴィーの体毛を触っていた。たまに自分で指を入れてみろと言われ、ゆっくりそうしてみると予想していたよりスムーズに入ってびっくりする。
「そろそろいけそうだ」
「え!?」
「えじゃねえよ。指抜いて、足上げてリラックスしろ」
ゆっくり何かが入ってくる。思わず目を押さえて歯を食いしばると、進むのをやめた。
「力抜けって」
「だ、だって……」
「息吸って、吐いて」
深呼吸、ゆっくり息を吐くとそれに合わせて奥まで。
「あ、あ、あぐ!」
「入った入った」
そ、そりゃよかったけど、今までで一番しんどい。大きい、ってこれ何が入ってるわけ?! アイヴィーは女の子だし、……。
「ね、ねえ! これ何!?」
「叫ぶなよ雰囲気台無しじゃないか」
そもそも雰囲気なんて最初っからないようなものですけど! なんなのかわからないけど、肉の塊が腹を突き刺してるのはわかった。血が流れてる、鼓動を感じている。
「……はあ。説明するとまあ、あたしの体なんだけど。あたしらってほら、手とか足とか変形できるっしょ。その応用なんだけど」
「変形したってこと」
「そう。あたし、親父の血が濃いから再生力すごく強いんだ。体のなくしたパーツつくるなんてわけないし、元からなかったものもつくれるってこと。ずっとつくったものくっつけとくのは無理だけど」
じゃ、じゃあ、アイヴィーは男の人のそれをつくってくっつけちゃったってことか。たまげたなあ……。
感心していると顔をまたなめられた。
「この姿になったのはおまえにそーいうの見られたくなかったってのもある。で、そろそろ動いていいか?」
「う、うん……」
ゆっくり腹から抜けていき、強く腰を打ち付けられて意識が飛びそうだ。大きさを調節できるからか、ギリギリまで太く長くて動くたびにいろんな場所にこすれていく。
「うぁあああっ、まって! まってよ! ひっ!あ!」
一気に汗が吹き出す。静止を求めても、聞く耳を持たない。奥にがっつりと押し込まれると体がのけぞって、ぶるぶる震えた。アイヴィーは息を荒くして舌をだらりと垂らし、よだれを流している。目を見開いて口をだらしなく開けてると、ジッと俺の顔を見つめて。
「おい、もっと可愛い顔できないか」
「しんじゃう、しんじゃう。おれ、おれしんじゃう」
全然余裕なんてない。泣きながら、その延長で声が出て鼻水が止まらない。その様子に少しは心配したのか、一度腰を止めた。
「死にはしねえよ。ほんと、きたねー顔」
「も、もうやだよ。抜いて。痛い……」
顔の涙や鼻水を舐めとると、大きな鼻を押し付けてにおいを嗅ぐ。嫌になって腰を引かせて逃げようとすると、また強く打ち付けられた。
「あ"あ"あ"!」
「逃げんな」
「しぬ、しぬ、しぬっ」
なんかサドっぽくなってる? 低い声で、威嚇まじりに。どんどん腰の動きがはやくなって時々視界が弾けた。汚い泣き声を絞り出して堪えてるしかなかった。
また奥の奥を貫かれて痙攣すると、アイヴィーはしばらくそのままでいた。中に出てる。全部出して満足したのか、ゆっくりと抜いた。倒れた俺に甘えるみたいに軽く噛み付いたり、なめたりする。
肩でなんとか息をしてる。起き上がろうとしたけど体が重くてだめだ。上半身だけ起こしてアイヴィーの頭をなでると、鼻で嬉しそうに返事した。
「ちょっとだけ休憩しよう」
「……え」
「? あたしまだ足りない」
「嘘だろ……」
「今度は痛くないようにするからさあー」
頭を抱えて、また床に倒れた。





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