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Uターン
その女 3

その男の子は、レヴィンと名乗った。普段は海の底で暮らしていて、たまにこの洞窟へ供えられたものを取りに来るんだとか。この像ほどいかめしい姿ではないそうだけど、龍であることは間違いでないとか(正しくは龍じゃなくて竜らしい)。
レヴィンの語る話は興味深かった。

「……オレ? オレはお前らのご先祖さんの、きょうだい」
何者なのか、という問いの答え。
「左目の泣きぼくろ。それ、サタンにもあったな。……あと、ベルゼブブの血も強く混ざってる」
そういえば俺にもアイヴィーにも、左目に泣きぼくろがある。母さんにもたしかあったけど、親父にはなかったな……。
「ベルゼブブ……?」
「お前、ベルゼブブが強いぜ」
アイヴィーを指差して、レヴィンは言う。不思議そうな顔をする俺たちに苦笑いした。
「悪魔のルーツって知りたいか?」
「知りたい!」
「知りたい!」
「オーケー……」

16世紀イギリス……、知ってるか? シェイクスピアで有名だろ。そこそこ裕福な貴族の家に男の子が産まれたんだよ。……これが悪魔のルーツになんの関係があるかって? ま、聞いとけよ。
後継ぎが産まれたから、その男の子の誕生をすっごく喜んだそうだぜ。そいつには姉ちゃんが居て、オリビアって言うんだ。ファミリーネームは、ロックウェル。
両親はたいそうその男の子を可愛がった。男の子もかわいく育ったんだ。でも、大きくなるにつれて、男の子は変な部分を見せていった。医者に見せても原因はわからなかった……、男の子は奇形だったんだよ。
だんだんと爪が鋭くなったり、身体中を羽毛やウロコが覆ったんだ。乱暴をしたり、ネコやイヌを殺したり、ぼんやりとして話をきかなくなったりした。
後継ぎの予定の子が奇形だぜ。幸い、その男の子はまだ12歳で、城の敷地から出たことがなかった。両親はまだ若かったし、新しく子どもを作ることにしたんだよ……。男の子を殺して。
両親は直接殺すのは辛かったから、信頼できる執事の男に任せたんだ。執事は男の子とは仲がよくて……、殺して埋めたふりをして、男の子を城から逃がした。金をいくつか持たせてね。
浮き上がった羽やウロコは自分の意思で消すことができたんだけど、もうできなくなっていた。男の子は悪いサーカスに捕まって、見せ物になったんだ。
執事にすべて聞いていたから、男の子は両親を憎んだ。いつか執事と姉が助けにきてくれる……、家畜同然の暮らしをしながら、男の子はそう考えて毎日暮らすしかなかったんだ。
この見せ物サーカスは貴族に大人気で、男の子が17になった頃、よその家に嫁いだ姉が見にきてしまった。ショーの真っ最中に舞台に上がってしまったんだ……。男の子は喜んだ……、一緒に逃げようと思った。けど、止められちゃうだろ?
男の子ははじめてここで、魔法を使った。サーカスの団員も客もぜーんぶ、殺しちゃったんだ。姉も殺して、暴れた時に誤って体に傷を作っちゃったんだが……、姉の皮膚を顔に縫い付けた。
……そう! 当たり! この男の子が最初の悪魔。偶然人間から産まれた人間でも動物でもない、その間の生き物だったんだよ。
それから男の子はずっと一人……、じゃなかった。あっちこっちで悪さをして回ったんだ。ジャック・ザ・リッパー、知ってるだろ。その男の子らしいし……、絵描きになりたかったアドルフ・ヒットラーをそそのかしたのもその男の子らしい……、あ、これは聞いた話だからわからないぜ。
神様って、信じているか? ……信じていない? そうだろうな。実際、いないんだからさ。でもお前らの世界には居たはずだぜ。俺が譲ったんだからな。
よし、話に戻るぜ……。
男の子は……、や、もう成長して男だったんだけどさ。ある有能な医者の下で勉強していた。その医者に魔法を使ったりして、その時代ではあり得ないほどの技術を医者は手に入れた。
誰にも言わない……、秘密の約束だったんだよ。医者はべつに偉くなりたいなんて思ってなかったし、自分だけが貰った力を言うなんてとんでもなかった。ばれたら絶対悪いことに使われるからね。
で……、男の願いを聞いたその医者は男を調べて、男と同じような生き物を作ろうとしたんだ。成功までに何度かかかったけど、何年かしてひとり、成功した。その男と同じくらいの力を持つ男をね。
それまでの失敗作の六人と、はじめての成功だったひとりに名前をつけた。恐ろしい姿をしていたから、七つの大罪と同じ名前をつけたのさ。
白い方はベルゼブブ……、黒いのはサタンに似てるのは、その二人の悪魔の子孫ってこと。や、実際子作りできる力は六人にはなかったから、医者が遺伝子を混ぜて子どもを作ったわけ。
今いる悪魔は、失敗作の六人と成功したひとり、そして最初の悪魔の八人のだれかの血を絶対継いでるってわけさ。そうじゃないやつは、すぐに死んでしまうだろう。だってこの八人の血は、普通の体には馴染まないんだからな。
お、ピンときたかい? そう! 俺はレヴィアタン! 失敗作だよ。上から数えて三番目。きっと今も……、他の失敗作はオレと同じように隠れて生きてるはずさ。今も連絡つくやつもいるし、人間に化けられるやつは普通の人に混じって生きてるだろうね……。

……悪魔は他にもいる?! 俺たちの知ってるほかに、悪魔があと少なくとも七人いるんだ……。
「レヴィン……、連絡つくのは何人いるの?」
「そうだな……。三人」
「その中に女はいる?」
「いるけど」
そいつだ! あの女がセオドアならわざわざあんな場所にいないって、倫太郎さんもきっとわかってたんだ。だからほんとに人探しには役に立たない(と、いっちゃあ失礼かもしれないけど)ライラじゃなく、アイヴィーと二人にさせたんだ。
アイヴィーと、少しは会話が続くようになったし、……や、まだ、まだだけどさ。
アイヴィーと目を合わせ、ガッツポーズした。アイヴィーも同じ事を考えていたんだ。
「俺たち、悪魔の女を探してる。黒い髪の若い女」
「……マルキュービルの11階。緑の鳥の絵がかいてるからすぐにわかる。一番奥の部屋に行きな。きっと姿は違うだろうが……、間違い無く目当ての女だと思うぜ。レヴィンが『日曜にワインを持って遊びにこいよ』……って言ってたって、伝えてくれよ。きっとわかるだろうからさ。ついでにお前らも一緒に来ればいい」
レヴィンはそう言うと、くるりと背を向けた。
「お前たちに会えてよかったよ。ここに来てくれたら、すぐに行くからな。日曜、楽しみにしてる。チーズも欲しい」
水飛沫が上がり、レヴィンは消えた。……レヴィンの話って、本当なのかなぁ? なんだか胡散臭いし、すごい話だけど……。
「あいつ、すっげえな。最高にクールだ」
馬鹿にした口調。ゆっくりとアイヴィーは立ち上がり、腰を軽く叩いた。
「そろそろ騒ぎも収まるころだろうし、ビルに行くか。騙されたら騙されただ」
アイヴィーと一緒に影の中に潜る。しばらく影の中を歩いて、アイヴィーが出た後に続こうとすると頭を押さえられた。
「お前が出てきちゃ、ややこしいからな。ビルについたら出てきていいから」
そう言われ、大人しくアイヴィーの足元に落ちる影に移動した。




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あきゅろす。
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