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Uターン
大好きな水玉パッチワーク

ぶかぶかなジャケットの裾をめくりあげ、右足に力を居れる。ほかの二人も気合いをいれはじめた。どうなるんだろうかと心配さえしたけど、倫太郎らさんの説明を受けてだまってうなづいた。
三人でひとつの敵を相手する場合、基本的にな相手はできるだけ受けに回ろうとする。逃げ回り、隙を見て一人を集中して落とし、手数を減らす。俺ならそうする。
ならば三人側の俺たちがすることといったら、捕らえて殺すまで追い続けることだ。それしかない。
手数が重要なのだから、重くて振り回しにくい武器を使うことはない。右手をナイフに変えて、真っ正面から向かって行く。
隣でアイヴィーも俺と同じように走っていた。
「邪魔だ!」
そんなこと言われたってな。倫太郎さんは動かない。腕を振り上げても。
「っ!」
倫太郎さんが視界から消えている。俺とアイヴィーの腕はぶつかりあった。
「チームワークが大事だよ」
倫太郎さんは小さくしゃがみ、下から俺たちを見上げていた。カカッと細かく軽い音がして、そのほうを見ると小さなウロコが壁にいくつも突き刺さっている。
その時、頭がずんと重くなった。体がどんどん冷えて行く。寒かったはずなのに汗がだらだら垂れてきた。……何かされた!
「う、うっ」
体が思うように動かない。倫太郎さんは何時の間にか脱出しており、アイヴィーを壁に追い詰めていた。ライラも後ろからやってきて、何かをしきりに飛ばしている。あのウロコを飛ばしていたのはライラか……。
何とか立ち上がると、ライラがこちらにやってきた。
「大丈夫か!?」
「な、なにが?」
俺の背中にへばりついたかと思うと、激痛が背を走る。声を堪えて耐えると、少しずつ収まっていった。
「放っておけば全身に回ってしまうが、すぐじゃあないし治るからね」
「……? あ、ありがとう」
それたけ言うと、ライラは走り出した。それを後ろから追う。アイヴィーは倫太郎さんの攻撃をギリギリのところで避け続けていた。やっぱり、倫太郎さんは足しか使っていない……。ライラが飛びかかり、アイヴィーはやっとの思いで抜け出した。
地面を蹴り俺も続くが、 吹き飛ばされたライラにぶつかってそのまま床に落ちた。強く頭を打って意識が飛んでいきそうになる。そばではアイヴィーもぐったりと四肢を投げ出していた。
「おわりかい?」
倫太郎さんの声に、ライラがゆっくりと立ち上がった。俺をクッションにしたから、それほどダメージはないんだな。
倫太郎さんは少し笑って、歩いてきた。ライラは動かない。小さな声でライラが俺に話しかけてきた。
「ギリギリまで近づけたら、僕を撃ってほしい」
なんで!? と聞く暇も無く、倫太郎さんはライラの首に手を掛けた。ライラは一切抵抗しない。
ええい、どうにでもなれ!
腹に向けて思い切りぶっ放した。銃声はしない。低い小さな爆発音がしただけだ。冷たい床を血が濡らしていく。倫太郎さんはひどく驚いて、こちらを見ていた。ライラか指を鳴らすと少し顔をしかめ、ライラから手を離す。
「俺の負けだよ!」
ライラはその声を聞いた瞬間、ぐったりと前のめりに倒れた。倫太郎さんは受け止め、ゆっくりと下ろす。……何がなんだかよくわからないけど、勝ったんだから、いいか!
ふうっと息を吐いた。
倒れたライラの治療を済ませた倫太郎さんは、床に倒れこんだ。
「チャコくんとアイちゃんは、怪我してない?」
大丈夫だと俺は言ったが、アイヴィーは黙ったままだった。
「アイちゃん?」
「……なんでもない」
「なら、いいんだけれど……」
倫太郎さんはなんともいえない表情をしていた。着ているシャツは血で染まり、溶岩みたいに蕩けている。シャツを脱ぎ捨てたが、腹にまで血は伸びている。
「あー、これ、治るの時間かかるかも」
「? 治さないの?」
「自分は治せないんだよ。こういうとこ、万能じゃないっていうか……。はは。ライラが手加減してくれたみたいで、二日もあれば元通りだろうけど」
借りていたジャケットを返そうとしたが、暑いからと断られた。シャツの汚れていない部分で血をふけるだけふきとり、俺に渡す。
「燃やしておいて」
「? いいけど」
手に丸めたシャツを握りしめると、黒い炎が燃え上がってみるみるうちにシャツは小さな灰に変わっていった。
「こうすると、処理が楽でいいや。騒ぎになってる以上、こういうのは一応気をつけておかないとね……」
そう言うと倫太郎さんはライラの様子を見に行った。治療のおかげか、さっきよりも苦しそうに見えない。
「ライラとチャコくん、おもしろいことしたね。でも、ライラは体弱いから少し心配だけれど」
「ご、ごめんなさい。知らなくって」
「ライラが言ったんだろ? きみは悪くないよ。それよりさ、一緒に戦うのはじめてだよね。二人でこんなことできたら、上等ってもんだよ」
何があったのかよくわかっていないけれど(俺の放った弾がライラを突き抜けて倫太郎さんに当たった? でもそれにしちゃあ、重症だ)、褒められた! 嬉しい! 倫太郎さんに褒められた!
目に見えて喜んでいるのが分かったらしく、倫太郎さんは軽く笑った。
「でも、アイちゃんと仲良くね」
アイヴィー、そうだ、アイヴィーは何してるんだろう……。ライラのほうに気配を感じて振り返ると、アイヴィーは寝そべっているライラのそばについていた。
「アイちゃん……?」
倫太郎さんが呼びかけると、びっくりしてライラから離れた。顔を真っ赤にして、つり上がった目をさらにつり上げて睨んでいる。
「……なんだよ!」
また大げさな舌打ちをして、睨みながら。
「ライラには絶対、絶対、言うなよ」
思わず俺と倫太郎さんで顔を見合わせた。アイヴィーは立ち上がり、また外へと歩き出す。
「別に、なんでもないんだ。ただ思い出してただけだから」
アイヴィーって、ほんと、何者なんだろうか? 滅んだ世界から来たとか言ってたな。俺も違う世界から来たから、そのへんはそんなに驚かないけど。
「彼女の世界では俺とライラは死んだらしい」
ぽつり、と倫太郎さんは漏らす。
「俺もタバコ吸おうかな」
アイヴィーが丸めた背中の向こうで、白い煙がゆっくりあがっていた。横に並び、倫太郎さんからも煙があがる。




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