☆小説☆ A こんなことって本当にあるのか? 信じがたい話だが、実際目の前に10年前の高野さんがいる。 「何か変なものでも食べたんですか?」 「そんなことしねーよ」 「どうやったら戻るんでしょう」 「さぁな」 でもいいじゃないか、と高野さんが言う。 「今日は休みだ。お前の大好きな『嵯峨先輩』がいるんだぞ?何かしよう」 「は?嫌ですよ。俺は今日昼まで寝て、午後からDVD見て過ごす予定だったんです」 「じゃあここで寝ていいぞ。DVDも持って来い」 「ヤです!」 性格は嵯峨先輩じゃない! 高野さんそのものだ。 でも、その姿にやっぱりドキドキしてしまう。 結局俺は高野さん宅にしばらく居ることになった。 「宅配便とか、近所の人が来たら、ビックリされるだろ?お前に代わりに出てもらう」 「いや、俺が出ても相手さんはビックリでしょうよ」 「同棲してる者ですって言えばいいんだよ」 「してませんから!高野さんが出て、『弟です』とでもいったほうが説得力あります」 「……む」 今は高野さんのほうが背が低い。 おまけに少し、目元とか柔らかな雰囲気で。 本人はムッとした顔のつもりだろうが、 上目遣いの下からの視線じゃ可愛いだけ。 どうしよう高野さんを可愛いと思っちゃうなんて。 「学ランとか着てやろーか?」 「う………」 いつもの高野さんなら、結構です、と即答しているところだが、 今目の前にいるのは優しく微笑む嵯峨先輩。 しかも、学ラン! 正直見たい。 「お前って素直じゃないな」 高野さんが笑う。 ああ、むかつくのに、憎めない。 10年前とはいえ、本気で惚れた相手。 あまつさえ、初恋の人。 顔を真っ赤にして、悶々と考えていると、 「可愛いな」 「……高野さんに言われたくないです」 少なくとも、今の高野さんには。 「襲いたくなる」 「な……っ」 少し距離を置いてから、はたと気づく。 「今の高野さんになら勝てますよ、きっと」 背も俺のほうが高いし、大の大人と高校生の体格だ。 押し倒されない自信がある。 「やってみなきゃ分からないぞ?」 高野さんがそっと腰をうかす。 「え……!?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |