[携帯モード] [URL送信]

Uターン
ハッピー・バースデイ!

もう誕生日を楽しみにしなくなったが、親父は相変わらずだ。クリスマスは祝わなくなったけど、誕生日だけは相変わらず。
テーブルには二人で食べきれないほどのご馳走。母さんが来る予定だったが、急な用事でこれなくなったそうだ。母さんは女性にしては体が大きいから、よく食べるんだって。あと俺と同じで甘党だから、チョコやクッキーも並んでいた。
「チャコー? そっちコップある?」
「ひとつしかないよー!」
キッチンから親父の声。すぐにコップとコーラを持った親父が部屋に入ってきた。真っ白い髪の毛でパッと見は少し老けて見えるが、顔はまだまだ若々しい。
そんな顔を限界ってくらい歪ませて笑い、俺の隣の椅子に座った。
「チャコ、お誕生日おめでとー」
「ありがとう」
成人男性にしては小さめの手で、俺の頭を撫でた。親父は背が低いが俺はそれよりも少し低いので、はたからみれば親子というより少し年の離れた兄弟に見えるかもしれない。
髪は母さんに似て黒髪だけど、ピンク寄りの赤い目とか顔の骨格、体つきも似ているし。でも目の形は母さんから、足が太いのも母さんから。どっちにも似てるけどどっちかと言われるなぁ、俺の力も母さんからほぼすべてを受け継ぎ、少しの親父要素もあるんだけどさ。
小さめのケーキには、もうロウソクは刺さってない。
「これからの一年、チャコにとっていい一年になりますように」
そう言いながら手渡してきたのは、可愛らしいラッピングをされた小さな箱。
「開けていい?」
「もちろん」
丁寧にラッピングを剥がしてみると、それは緑色のmp3プレイヤーだ。最新型で、俺がCMを見るたびに欲しい欲しいと言ってたやつ。
「うわーっ! ありがとう!」
「伝えておくよ」
新しいプレイヤーは蛍光灯の光に当てられてピカピカ光っていた。ふとプレイヤーの後ろ側を見てみると、小さな文字で何かが彫ってある。
「愛をこめて。グレイ・ブロウズより」
……母さんからのプレゼント? 親父が母さんに伝えたのか……。プレイヤーをぼんやり見ていると、親父が封筒を差し出す。母さんの名前と、俺の名前があまり綺麗ではない字で書かれていた。

『親愛なる私の息子へ。誕生日おめでとう! そして、再びこのような場で祝わなければいけないことを申し訳なく思っています。ハイスクールにはもう慣れたかな? 今までと勝手が違って、悩むことや嫌になることもあるかもしれない。でも、それを自分の武力のみで解決しようとしてはいけないよ。弱いものを力で踏みつけて支配することは、悪魔のなかでは弱い心の持ち主だとか、高貴な血が汚れると言われてとても恥ずべき行為だ。人間世界でも、そのような者はたくさんの非難を受けるだろう? きみがその大きく強い力を使うべきなのは、愛するものを守る時だ。奪うためではなく、なにかを守るために使ってほしい。そろそろきみにも愛する人ができたころではないかな? その彼女や友達が危険に晒された時は、思う存分その力を使って、守ってあげてほしい。私の仕事が落ち着いたら、一度きっときみに会いにゆくよ。一度私と手合わせするかい? ははは……。何か自分の体の変化に不安があったら、隠さずにお父さんや倫太郎さんに言うこと。きみはまだまだ強くなるからね、私はとても楽しみだ。では、これからの一年が、これまでの一年よりもずっといいものになりますように……』

母さんからの手紙。何年も会ってないけど、誕生日だけはこうして手紙とプレゼントが送られてくる。
親父がもう一つ箱を持ってきて、それを俺に渡してきた。
「これはお父さんから」
箱を開けると、紫と白のスニーカー。
「すごいかっこいい! ありがとう!!」
「どーいたしましてー」
思わずニヤニヤしてしまうと、親父も笑ってこちらを見ていた。
「大きくなるたび、ほーんと、お母さんに似てくるね」
「そんなにかな?」
「髪の毛とか、目の下のほくろもお母さんにあるし。昔のお母さんにそっくり」
「そうなんだ」
母さんに会ったことはほとんどないが、テレビではよく姿を見る。生きている感じのしない冷めた赤く鋭い目。その姿はまさに獣であり、じっときつい視線をカメラに突きつけている。
確かに見た目は、似てきたと思うが。人間離れした雰囲気は持っていないんじゃないかな。ふつうに生活できてるし。
ただやっぱり、親友と呼べるような人間がいないのは異能者だからではないかと思う。言い訳かもしれないけど。
人間たちからすれば俺たちはヒトの形をしたヒトの言葉を話す化け物でしかないのだ。人間たちは異能者を排除することはできるが、そのためには大きなエネルギー……、つまり核などが必要なのだ。そうなっては異能者側も人間側も困るので、なんとかうまく共存している。
「チャコ、学校は楽しい?」
親父の問いかけに、すぐには答えられなかった。楽しいか?と言われると楽しくない。
逆に学校が苦しいか? と言われるとそうでもない。なぜならば、学校の人たちは積極的に俺に干渉しようとしないからだ。
俺を怒らせれば殺されたり大怪我したりするかもってこと。異能者にもよるのだが、俺は身体能力が極めて高く、特殊な能力は少なめで一番シンプルなタイプだ。
有り余るパワーを完全に抑えることは難しく、たまに走り回ったり野犬を狩ったりしなければイライラしてしまう。
そのため体育や登校中に人間離れした俺の様子を見ている奴らは俺に干渉したがらないってこと。
でもいいんだ、俺は一人じゃあない。俺のことを理解してくれる人間がひとりいればそれでいいさ。俺は自分の生まれが特殊であることを恨んではないし、それはどうにかできたとしてもしようとは思わない。
親父が好きだし尊敬しているし、親父の子どもでよかったと思ってる。
「チャコ? どうかした?」
「……なんでもないよ。楽しい」
「そっかあー。今度の夏休みにでも、魔界へ行こうか。おじさんのお墓参りに行かなきゃ……」
俺は大人になったら、どうしたいだろうか? 誕生日を迎えたからか、普段考えないことだけど……。
普通なら母さんのようにNDだろうか。普通の人間のように普通の会社に就職して働くことはできるのだろうか。
他の異能者の子どもたちはどうするのだろう? NDの他だとテレビや雑誌なんかのメディアで活躍している異能者もいる。あとは消防士だとか、やっぱり体を張るものが多い。
人間よりもずーっと体が丈夫だし身体能力は高いし、怪我の治りも早い。骨が折れたって二日で元通りだ。
使い捨ての奴隷のようなものなんかじゃない、ほんとのスーパーヒーローみたいなもの。
やっぱり俺もそうなるんだろうし、そうなりたい。
母さんのように自分が使う力を暴れるためや傷つけるためではなく、弱い立場の人や力を悪い方向へ使う人を止めるために使えたならどれだけいいだろう。
「チャコ。何か心配ごとがあるみたい。話す気になったらさ、お父さんは話いつでもきくからね」
親父には全部バレているみたい。小さく頷くと親父は子どもみたいに笑った。
「いいこに育ってよかった」
質のいいとは言えない、ちくちくごわごわとしたスポンジのような黒髪をくしゃくしゃにするくらい撫で回す。照れ臭くて手を払いのけると、その手はびっくりするくらい暖かかった。
(このうちに産まれてよかった)




[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!