小説 (短編・中編)
おまけ
夕刻間近、バターンッと、勢い良くギルドの扉が開き、
ドタドタとせわしなく駆け寄ってくる足音に、
グルリと身体ごと目を向ける。

その視線の先には、今日幾度となく辱めを受けさせられた元凶の、
桜髪が揺れるのが見えた。

「「ル〜シィ〜!!!」」

ボフンッ!と勢い良く胸に飛び込んできた青い塊を受け止め、
次に勢い良く駆け寄ってくる桜色に 、
とりあえず今日の鬱憤を晴らすが如く、回し蹴りを綺麗にキメた。

ドゴンッ!!

鈍い音と共にキレイな放物線を描く桜色…。

「∽∽∽∽。っ痛ってーな!いきなり何すんだよルーシィ!!
…たく。ホント狂暴だな…。」
口を尖らせ首をコキコキと鳴らしながら、不満を垂れる桜髪の少年。

「うるさい!今日はあんたのせいで、散々だったんだから!!」
間髪いれずに捲し立てる金髪の少女を
恨めしそうに見上げながら、反論する桜髪の少年。

「はぁ?んだよそれ…。オレのせいでって、まだ何もしてねぇぞ。」
「黙れ!ってか、まだって何!!あんたこれから何かする気なの!?」
「はぁ…。今日もいつも通りルーシィは喧しいなぁ…。」
「なっ!?」

更に抗議しようと口を開こうとした時、腕の中から…
「そんなことよりルーシィ。今日オイラ達魚釣りに行ってたんだ。」
と、青猫が床に置いてあるバケツを指差す。

青猫を椅子の上に降ろし、バケツを覗き込むと、魚が二匹泳いでいた。

「おぉ、ルーシィこれ今日の夕飯な。」
「え…?夕飯なって、二匹しかいないじゃない。」
「あぁ。それはルーシィとハッピーの分だからな。
オレは肉がいい。帰りに買い物して帰ろうぜ。」
「何それ…超勝手…。」
「おぅ。だってルーシィの作る飯は美味いからな。」

と、満面の笑顔で言われたら許容する他ない。
(……。それ…反則よ…。)

「もぅ…。しょうがないわね。豚でいいならうちの冷蔵庫にあるわよ?」
「じゃあ、あれがいい。ママレードで煮たやつ。オレ、あれ好きだ。」

ナツの言う『好きだ』の言葉が、料理に対してなんだと解っているのに
なんだか自分に『好きだ』と言われたような錯覚に陥り、
首も顔も耳までも蒸気したように熱くなる。

(ぜ…絶対、あたし…今…顔、真っ赤だ…。は…恥ずかしい…。)

赤くなった顔をこれ以上ギルドの皆に晒していたくなくて、
バケツをギュッとハッピーに押し付け、ナツの腕を引っ掴み、
グイグイと半ば引きずる形で、出口へと急ぐ。

「もももももぅ、はは…早くかかかか帰るわよ!」
「おぃ!引っ張んなって!…つか、どもり過ぎじゃね?
んぁ?オマエ…顔真っ赤だぞ?…どした?」
「うううううるさい!ほ…ほら!ちゃんと歩いて!」
「ん〜?何怒って…。あぁ…。バカだなぁ〜。
料理だけじゃなくて、ちゃんとオマエの事も好きだぞ。ルーシィ。」

ギシリと固まり、
ギギギと錆びた音がしそうな程ぎこちなく桜髪を振り返る金髪。
顔と言わず、全身から火を吹き出さんばかりに、
白い身体を真っ赤に染め上げ、大きな琥珀色の瞳に涙を溜める。

(ナ…ナニイッテンノ!?)

ショートした頭を抱え金髪をぐしゃぐしゃに掻き毟りながら、
その場に崩れ落ちた。

「おおぃ。ルーシィ!?大丈夫か?…たく、しゃーねぇな…。」
ペタリと座り込み放心してしまった金髪を桜髪はひょいっと、
米俵を持ち上げるように肩に乗せ、
「ハッピー、帰るぞ〜」
と、そそくさとギルドの扉を出て行った。

チラリと見えた耳は…桜色の髪と同じくらい、
ピンク色に染まっていた。

そんなのを見せ付けられたら言わずにはいられない…

「「「「「「でぇきてぇるぅぅぅぅ」」」」」」

「…。ルーシィ自体が崩壊したわね…。」

冷めた白猫の呟きは、
お祭り騒ぎとなったギルドの喧騒に掻き消された。



もぉ…お前ら結婚しろ…。


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あきゅろす。
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