に
藤太と惣次。
彼等は、小さな村の庄屋の家に生まれた。
蔵に作られた座敷牢へ兄の藤太だけが入れられたのは、村の祈祷師が不吉の影を見たからだという。
それを聞いた時、弟の惣次は馬鹿馬鹿しいとは思ったが、悲しいかな彼等の父親は信心深かった。
何度か説得を試みたものの、父親は頑なに拒絶するばかりだった。
兄が不憫で仕方がなかった。どうにかして外へ出してやりたいと、惣次は常から考えていた。
そんなある日、惣次は少し早めに座敷牢へと足を向けた。
***
(兄さんは何故、大人しく従ってるんだろう)
父親に対する苛立ちもあったが、兄は兄で文句ひとつ言わず閉じ込められている。
いつしか惣次はそれをも疑問に感じ始めていた。
牢から出たくはないのかと問えば、藤太はほんの少し憂いを帯びた瞳で惣次を見たものだ。
その表情に、惣次は幾度か心の臓を鷲掴まれるような心地にさせられたことがある。
彼等は双子だけれど、決して似ている双子ではなかった。
精悍で男らしい惣次に比べて、牢暮らしが長いせいか藤太は肌も白く、なにより骨格が細い。
女のように繊細な造りをした顔と相まって、それは同じ男とは思えぬ程に美しい青年だった。
(無理にでも連れ出してやるべきなのか)
そんなことを考えながら蔵へ入り、半地下にある座敷牢への梯子を降りたとき。
奥から微かな、途切れ途切れの声が聞こえてきた。
それがなんであるか、惣次にはすぐに解った。
(まずいところに来てしまったか……)
兄の藤太が漏らす、熱の篭った艶のある吐息。
男であれば、しない方がおかしな話だ。
藤太は惣次の存在に気付かず、自慰に耽っていた。
困ったな、と思いながら、惣次はそこから動けなかった。
して当たり前だし、今までも牢の中に青い香りが残っていたことなど何度もあった。
だけどいざ目前にすると、藤太の普段は物静かなたたずまいとの落差に戸惑いを覚えてしまう。
そしてなにより、藤太のその姿を見たくて仕方がない自分がいたのだ。
それにこそ彼は、戸惑った。
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