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じゅうご
 
 いつも味見と称して、食べた夢の半分は持って行かれる。
 だが、そう毎度毎度盗られるわけにはいかない。
「……ケチ」
 口を尖らせ、青年は仕方ないとでも言いたげに、更紗の髪にぴたりと顔を埋めた。
 スッと匂いを嗅いで、更紗の肩を抱く腕に力を篭める。
「人間のオスの匂いがする」
「………」
 淡々とした青年の声に、更紗は返事を返さなかった。

「更紗」
 吐息のような声が、耳朶をくすぐった。
 青年の唇が、耳たぶをそろりとなぞる。
 更紗は小さく呻いて身じろいだ。
「人間のニオイなんかつけてくるなよ」
「私の、勝手だろ……」
 着物の袷に青年の手が滑り込んでくる。
 更紗の肌の感触を楽しむようにゆっくりと腹を撫で、胸を撫で、やがて柔らかな突起に微かに触れた。

 ふるりと身体を震わせ、更紗は熱っぽい吐息を零して目を閉じる。

 だが、彼はその手首を掴み、それ以上の狼藉を許さなかった。
「あまり気安く触るな、社」
「……そういうのは肩抱いた時点で言えよ」
 さも不満そうに、それでも社はあっさり手を引いた。
 ふっと笑い、更紗は僅かに下の位置から社の顔を見上げる。
「何度も言うけど、お前にはやらないことにしてるから」
「意味わかんねぇ。なんでだよ、なんで?」
「さて、なんでだろね」
「じゃあこっち貰うからいいや」
「やし……」
 更紗がなにかを言う前に、社は素早くその唇を塞いでしまった。
 抗おうにも、頭も身体もきつく拘束されて更紗は動きがとれない。

「…ン……っ」
 いつもこうして食べた夢を横取りされる。
 今回もまた、スルスルといくらか吸い取られていく。

 なのに。
 生きる糧を奪われるのに、それなのに、この男の口付けは気持ちをとろけさせる。拒めない。

 質が悪い。

 やがて珍しく味見程度に更紗の糧を奪った後、社は少し唇を離して囁いた。

「嫌なら、よす」
「嫌じゃない」

 即答して、今度は更紗から口付けた。

 いまいましいことに、本当に嫌ではない。

 咥内を犯す社の、自在に動く舌が好きでたまらない。
 噛み付くように舌を絡め合い、吸いついて離さなかった。
 

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