[携帯モード] [URL送信]

Uターン
誰がこまどり生かしたの

折角、今日はクマ上司が用事で居ないっていうのに、部屋は五月蝿くて仕方がなかった。
高い声で騒ぎまくるNDのメンバー、モニカ・エインズワース。赤い毛を肩まで伸ばした、つり目で背の小さな女性だ。かわいらしいとは思うが、騒がしいタイプの女性は恋愛感情では見れない。で、なぜ騒いでいるのかというと。
「あの事件がどーやら異能者が犯人だって、こっちに回ってきたんですよッ!」
「若い女ばっかり殺しまくってるってあれか」
「そうそう、そーです!」
ホッチキスで止められている紙の束を渡してきたので、受け取った。
殺害方法は、ネクタイでの絞殺。遺体の上に、いつも違う愛のメッセージ付きで使われたネクタイが置いてあるらしい。その後に手足を切断。切断された手足はまだ見つかっていない。異能者だと思われるポイント……、それは、残された胴体部分から、内臓がごっそりと抜かれているということ。傷ひとつ無く、胴体はいたって綺麗。普通の人間にはできない芸当だからだ。見つかっている遺体は18体で、すべてが20代前半までの若い女性か子供で、体内に何者かの体液が残されている。犬や猫の同じような遺体も大量に見つかっている。遺体が見つかった場所は、小学校の花壇や公園の砂場、自転車置き場などなど、人の目につく場所ばかり。
「変態でロリコンでキチガイか、救いようがねえな」
昨日倫太郎がうちにやってきたせいでばたばたとしていて早く落ち着きたいのに、しばらくはこの事件のせいで忙しくなりそうだ。
「最後のページ、見ました?」
「まだだが」
「じゃ、口で言っちゃいます! 身長は175センチほどの、少し細身な二十代。それで、緑色の髪をしている男性が被害者と一緒に居るところを見たって電話がたくさんきてます」
緑髪なんて、そうそう居るもんじゃない。結構簡単に蹴りがつきそうだ。
「こいつは思いっきりブン殴って殺しちまってもいいのか」
「大丈夫ですよ」
ま、これだけの事をして殴るなってのもおかしいよなぁ、と思いつつ。そうするといきなり部屋の扉が開いた。
「どうもすんません、例の事件で……、犯人と思われる男と接触したことのあるという女性が来てくださったんで、連れてきました」
振り向くと知らない若い警官(新しく入ってきたのだろうか)が立っていた。隣の部屋に案内しておいてくれと言うと、メモ帳とボールペンをひっつかみ、すぐに部屋に向かう。モニカはコーヒーを淹れて、後から着いてきた。

部屋では青いショートカットの女が黒皮のソファーに腰を下ろしていた。青い髪は似合ってはいるのだけど、やっぱり不自然で、浮いている。夏だというのに長袖のシャツにロングスカートという、いかにもおとなしそうな文学少女といった感じの風貌だ。
「どうも、わざわざ来てくださって、ありがとうございます」
「あっ、はい……」
モニカが笑ってお辞儀をするのに続いて、焦ってお辞儀をした。こういうのを身に付けなければならないと思うと、気が遠くなる。
ソファーに座ると、モニカも座り、コーヒーを配った。
「あ、あ、あのう!」
緊張しているようで上手く言葉は出ないが、目はまっすぐこちらを見ていた。
「わたし、その……、あの事件の犯人に、つけられてるみたいで! 顔も見ました、名前も……、ファーストネームだけですけど、知ってます」
「つけられてる? 来て大丈夫だったのか?」
「ちょうど、今日は父が遅めに家を出たんで、車に乗せてもらいました。大丈夫だとは……、思うんですけど……」
空を飛んで長距離を追える異能者は多くない。天使でも、車のスピードには追いつけず、見失ってしまうだろう。正しい選択だと言える。
「……それで! 絵をもってきました!」
ゴソゴソと鞄を漁り出してきたのは、眉のあたりから顎まで傷のある緑髪の男のリアルな絵。目、鼻、口、眉の生えかた、骨の形、肉の付き方。どこを取っても綺麗に整っており、本当に存在するのか不安になるくらい。
「い、いちおう、見たまま描いたつもりです、信じられないかもしれないですけど……」
「こんな傷があるってのは新しい情報だ、ありがたい」
モニカに絵を回すと、驚いたような顔をした。
「すっごい男前じゃない! それに異能者なのに……、もったいない……」
ため息をつき、テーブルに絵を落とすと、ふわりと舞って着地した。
「つけられてるんだろう、なら話は早い、今日中にでも見つけられる」
いい策があった。向こうを怒らせればいいのだ。先に手をつける……、ふりをすればいい。好きでつけている女が取られれば、怒って姿を現すはず、異能者ならなおさら、自分と一般人なら喧嘩には余裕で勝てるという圧倒的自信が常についてまわる。簡単だが、確実な方法。
「どうやってですかあ?」
「後で、説明する。……名前を教えてもらえるか」
モニカが振ってきた話をへし折り、青髪の女に振った。
「ドロシィです。ドロシィ・ドレイパー」
「ドレイパー? もしかして、あなたのお父さん、チャールズって名前じゃない?」
「あ、そうですよ!」
警部が美大に行っている可愛い一人娘が居ると言っていたが、まさかこんな形で出会うとは。だから絵が上手かったのか。
「こいつの名前、知ってるんだよな?」
絵を指差すと、こくこくと頷いた。
「セオドアです。でも、テディって呼ばれるほうがいいって」
「なんで知ってる?」
「電話がかかってきて……、外を見てって言うんで、窓を見たら、この人が手を振ってたんですよ」
個人情報なんて、簡単に金で買えてしまう。……NDの警部の娘と知ってつけているのか? 挑発をしているのか? いや……。
「それはいつ?」
「二週間前です。それから、いつも視線を感じて……、カフェに行ったら少し遠くの席に座ってましたし。スケッチしようと公園に行ったら、女の人と話をしていたんですけど、こっちを見てました。その時に描いたのがこれです。電車に乗ったら隣の車両から見ていたり……、電話もたくさん……」
さっさと処理してしまおうと思った。ダラダラしてドロシィが殺されてしまうと、後でどんな目にあうか目に見えていたからだ。



[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!