いちごの宝箱
世界に魔法の杖をふる
ハッピーがリリーと特訓だからって、泊まり仕度をしていたから。
それをナツがつまらなさそうに、付き合いの悪くなった青猫を見ていたから。
あたしはずるい女になってしまった。
周りを自分への言い訳に、まるで意図したことじゃないのよって顔で、ナツを誘ってしまった。

「ああ、どうしよう」

自宅に帰り着くなり頭を抱え、ルーシィは息を吐き出した。
『そんな暇だって言うなら、明日遊びに行かない?』
だなんて、平気な顔してなんて事を言ってしまったのか。
『おういいぜ』
そう言って簡単にあたしの誘いに乗ってきたナツに、
しても空回りだって分かってるだけの期待をしてしまう。
だって、明日は、クリスマスイヴなのだから。
きっとナツは気付きすらしてないだろうし、
そもそもクリスマスを二人で過ごす意味だって、わかってはいないだろう。
明日どんな顔で会えばいいのよ、服は、髪は、いつものあたしがわからない。


「キ、キャ、キャンサー!たすけて!」

「了解エビ 」

戸惑いのまま呼び出したキャンサーに、とりあえず明日の服やメイクを相談する。
ああもう、どうすればいいのかしら。


ー 世界に魔法の杖をふる ー


待ち合わせ時間より早く到着してしまい、
ルーシィは冷たくなった両手をこすり合わせた。
なんだか、すごく楽しみにしていたみたいだわ。
ナツと一緒にクリスマスイヴを過ごすだけなのに、
ギルドの外というだけで、何故か浮き足立つような妙な気持ちになるのだろう。
何度も繰り返した自問に、あえて答えを探さずルーシィははぁっと指先に息を吹きかけた。


「おはようルーシィ、待ったか?」


ポン、と肩を叩かれ、振り向くと楽しそうに笑うナツがいた。
いつものマフラーはそのまま、厚手のパーカーにチノパンというラフな格好だ。


「おはよう、ナツも早かったわね。待ち合わせ時間まだよ」

「ああ、ミラにこういうのは早めに行って待っとくもんだって言われて」

ルーシィ早すぎだろ、とナツは唇を尖らせた。

「そういや今日はクリスマスイヴだったな。せっかくだしツリーでも見にいくか」

「え、あんたクリスマスイヴ知ってたの?」

「は?そんなん常識だろ」

バカだなールーシィ、と意地悪く笑い、ナツはルーシィの手をとった。
冷え切った手を包み込むように握られ、ルーシィは咄嗟に手を引く。
じんわり伝わってくる高い体温が心臓に痛かった。

「なんだよ、寒そうにしてっから温めてやってんだろ?」

炎の滅竜魔導士らしい体温に包まれた手に、
今度こそ真っ赤になったルーシィは意思を持って引く。
だって、そんな事、相手がナツだとしたって、以前読んだ恋愛小説みたいだ。

「そ、そうだけど…ううん、やっぱいいや」

そうだ、ナツ相手に構えたって仕方ない。
自分なりの決着を出し、腕に込めていた力を抜く。

「変なやつ。って、ルーシィは元から変だったな」

そう言ってナツはにやりと笑うと、ぐいっと手を引いた。

「ほら行こうぜ!確か商店街だったよな」

「そうよ、確かソーサラーに魔法で仕掛けがしてあるって書いてあったわ」

「なんだそれ?面白そうじゃねぇか!」

ぎゅっと握られた手を引く力が強くなって、ナツの感情が伝わってくるようだ。
ルーシィは少し俯き、火照った顔を空いている方の手でこすった。

引っ張られるまま商店街の開けた所に作られた、
イベントスペースに設置されたクリスマスツリーの前に来ると、
流石にイヴなだけあって周りはカップルばかりだった。

「普段こいつらどこにいるんだろうな?商店街こんな混んでたの見たことねぇ…」

「そんなの、クリスマスだからしかたないじゃない」

「それもそうか」

人ごみをかき分け、綺麗に飾り付けられたツリーの下までなんとかたどり着く。
ツリーの横に小さく立てかけられた案内板には観覧の注意と、
かけられた魔法の説明が添えてあった。

「時間帯で変わるみたいだけど、光ったり音が出るみたいよ」

「へーおもしろいな」

「もうすぐ何かあるんじゃないかしら?」

「じゃあちょっと待ってようぜ」

楽しそうに口角を上げたナツが牙を見せてそう言った。
握られたままですっかりナツの体温と同化してしまったはずの、自分の手が熱い。
ナツの顔を見ると、胸の奥が苦しい。
逃れるように、ツリーを見上げ頷きだけで返す。
きっと見上げるツリーが目に眩しいのは、ナツのせいだ。
手なんか繋ぐから、嬉しそうに笑うから、
あたしはただのチームメイトでいられなくなってしまう。

「ルーシィ、見ろよ」

「え?」

「ツリーのてっぺん、星がまわってる」

「あ、本当だ」

金色の大きな星がゆっくり回って、緩やかに賛美歌が流れ始めた。
あたし達の周りから次々に歓声があがった。
人が多いとか関係なく、ツリーから流れる歌の美しさに酔わされるようだった。
ナツと繋がっていたままの手を握ると、同じ強さでナツが握り返してきた。
それにつられ、逃れたはずのナツの顔を見てしまった。
ナツは何故か戦っている時のような、酷く真面目な表情であたしを見ている。
どうしたの、と口を開こうとした時、

「好きだ」

ナツはそう言って、ゆっくりあたしから視線を外した。

「……え…」

「…あ、いや、…」

周りが見えなくなるって、本当にあるんだ。
それか、ナツの赤くなった耳が、周りの人も景色もボカしてしまったのかもしれない。

「その…好き、だ、って、仲間として?」

よね、と言いかけ、ナツに力なく笑いかける。

「…このタイミングで流石にそれは無いだろ」

「えっと、じゃあ…」

「そういう事だ」

ふいっとそらされた顔が、真っ赤になっていた。
どうしよう。
嬉しい。
頬が熱い。

「あたしも」

擦れるような小さな声で返した言葉に、ナツの手が熱くなった。

〈END〉

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