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Uターン
悪意を感じる獣などいるはずがないのに

ライラは思ったよりも話しやすい人だった。うまく話も軌道に乗ったし、ライラはいろんな話を冗談を混ぜて話してくれた。表向きはクールで知的な印象で、冗談なんて飛ばしたら睨まれそうだけど、本当は、……そう、俺よりも少し年上ってだけの普通の人。
異能者だから、悪魔だからそうなのかもしれない。なんというか、『気が合う』というかそれとは別の何か。それがなんなのかはいまいち分からないけど、分からなくてもいいと思う。
二人で夜明けまで喋っていた。どうでもいい話、生まれの話、親の話。
ライラは自分の親を知らないらしい……。生まれてすぐにおばあさんの元で暮らしていたらしい。
体が弱かったせいか、おばあさんのうちからはほとんど出してもらえなかったんだとか。そのおかげで本を読んだりするしかすることがなくて、結果さらに目が悪くなってしまったそうだけど、過ぎたことは仕方が無いって。
おばあさんは厳しくて怒ると怖いけど、勉強の教え方はうまかったし、そのおかげで倫太郎さんと一緒に地上にきて、ジュニアハイスクールに入った時のすぐのテストで、全教科の点数が学年三位以内だったんだとか。
「モテるでしょ? 背も……、高いし」
コンプレックス。
「そうだね……。彼女は何度かいた事あるんだけど。なーんか、『思ってたのと違う』って」
「……ふられる?」
「そう。向こうから来て、向こうから、出てく。不思議だなあと当時は思ったさ。いや、今でもわからない……」
「羨ましい話だよ」
「……そうかな? 僕、あんまり女の子に興味なかったし……、自分以外の人っておばあちゃんとおじさん……、倫太郎さんしか会ったこと無かったし……。何にもわかんなくて」
軽く笑って、でもすぐ素の表情に戻る。
「でも、楽しかったなあ……。学校」
「今は? 大学とかは……」
「先生にも言われたんだけどね。進学したらって。成績よかったし。でも、僕は人間として生きるかどっちなのか……。考えたんだ。それで、倫太郎さんについてくことにした。今思えば……、おじさんとおばあちゃんは僕に選ばせるために、きっと学校に通わせたんだよね」
選ぶ、って。人間の生き方と悪魔や天使の生き方のどっちかって、難しいなぁ。
「僕は体が弱いからさ、大学に行って、勉強して就職して、気の合う女の人と結婚して。それから子ども作って生きるのもいいだろうって、そう思ったんだろうね」
「でも、家族をつくっても、俺たちは子どもが死ぬまで長生きしてしまう。それって……、すごく、悲しくない」
「そう、そこなんだ。僕の寿命は他の天使より極端に少ない……、確か今だと……、一ヶ月生きられたらいい」
得意げに笑うライラにぎょっとする。もう朝だ。太陽はのぼりきって眩しく、鳥が騒ぎ出した。
「一ヶ月!? 寿命? 自分の寿命がわかるの?」
「そゆこと。さあ、明るくなったし、きっとおじさんも帰ってくるよ」
いそいそと立ち上がり、おぼつかない足取りでホテルの中に戻って行く。
「君は……、チャコくん! 君はもう進路、きめてる?」
……死んだのに、確かに俺は生きてる。なら進路も真面目に考えるべきなのかなあ?
ふーっと息を吐くと、タバコを片手にアイヴィーがやってきた。
「てめーら、夜中にぺちゃくちゃぺちゃくちゃうるせんだよ。女か」
「起こしちゃってた? ごめん」
ライラが居た場所にアイヴィーは座り、黄色い箱を差し出した。
「? くれるの?」
「朝メシ」
カロリーメイト。これ、口ん中がパサつくから好きじゃないんだけど、まあもらっておこう。
「ありがとう。きみは?」
「食った」
パンが入っていたらしいビニール袋を軽く投げ、火を付ける。袋は燃えかすになって風に飛ばされていった。
「倫太郎さんが戻ってきた。昨日のこと……、あたしは報告してないからな」
……タバコ臭い。箱を開けてカロリーメイトを噛むとぼろぼろと粉が足元に落ちる。アリはすぐそれを見つけて、森のほうに持っていった。
「おはよ!」
「倫太郎さん!」
アイヴィーと倫太郎さんは俺を囲むように座った。
「ひとつもらっていい? 俺、これ好きなんだよね」
返事をきかず、倫太郎さんは俺の手からカロリーメイトを持っていった。


「昨日、ずいぶん面白いことがあったみたいじゃない。何があったか、話してくれる?」
「悪魔に、会ったんだ……」
「……なんだって!?」
倫太郎さんの口からカロリーメイトの粉が噴き出す。赤いフレームの眼鏡もズレて、その奥の緑色の目は見開いていた。
「とても信じられないような話をしてくれたよ。俺じゃ喋っても理解してもらえるかどうか……。明日会ってくれるって、そう約束したんだ。倫太郎さん、来て、話を聞いて欲しいんだけど……」
「行く! 行くとも! ……つまり、その、あの女は悪魔だったわけだ?」
「そうだよ」
「……ふうむそうなると俺とセオドア以外にこっちへ移動してくることができる者がいるというわけだ。セオドアについてる悪魔ではないようだし……、ね」
「目的は全くおなじ、セオドアを殺すことだって」
「……うーん……」
倫太郎さんはかじりかけのカロリーメイト片手に考えごとをはじめた。アイヴィーは倫太郎さんを見て、ぽつりとつぶやく。
「会いにいくなら鏡を持っていったほうがいいな」
「……どうして?」
「持っていけばわかるさ」
ああ、アイヴィーも気づいていたんだ。倫太郎さんとレヴィンが似ていたこと。いまいちレヴィンの話は信じられないものだったけど、レヴィンの姿自身がそれを証明していた。倫太郎さんやライラの血筋をたどると、きっとレヴィンにたどり着くのだろう。
「まあ、それはいいんだ。それはね。……うーん。隠し子か?」
「隠し子? 隠し子ってなんだよ?」
「いいや、なんでもないよ。気にしないで」
アイヴィーの言葉を払いのけ、ひとりで悩む倫太郎さん。倫太郎さんの悩みは、レヴィンやベルベットさんに会えば解消するのだろうか?




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あきゅろす。
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