月下美人 「ほら、庭を見てください」 「なにかな」 「去年挿し木していた紫陽花が花をつけていますよ」 「去年挿し木……?」 「ええ、少し淋しい庭だったので」 「いやそれはいいけど君、いつの間に?」 「だから去年。綺麗ですねぇ、淡い水色に桃色がさして」 「まだ一緒に住んでなかったどころか、君を庭に通した覚えも……」 「なんだか鬱蒼とした庭でしたよね。お手入れ大変だったんですよ」 「……ハッ、気に入っていた月下美人がなくなっているのだけど、まさか」 「ああ、毎晩咲く花があるのだから、構わないでしょう」 「えっ、いやあの、情緒というか……ハイ」 おしまい [前] [戻る] |