小説 (短編・中編)
甘い呪縛(2)
ひとりにしない…。
消えたりしない…。
ずっと一緒にいる…。

ルーシィのその言葉を、信じていないわけではない。
いや…他の誰でもなく、
ルーシィの言葉だからこそ信じることができるのだ。
きっと、何があっても…どんな事があっても…
その約束を守ろうとしてくれるはずだ…。
それは、わかっている…。わかっているのだが…。

幾度となく、その約束を交わしても…
その約束の通り、いつもルーシィが傍にいてくれても…
時折、身体の奥底からドス黒い感情の塊が湧き上がってくるのは、
この世に『絶対』という物が存在しない事も知っているからだ…。

その意志に反して…
己の力の及ばない事で…
突如、大切な人を失う事がある。

そうならない様に…
常にこの手で守っているつもりだ。

しかし…いつも、いつでも、どこでも…
この手の届く所にルーシィがいる事は、物理的に…無理なのだ…。

その隙に…消えてしまうかもしれない…。

そう、思うと…不安で不安で…たまらなくなる。

ならば…いつも、いつでも、どこでも…
この手の届く所にルーシィがいる事が、物理的に…無理であるならば…。

(それなら…いっそ…)

いつも、いつでも、どこでも…
この手の届く所にルーシィがいる事ができるようにすればいい。

細い首へと震える手をかけると、
射抜く様な視線で、琥珀色の瞳が見上げてきた。

ナツは、心の中を見透かされないようギュッと目を閉じた。

手の平に、脈打つ感触が伝わる度に…
頭の中に、警告音が鳴り響く…。

「ナツ…?」
「ルーシィ…。こうするしかないんだ…。」
「何言って…。」
「こうすれば…ルーシィは、ずっとオレの傍にいてくれる…。」
「ナツ……。」

首にかけた手に、先程から力を込めようとするが、
その手には全く力が入らない。

元より…誰よりも一番、
己がルーシィを傷付けたくない…
そう、思っているのだから。

初めから、力を込めてこの首を締める事など…
ナツにできるはずなどなかったのだ。

より一層、大きく鳴り響く警告音に、耳鳴りがし始める。
震える手で、首に手をかけるナツの表情は苦痛に歪んでいた。

(バカじゃないの?そんな…苦しそうな顔…して。)

「ナツも…苦しい…の?」
「……え……?」

夢の中の、ルーシィとリンクする。
自分を殺そうとしている相手の、悲痛な心の叫びを感じ取り、
その相手の心配をする。

こんな目に合っているのにもかかわらず…
決して、ナツを責める事をしない…。

(なんで…なんで、お前は…オレを、責めない…。)

「これで…ナツは、楽に…なるの?」
「う…ぁ…ぁぁ……。」

夢の中のルーシィと同じ台詞を放つ、目の前のルーシィ。

『だから…いいよ。』

そう言って…許すのだろうか…。

(なんで…なんで…、オレを許そうとするんだ…。)

ポタリ…ポタリと、ナツの苦痛に揺れる瞳から溢れる涙が、
ルーシィの頬へと零れ落ちた。

ゆるゆると、ルーシィはナツの顔へと腕を伸ばし
零れる涙を拭ってやった。

そして、そのまま両腕をナツの背中へと回し、
思い切り自分の方へと、身体ごと引き寄せた。

「うわっ!?」

ドサッ………。

不意に加えられた力に、ナツの身体はバランスを崩し、
ルーシィの首筋に顔を埋める形で倒れ込んだ。

フワリと鼻腔を擽る、甘い花の様な香りに頭がクラクラとした。
突如与えられた、媚薬の様な香りに…麻酔に似た痺れが身体中を駆け巡る。

しん……と、静まり返る部屋の中で、
トクン…トクン…と、心地の良いリズムで脈打つ
ルーシィの鼓動が、耳の中に響いた。

ただそれだけで、先程まで心に燻っていたドス黒い感情が、
ゆっくり…ゆっくりと身体の外へと流れ出ていくのがわかる…。

ルーシィの温もりが感じられる…
ルーシィの香りが感じられる…
ただそれだけで…
こんなにも、心が幸せで溢れるのに…

それなのに…

(オレは…何て…バカな事を…。)

倒れ込んだまま、身動きひとつせず…
その香りと、鼓動を全身で感じていると、
頭上から、ルーシィの声が降ってきた。

「ナツ…。ごめんね。」
「な…んで、お前が…。」

謝るのは自分の方だ…
それが、何故ルーシィが謝るのかナツは理解できずにいた。

「あたしね。ナツのお願いなら、何でも聞いてあげたいって思うの。」
「………。」
「ナツの為なら…何でもしてあげたいって思うの。」
「………。」
「ナツの事は、どんな事があっても、どんな事でも…許す事ができるの。」
「ルーシィ?」

ルーシィの言わんとする事を理解しようと、
その表情を見るために、少し上体を起こし顔を見下ろすと、
ルーシィは、ニッコリと微笑んでナツを見返してきた。

「ナツの事が…大好きだから。」
「ル…。」
「でもね…。」
「え?」
「でも、今回のお願いだけは聞けない。」
「あ…。」

(突き…放される…か…?)

こんな事をしたのだ…。
その理由が、歪んだ愛からくるものでも…
事実、この手で…ルーシィを殺そうとしたのだ。

普通であれば、許せる筈がない。
普通であれば、怖くて…傍に居ようなどと、思う筈がない。

自らの手で、ルーシィを手放す事になる。

この後に告げられるだろうルーシィの言葉に、
胸がチクチクと痛みだし、ナツはギュッと唇を噛み締めた。



キャラ崩壊しすぎww

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