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STUDY

 
 光は五分くらい、楽しそうにくだらない話をして「まったねーん」と去っていってしまった。
 要一さんが来る日は毎回こうだ。

「さぁ、続きやっか」
「へーい」
 どうにもテンションの低い勉強タイムだった。
 暑くてやってらんない。
 次に与えられたノルマをのろのろこなしながら、ちゃんと頭に入っているのか、自分でも謎だった。

 出世払いでエアコン買ってもらおうかなぁなんて考えていたら、要一さんの携帯がいきなりコントを始めた。
 某お笑いコンビの着メロ……着ボイス?着コント?なんだけど、何回聞いてもつい「ぷふっ」と笑ってしまう。
 これ、公共の場所なんかで鳴り響いたら恥ずかしいんじゃないだろうか。

「同じネタでよく何回も笑えるな、お前」
「だって面白いじゃん、つーか早く出ろよ、ネタより延々リピートのが可笑しいっつの!」
 いえてる、とニヤニヤ笑いながら要一さんは三回目のネタでやっと電話に出た。

「なんだよ」
 出るなりこれだ。
 まぁ相手がわかってればそんなもんか。
「ん?………ああ?なんだまたかよ……ああ。……うんうん、分かったから。明日聞くから。………はいはい、今バイト中だから、明日な」
 そう言って、ぷちりと切ってしまった。
「友達?」
 なんとなく聞いてみただけだったんだけど。
 要一さんは携帯をたたんでテーブルに置きながら、こっくり頷いた。
「うん。カレシと喧嘩したってさ」
「……そんなあっさり切ってよかったの?」
「ん?いいよいいよ、オンナじゃあるまいし、放っときゃいいの」

 ん?
 しばし沈黙。
 要一さんは参考書をぴらぴら捲ってる。

 今なんてった?
 この人、なんか変なこと言わなかった?

「オンナじゃあるまいし?」
「おぅ、大の男が喧嘩くらいでメソメソ電話してくんなっつーの。なぁ?」
「いや、なぁ?じゃなくて」
 カレシと喧嘩したんだろ?
 大の男なんだろ?

「あ、俊和君が混乱してる」
 するだろ。
 今おれは未知の世界を垣間見たんだぞ。
 大の男がカレシと喧嘩して?
 国語の授業ならバツがつくんじゃないだろうか。
「えっと、えっと……」
「だって、ゲイだし」
「あ、あっそう、へぇー……面白い友達いるんだねぇ」

 世の中は広い。

 けど、身近にそんな趣向の人間を友達に持つ人がいたとは。

「明日はまた愚痴大会だなぁ、だりぃなー」
「……ま、頑張ってよ」
「うん」

 おれはもう、核心に触れないようにそこで会話を切った。
 要一さんは普通に、本当に普通に返事をして、また扇風機のストーキングを始める。しかも扇風機に向かって「あ〜〜」とか言ってる。

 いよいよおれの頭に参考書の文字は入らなくなっていた。

 そこでおれは不意に「待てよ?」と思う。
 なにか、要一さんに彼女がいないっていうのが妙に不自然な気がしたから。
 全然、不自然でもなんでもないのに、その時のおれはそう思ってしまった。

 まさかねぇ、とその横顔に視線を注いでいたら目が合ってしまった。
「あん?なに見てんだよ」
 おれはなぜかその瞳にドキリとして、ノートに視線を戻す。

 この人、なんか変なフェロモン出してんじゃないだろうか。

 ドキドキしながら、おれはそんなしょうもない事を考えていた。
 

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あきゅろす。
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