STUDY
七
きっと普通の着メロだったらそのまま続行されていたんだろうけど、なにぶんにもコント。
熱っぽい雰囲気はあっさりとかき消され、なんとも居心地の悪い空気に変化した。
要一さんは小さく舌打ちして、おれの中から指を引き抜く。
そのときにちょっと声が漏れたけど、生理的なものだろう。
っていうか。
助かった?
危うく雰囲気に流されて貞操を捧げそうになってたけど、助かったと思って正解なんだよな。
だって、おれにソッチの趣味はないんだし。
ぐるぐると都合のいい考えを巡らせながら、ハッとして身体を起こした。
要一さんが電話に出ている間に、急いで後始末をして下着もジーンズもビシっと着用。
かさかさと要一さんから距離を置き、テーブルを盾にした。
「オマエ、明日話あっから覚えとけ。……ああ?ざけんなボケ、ソッチの都合なんか知ったことか。いいか、忘れんなよ」
電話の相手は着信からして例の友達だろう。
ありがとう、といっていいのか、こうなった原因でもあるから微妙なとこだけど、辛うじておれの操は守られた。
相手に喋る余裕も与えず、要一さんは一方的に電話を切った。
携帯をたたんで、「はー……」と溜息をついてガシガシ頭を掻く。
そしておれを見た。
「なっなんだよ!まだなんかする気かよ!」
「……悪かったよ」
「う……?」
要一さんはなんとなくバツが悪そうな顔をして、ちょっと頭を下げて、ゴメンと呟いた。
結局。
その後は勉強どころではなくなり要一さんは帰っていった。
おれと全然目を合わせようとせずに、なんにも言わないままで。
しょげている、という言葉が、一番当てはまる感じだった。
「しょげるの、おれの方なんじゃないの……?」
なんかこう、後味が悪い。
それはおれが、要一さんに対して罪悪感のようなものを抱いているから……だと思う。
断固拒否は出来たんだ。
だけどしなかった。
出来なかった。
要一さんだって、おれが本気で暴れたらやめてたと思うんだ。
だからって、あんなことされて怒ってもいるし傷ついてもいる。
どうしていいか分かんなくて怖かったし、おれがどう思おうが、強姦未遂といっても言いすぎじゃないだろう。
未だに残る異物感が、さっきの出来事をリアルに思い起こさせる。
強引でも、一度熱を灯された身体はまだ疼いてる。
ふと見た床の上に、少しだけ自分の白い体液がまだ残ってて。
ティッシュで拭っていたら、だんだん目頭が熱くなってきた。
ああ。
今頃になって涙が溢れてくるなんて。
だって、やっぱり怖かった。
怖かったんだよ。
「な、なんだよ…っく、いきなり、ヒック、こえーよ馬鹿……っ」
床の上に新たな体液。
今度は無色透明。
おれはしばらくひっそり泣いた。
情けないけど、涙が止まらなかった。
頭の中ぐちゃぐちゃで、自分の思ってることがよく分からなくて、泣くしかなかった。
その時のおれには勿論分かってなんかいなかったんだ。
よもや、そこに淡い想いが存在していただなんて。
わかんないよな、普通。
―終―
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