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じゅうさん
 
 ぎょっとして、撫で摩っていた藤太の肩を掴んだ。
「……どうした、惣次」
「い、いえ……」
 浮かんだ情景がやけに生々しくて、背中が冷えた。

 もがく腕。
 強引に開かれた脚や、 腿を伝う赤の混じった白い体液。
 啼き、赦しを請う唇。
 知り得る限りの、性的な加虐。

 そのどれもに惣次は覚えがあった。
(馬鹿な……)

「わたしを、どうする……?」
「あ……っ」
 振り向いた藤太の顔が笑っていた。
 月の光に照らされ、妖艶に、美しく。
「思い出せよ、惣次――お前は」
「あ…あ…」

 そうだ、僕は一度ならず――。

「牢から出ることを拒んだわたしを、何度も犯して」
「や……めろ」
 惣次の頬を撫で、薄く笑いながら藤太が唇を寄せてくる。

 それは藤太のようで、まるで別人にも見えた。
 異様な光を放つ瞳に事態の奇怪さを感じ、惣次は怯えた。

 目の前で笑う藤太の首から下が、いつの間にか鮮やかな真紅に染まっている。

 知っている。
 この姿を、惣次は過去に見た。

「誰だ、お前……!」

「……さぁて」

 口の端を上げて、藤太でないものが惣次の首に腕を回してのしかかる。
 逃げようにも惣次の身体は動かない。
 さっきまでの情事の余韻など、霞のように消え失せた。
「惣次」
「誰だ……誰なんだ、おま……!」
 唇が触れて、惣次は言葉を奪われた。
 世界が歪み、記憶が甦る。

 藤太は死んだ。
 惣次から奪った護身の太刀で、首を掻き切った。

(そうだ、兄さんは)

 自分にも太刀を向け、なにか言わなかっただろうか。
 泣きそうな、青ざめた顔で、なにか。

(何故思い出せない……)

 唇を吸われているうちに、どんどん記憶が抜けていく。
 この接吻の感覚にも、何度も覚えがあった。
「……ぅ」

 なにかを吸われている。

 この藤太に化けた何者かが、自分の大切なものを奪っていく。

(嫌だ……奪わないでくれ……消さないでくれ)

 ――教えてやろうか――

 薄れる意識の片隅に、藤太のものではない声が、涼しげに響いた。
 

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あきゅろす。
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