☆小説☆
D
起きると車は停止していた。
家、ではない。
どこか田舎の空き地。
なぜ?
隣の席では小野寺が寝息をたてていた。
10年前からあまり変わらない、あどけない寝顔。
無防備なやつ。
俺はその唇にキスを落とす。
何かが頬を掠めて、くすぐったくて、目が覚めた。
「………んっ」
高野さんがいた。
すぐ目の前。
もしかしたら夢かもしれない。
俺はまた、先輩を夢を………。
そんな夢を見たって、もう10年は確かに経っていて、先輩はいないのに。
なぜか、涙が出そうなにる。
先輩は………高野さんは驚いた顔をする。
「なんでそんな泣きそうな顔してんだ?」
そう言う高野さんと、先輩が重なる。
やっぱり無理。
嵯峨先輩と高野さんは同じ高野政宗で、俺の初恋の人で、最悪な上司。
再会しなきゃ、俺は勘違いしたまま、高野さんを、嵯峨先輩を大嫌いでいられたのに。
「なんで、また会うんですか………!」
「小野寺?」
「なんで、俺を好きって言うんですか………」
もっとなにか言ってやろう、そう思って開きかけた唇を唇で塞がれる。
「―――んっ………何すんですか!」
「お前が煽ってんだろ?」
そう言って、また唇を重ねる。
この狭い車内で逃げ場はない。
俺は高野さんのキスを受けてしまう。
嫌じゃないと思ってしまう自分がいる。
「こんな人気のないとこに連れてきて、隣で無防備に寝やがって」
「ち、違―――」
道に迷った、とも言えず、黙り込む。
ナビが付いているのに迷うなんて馬鹿にされる、絶対。
「とりあえず、お前が悪い」
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