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じゅうろく
 
 合わさる唇の隙間から、湿った音色が風に乗って拡散する。
 それにさえ酔いしれて、随分長く口付けた。

 やがて啄むように唇に触れながら社の顔が離れていき、夢の残滓がちらちら煌めいて二人の間に糸を引いた。
「……お前ってホントわかんねぇな」
「謎が多いほど追っ掛けてみたくなるだろ」
「追っ掛けさせたいの?」
「どうだろうね」

 拘束が緩んだ隙に、つ、と社の身体を押し退けて更紗は大地へ舞い降りる。
 樹上から身を乗り出し、社は声を張った。
「次はどこ行くんだよ」
「適当に」
 社の問いに素っ気なく答え、今しがた夢を喰らっていた屋敷を指差す。
「惣次に悪夢の種を残しておいた。お前にやるよ」
「そりゃどうも」
 などと返事をしながら、社に惣次の悪夢を喰らう気などさらさらない。
(一生悪夢に苛まれてろ)
 くだらない嫉妬心だとは思うが、そのくらいの意趣返しは許してもらいたいところだった。

「可愛い貘ちゃんはいつになったら俺に堕ちてくれるのかね……」
 さっさと走り去る細い後ろ姿を眺め、聞こえないであろう距離まで離れて社はぽつり独りごちた。

 つもりだったのだが。

「貘って言った?」
 いきなり頭上から声がして、ぎくりと冷や汗をかく。
「言わない言わない、生粋の夢魔様にそんなこと」
「そう?」
 ひらりと社の隣に降り、にっこり笑いながら冷や汗を滲ませる頬に接吻ひとつ。
「じゃあ、またね。お仲間さん」
「はい……」
 そして今度こそ、更紗は姿を消した。

「……もしかして、とっくの昔に堕ちまくってんの、俺の方?」

 妙に熱を持つ頬を撫で、社はげんなり呟いた。






―終―

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