小説 (短編・中編)
甘い呪縛(3)
「なんて顔してるのよ?」
「だって…お前…もう…」

俺と一緒にいたくねぇだろ?その言葉を飲み込むと、
我慢しきれなかった、涙が一雫…ポタリとこぼれ落ちた。
それを、ルーシィは優しく拭ってやる。

「あのまま死んでいたら、こうしてナツの涙を拭ってあげることができないでしょ?」
「へ…?」
「あのまま死んでいたら、ナツが嬉しい時に一緒に笑う事ができない。」
「え?」
「あのまま死んでいたら、ナツのいたずらに突っ込むこともできない。」
「ルーシィ?」
「あのまま死んでいたら、ナツが苦しい時に大丈夫?って聞いてあげる事もできない。」
「ルーシィ…。」

そこまで言うと、ルーシィはギュッとナツを抱きしめた。

「あのまま死んでいたら、ナツが辛い時にこうして抱きしめてあげる事もできない。」
「オレ…。」
「あたしは、そんなのはイヤ。」
「なんで…。」

突き放されるとばかり思っていたナツは、
予想だにしなかったルーシィの言葉に驚き、目を見開いた。

「ナツ…。あたしはね、何を言ってあげればナツが安心するのかも…
どうすれば、その不安を取り除いてあげられるのかも、わからないの。
でもね…。でも…。」

伏し目がちにそう話すルーシィの言葉を遮るように、
ナツが言葉を発した。

「んな事ねぇよ…。ルーシィの言葉はあったけぇし…思いが詰まってんのもわかる。」
「そっか…。」
「それに、ルーシィが傍にいてくれるだけで、落ち着くし…安心できる。」
「うん…。」
「でも、それでもオレが不安に押し潰されそうになんのは…オレが弱いせいなんだ。」
「それなら…ナツが安心するまで、何度だって伝えてあげる。ここにいるよ。ずっと傍にいるよ…って。」
「でも…。」
「ナツの不安が無くなるまで、ずっとずっと…こうして抱きしめてあげる。」
「オレはまた、お前を傷付けてしまいそうで…怖い。」

ナツは、震える声でルーシィにそう…告げた。

「…傷付ける?」
「…さっきみたいに…闇に囚われたら…オレはまた…ルーシィの事…」
「大丈夫。ナツは絶対に仲間を…あたしを傷付けたりしない。」
「んな事!!…わかんねぇだろ。…現に…さっきだって…」
「ナツはあたしの言葉が信じれない?」
「そりゃ、信じるに決まってんだろ…。でも…オレは俺自身が…信じられねぇ。」
「自分を信じる事ができないのなら、信じなくていい。」
「え…。」
「その代わり…あたしの事は何があっても信じていて欲しいの。」
「ルーシィ?」
「あたしの事は、信じていて。」
「んなの…あたりめぇだろ?」
「それなら、大丈夫。ナツは絶対に、あたしの事を傷付けたりしない。」
「んなの…屁理屈じゃねぇか…。」
「大体あんな、触れてるだけで何も力の入っていない状態で傷付ける?何言ってんのよ?」

バカね…。とクスクスと笑いながらルーシィは呟いた。

「それとも…ナツはあたしに傍にいて欲しくない?」
「…無理だ。」
「ん?」
「隣に…オレの傍にルーシィがいないなんて…考えらんねぇ…。」
「うん。」
「でも…怖えぇんだ…。また…ルーシィを…」

小刻みに震えるナツを、ギュッと抱きしめ…
ルーシィはその耳元で優しく囁いた。

「大丈夫。大丈夫よ。何度、ナツがその闇に囚われても…」
「ル…シィ?」
「何度、ナツがその闇に堕ちても…必ずあたしが連れ戻してあげるから。」
「ん…。」
「ナツがあたしを信じ続けていてくれる限り、必ずあたしが連れ戻してあげる。」
「ん…。」

そうだ…。
俺がルーシィを信じているのだから…何も恐れる事などないのだ。

ひとりにしないでくれ…。
消えたりしないでくれ…。
ずっと一緒にいてくれ…。

相手に求めるばかりで、
きちんとその想いが返ってきている事に気が付いていなかったのだ。

大丈夫…。
君が信じて欲しいと言ってくれるから。
大丈夫…。
誰よりも、君を信じているのだから。

この先何度、闇が襲って来ようとも…
手を伸ばせば、そこに君が居てくれる事を信じているから。

〈END〉



おまけありまする。


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