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☆お題小説☆
君の髪にキス(高律)

「小野寺」

「はい?」

振り返った俺の頭に高野さんが顔を埋めた。

「―――なっ!!!ななな、何やってんですか!」

俺は慌てて離れる。

かかとを後ろのデスクの脚にぶつけてドッと音がした。

「髪、いい香りしたから」

ここは丸川の社内である。

部署には今、俺と高野さんしかないなけど。

それでも、場所を考えるということをしろよ!

したいときにしたいことをして許されるのは子供だけだ。

「じゃあ、家ならいいのか?」

「意味が分かりませんセクハラはやめてくださいそれではお疲れ様です」

相手に言い返す隙を与えない。

俺は資料をまとめてさっさと帰る。

俺をからかうのもいい加減にしてほしい。



高野さんが触れたところがくすぐったくて、何度も何度も髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。

香り?

前髪を鼻の近くに引っ張ってきて、匂いを嗅ぐが何の匂いもしない。

「きっと、煙草の吸いすぎで鼻がおかしくなってるんだ……」

きっとそうだ。



その日、いつもより念入りに髪を洗う自分がいた。

違う。

高野さんなんかと関係ない。

今日は結局汗かいたし。

高野さんの言ったことを意識してるわけではない。

今日はたまたまちょっと時間があるし。

ただ、それだけ。

高野さんとは全く、全然関係ないんだから!



「あ、おはよう、小野寺」

「へ!?お、おはようございます………」

玄関のドアを開けた途端、鉢合わせた。

ちょっと眠そうな高野さんの顔。

にしても、まるで待ち伏せていたかのようなタイミング。

「なんだ?俺が出てくるの待ち伏せてたのか?」

同じこと考えてた…!?

「そ、それはこっちのセリフです」

「まぁいい、一緒に行こう」

えー…嫌だ。

「ひとりで行きます………」

「はぁ?どうせ行き先一緒だろ?」

でも、嫌なのだ。

高野さんが隣にいると、自分がおかしくなりそうで。

好きになるはずがないのに、胸がドキドキして。

「おら、行くぞ」

半端無理やりエレベーターに押し込まれた。

「ちょっ……!」

「なんだ?照れてんのか?」

「意味が分かりません」

高野さんはバカにしたように笑う。

あ、この人がこういう笑い方したときはろくでもないことが起こる。

というかこの人が起こす。

逃げよう。

だけど、ここは狭いエレベーターの中。

「小野寺」

高野さんが顔を寄せた。

「―――!?」

髪にキス。

「ちょっ!!!高野さ――」

「今日もいい香り」

そう耳元でささやかれただけで、体が固まってしまう。

顔が赤くなってしまう。

心臓の鼓動が早まってしまう。

どうしようもなくなる。

だから、嫌なのに。

「いつまで突っ立ってんだ?」

高野さんの声でハッとする。

エレベーターは一階についていて、扉は開いていた。

「放って行くぞ」

「ど、どうぞ行ってくださいっ!」

と言い返しつつも足が早まる。

憎たらしい笑みを浮かべて待っていた高野さんと並んで歩く。

今日も1日頑張ろう。


END

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